幕間『日記』
神聖イリスティア連合王国は七つの領地に分かれている。旧三柱連合、旧三界連合の領地は基本的にはそのままの領土を維持した。統一後、セイス国が元々の領地を放棄することを宣言し、代わりに島のほぼ中心に王都を建てた。
しかし、王都の建設には、不満が相次いだ。『フルグラル』『レクマリノス』『オプスキュネー』のそれぞれの領地を少しずつ没収したためだ。ドラシオンの前に当時の当主たちは抗議したが、メティオスが国王の正統性を主張した。私はものすごい形相で詰め寄る三人の当主を生涯忘れることはないだろう。
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聖歴四五二年
娘のマチルダが三人目の子を産んだ。後で知ったことだったが、特徴的なオッドアイを持つ子だったらしい。マチルダと会ったら口を出しすぎてしまうため、いないときに会いに行ってみようと思った。
後日、マチルダがいない間にその子を見に行った。美しいプラチナブロンドの髪を揺らし、赤ん坊だというのにやけに落ち着いていた。人見知りもせず、色が異なる瞳でじっと私を見つめていた。私の深淵を覗かれているようで、恐ろしさを感じたことを覚えている。
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聖歴四五三年
私がアイリスにテレイアの話を聞かせていた。まだ一歳だったアイリスは「あー」とか「うー」しか言わなかったが、理解して返事をしているように感じた。『テレイア』のことを話ていた時、部屋のドアの方から音が聞こえた。その時は特に意識していなかったが、今思えば追いかけるべきだったのだろう。
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聖歴四五六年
アイリスが四歳になった。頬にあざが付いている。腕にも、足にも。私はポカンと座っているアイリスを抱きしめ、手を繋いで私の執務室に移動した。何があったのかを聞くと、彼女は淡々と話し始め、母親、兄と姉から虐待を受けたことを教えてくれた。父親はどうしたか聞いたが、それだけは何故か教えてくれなかった。
マチルダにアイリスを引き取ると伝え、どうにかして三人を追放できないかを探った。しかし、父、メティオスの妨害もあり、失敗に終わった。これ以上無理をするのは危険だと判断した。
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聖歴四五八年
アイリスが『神威』を使っていた。私は教えていない。にわかには信じられなかったが、彼女の兄が泡を吹いて倒れているところを使用人が見つけたらしい。まだ六歳の少女が十九歳の男性を失神させたと、家中で話題になっていた。それから、三人はアイリスに関わらなくなった。
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聖歴四六〇年
統一戦争終結から十年。建国から九年が経った。王家は次々と旧三柱連合に有利となる政策を行った。物流、インフラ、予算など。その度に各当主は反発したが、王家はグラネイアの正統性を盾に、全く聞く耳を持たなかった。私はメティオスの判断に痺れを切らし、国政の不当性を理由に、彼を失脚に追い込んだ。
神『テレイア』との『聖約』は思っていた通りのものであった。
少し早かったが、アイリスに通常業務をするよう指示した。結果は完璧。ただし、危うさが見られた。この子は何かが欠けている。理由は分かっているが、私ではそれを与えることができない。
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聖歴四六二年
アイリスが十歳になった。盛大に祝えないことが心残りだったが、二人でいつもより豪華な食事を食べた。顔は笑っていたが、どこか寂しそうだった。
アイリスがイェステル家に仕事に行ったとき、嫌な予感がした。行く予定はなかったが、その後の予定をキャンセルして彼女の元へ向かった。屋敷から出てきたアイリスは、どこか別人のような雰囲気があった。しかし、私に気付いた瞬間、人が変わったかのように頭を下げ、いつものアイリスに戻ったような感覚だった。予定を早めた方がいいかもしれない。
計画を見直していた時、ドラシオンからアイリスと会わせろと言われた。時期尚早だと思っていたが、中立性を指摘されたためそうせざるを得なかった。私は時期の決定権を持つことを条件に、行方を見守ることを誓約した。彼らに会わせてからの方が、いいだろう。
セラティスとレオネスに会わせることは前々から決めていた。セラティスはアイリスと戦わせてやると言ったら喜んで求めに応じてくれるだろうが、レオネスはそうはいかないだろう。どちらか一人ではなく、この二人とかかわらせることに意味がある。
きっかけを探しているとき、エルディンとフィリナの婚姻するとセラティスから話があった。そして、前々から言っていた『神聖域』で戦ってみたいという話を叶えてやる代わりに、アイリスに『稽古』を付けてほしいと頼んだ。彼が私に姿を「見せるな」と条件を付けたのは予想外だったが、あの子なら問題ないだろう。隣にいたレオネスに目配せをすると「我も行こう」と乗ってきた。やはり、彼は期待を裏切らない。
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聖歴四六三年
昨年セラティスとレオネスに会わせたことが功を奏したのか、アイリスの表情が。明らかに明るくなってきている。やはり人とかかわらせることがあの子には必要だったのかもしれない。少なくとも、現状はいい方向に進んでいるように見える。
しかし、ドラシオンは危険だ。彼は数年前からアイリスに興味を持ち始め、一時は養子にするとまで言っていた。流石にそれは諦めたようだが、未だに引き込もうと躍起になっている。王家が直接的にではないものの『神聖域』に入ろうと試みているようだが、今のところ失敗しているようだ。今後も警戒が必要だろう。
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聖歴四六五年
フルグラル家傘下の家門が王家に反逆したとして、当主が処罰された。今までも対立はあったが、比較的穏便に対処されていた。しかし、今回は明確に処罰されている。セラティスは憤慨し、王都に向かおうとしたが、私とレオネスで抑えた。
アイリスが『神威』について教えてほしいと言ってきた。私は『戦闘』以外でも活用できることはあると教えたが、これは教えない方が良かったかもしれない。すぐさま悪戯に活用するようになってしまったから。本当に私は教育者には向いていないなと感じた。
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聖歴四六六年
アイリスが十四歳になった。身体は大きくなったが、精神的な危うさはまだ残っている。思春期だからか、不安定さが増しているようにも思える。簡単に白にも黒にも染まるだろう。できるだけ側に置いておきたい。しかし、それは逆効果だろう。今は自由にさせた方がいいのかもしれない。たまにセラティスやレオネスの元に通っているようだし、いい刺激になれば嬉しい。
ある日、アイリスが『声』が聞こえると相談してきた。どんな声なのかを聴くと「良く分からない。ノイズのようではっきりしない」とのことだった。幾つか心当たりはあったが「調べてみる」と伝えた。『テレイア』ではないと思うが、可能性としては......いや、きっと他にあるに違いない。しかし、そのことについてもアイリスが気付く日は違いだろう。
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アイリスが道を間違わないことを、心から望む。
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私は、『手渡されたもの』をそっと閉じた。込み上げてくるものを必死に抑えながら立ち上がり、大聖堂に向かう。そして『神威』を放ち、宣言した。