13『曽祖父』
誕生パーティーには実に様々な人物がいた。特にエルディンとフィリナが仲良く話していた時は心が和んだ。それに、リリスと言う女の子が生まれたと嬉しそうに教えてくれた。
そして、これは意外だったが、レイルとシークもいた。二人が挨拶してきたときは驚いて飲み物を吐き出しそうになった。意外にも仲良くしており、シークに感謝を告げられた。レイルは「超えられない壁があったら我が運び、シークが壊してみせよう」とも言っていた。正直この二人からは恨まれていると思っていたし、私から会いに行く気はなかった。きっと、エリスティアが呼んだのだろう。
少し歩いていると、目の前には真っ黒な服を着た猫背の男性が急に現れた。話したことはないが、私はこの男のことを知っている。オブスキュネー家の当主である、エイドラスだ。
「祝」
何か聞こえた気がする。いや、はっきり聞こえてはいるが、意味がわからない。
「当」
また何か聞こえた。私はとりあえず軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。エイドラス様。オブスキュネー領は此処から遠くて大変だったでしょう」
表情は変わらないし、雰囲気や感情というものが欠落しているような感じがする。まるで空気と話しているような感覚だ。
「無」
ダメだ。笑ってしまいそうになる。この男も『当主の裏条件』が当てはまっている。
「差し支えなければ、一つだけお伺いしたいのですが......宜しいでしょうか?」
エイドラスは『是』と言った。少し迷ったが、肯定の意味で合っていそうだ。
「セラティス様と、レオネス様とはどのような仲なのでしょうか?」
私は少し遠慮気味に聞いた。
「......愚」
私は微笑み、頭を下げた。......彼は良い人だな。
「ありがとうございました。本日はお楽しみください」
彼は「了」と呟き、その場を去った。私は、どうやって当主になったのだろうと思ったが、本人に聞くのだけはやめようと思った。
そして、誰か知っている人はいないかなと思いながら歩いていた。嫌な予感がしたため、足を大きく上げ、ぴょんと跳ねた。そこには、ジェイルズの張った細い膜があった。
「ご機嫌よう。お兄様。今日も素敵な『神威』ですね」
髭を伸ばしたジェイルズが、舌打ちをした。それに続いてマチルダがいつものように口角を上げながら笑っていた。
「素晴らしい演説でしたわ。相談してくれたら、もっと良くして差し上げたのに」
彼女の口角が限界を超えて上がっていた。この女も成長しているようだ。
「介護とそれの子育ては大変でしょう。特にこの五年間は付きっきりだったと伺っております」
メティオスは今年八十六歳だ。マチルダは頻繁に彼の部屋へ行っている。助言をもらっているのか、支持を維持するために面倒を見ているのだろう。
「あら、あなたが心配してくれるなんて、珍しいこともあるのね。とっても嬉しいわ」
こんな小物と遊んでる暇はない。
「感動しているところ申し訳ありませんが、あなた方はここに相応しくないようです」
声に少しだけ『神威』を込めながら言った。すると、マチルダとジェイルズは出入り口の方へ向かっていった。そう思った時、掠れた低い声が聞こえた。
「おい......いつからパーティーで『神威』を使って良いことになったのだ」
......メティオスだ。かつて黒かった髪は今や白に変わっている。杖を突き、背中は曲がっている。弱っているのは明らかだが、不思議な覇気を纏っている。グリーンとブルーのオッドアイから放たれる視線が痛い。
「お久しぶりです。ご曽祖父様。お元気そうで何よりです」
メティオスはマチルダを引き留め、隣に立たせた。威厳を取り戻した彼女は胸を張り、メティオスの手を取り支えた。
「貴様と血縁になった覚えはない。分を弁えろ」
マチルダが得意そうな顔をしている。少し鳥肌が立った気がしたのは、この男が『神威』を放ったからだろう。
「同情します。年は取りたくないものですね」
すると、周りに人が集まってきた。私の周りではなく、メティオスの横や後ろにだ。
「これがどういうことか......流石のあなたでもわかりますよね?」
ほう。まだ口角に成長の余地があったとは。
「まるで狼のようですね。いや、羊と言ったところでしょうか」
野次のような声が聞こえてくる。「追い出せ」「破門にしろ」「立場を弁えろ」と。
「あぁ。すみません。少々分かりにくかったようですね。正確には、『虎の威を借る狐』でしたね」
マチルダの顔がどんどん赤くなる。前に出ようとすると、メティオスが杖で制した。
「精々思い上がっているが良い。必ず後悔することになる」
メティオスがゆっくりと向きを変え、歩き出した。それに倣って取り巻きもついて行った。私は舌を出し、その行方を追っていた。すると、肩をポンと叩かれた。
「アイリス様?」
......しまった。聞かれていたか。
「次期当主のアイリス様? こちらを向きなさい?」
妙に優しい声だが、実は怒っているときの声だということを知っている。
「お婆様、後悔はしていません」
こういうのは先に言うに限る。すると、背後からとても長い溜息が聞こえてきた。
「息が切れてしまいますよ」
私は、心配している風を装った。溜息は途切れることを知らないようだ。
「まあ、いいでしょう。急に汐らしくなられても気持ちが悪いだけです」
なんてことを言うのだろう。誰にでも皮肉を言うわけではない。いや、相手の態度にもよるか。
「あなたの今後を左右する人物のところへ行きますよ」
振り向いてエリスティアの顔を見ると、真剣な表情をしていた。そして、お婆様に連れられて大広間にある階段を上ると、広いわけではないがちょっとしたスペースがあった。そこには、丸テーブルと椅子が数個並んでいる。背を向けるように誰かが座っており、向かい合せになるように座った。私は警戒するように見つめた後、彼女に向かって挨拶をした。