ホーム›鋼鉄の行進~陸上戦艦八八艦隊~›第2話 ハワイ陥落【後編】
← 前の話目次次の話 →

第2話 ハワイ陥落【後編】

ゆっくりと砂浜が近づいてくる。いいや、こちらが近づいていた。



「まもなく砂浜に突っ込みます!」



「極低速で侵入せよ! 敵砲台ごと踏み潰す!」



「沿岸砲台は機能を停止しました。おそらく、停電したでしょう」



「これで勝敗は決まった。揚陸艦は乗り上げて機甲部隊並びに戦闘工兵部隊を展開する。高角砲と高角機銃は自由射撃を許可する。各々が思う目標を狙ってよい」



 長門を先頭に陸奥、加賀、土佐がワイキキビーチから強襲上陸を敢行する。砂浜に乗り上げる前に艦本式タービンから艦本式ディーゼルに切り替えると低速モードに移行した。これにより戦艦の巨体を確実に推し進める。それから普段は収納されている履帯が展開された。ディーゼルのパワーを余すところなく使い切るべく小型の転輪を大量に並べている。これは速度を稼げない代わりに不整地でも確実に走破する工夫だった。そもそも戦艦を水陸両用に変えるので速度を求めることがおかしい。



 沿岸砲台は事前に粉砕しきった。日本海軍の艦砲射撃は世界一である。弾着観測機の修正により第二射から直撃を与え始めた。地上の砲台は固定されているため一度当たれば照準を変える必要はない。五月雨式に41cmの徹甲弾を受け続けてコンクリートは粉砕された。また、外れた砲弾も送電線を切断して電力喪失を強いる。ついには黙りこくってしまった。沿岸砲台が沈黙して現地守備隊に抵抗の手段は残されない。チェコの針鼠や鉄条網、対戦車地雷など古典的ながら強力な防御は新時代の前に通用しなかった。誰が想像できるだろうか。戦艦が海を渡って上陸してきた。



「長門を盾に進め! 細々とした標的は戦車がやる! 火力支援はたっぷりだぞ。恐れることはない!」



「戦車前へ!」



「装甲車も突っ込め! 歩兵を支援しろ!」



「揚陸艦も続くからな! 安心しろよ!」



「こんなデカブツに守られるなんて思ったこともねぇ。お袋と親父に見守られている気分だぜ。こいつは負けられない。そらいくぜ!」



「おっと? ありゃ天城たちか?」



「おぉ~ラニカイだったか。そこからも強襲したみたいだ。こいつは今日で終わる」



 長門と陸奥、加賀と土佐の戦艦4隻がワイキキビーチから上陸に成功すると横方向に展開した。洋上では単縦陣だったが鈍重な機動力をフルに使って単横陣に移り変わる。砂浜に並列で突っ込めるほどの度胸は持たなかった。なんせ空前絶後の大作戦のために石橋は叩いて渡る。オアフ島に上陸してしまえば勝利は決まっていた。4隻の隙間を縫うように駆逐艦に護衛された揚陸艦が突っ込む。揚陸艦は原則として砂浜に乗り上げるのみだ。日本海軍の揚陸艦は高速を保って砂浜に乗り上げると履帯を展開して地上走行を始める。側面と背面のハッチが開かれて渡し板を兼務した。その上を中戦車と装甲車が通ってワイキキの町を目指す。



 これで揚陸艦の仕事は終わりと言わせなかった。旧型駆逐艦から譲渡された12cm砲や8cm高角砲、各種高角機銃が支援の砲撃と射撃を実施する。戦車は歩兵の盾を為した。それでは戦車は誰が守ってくれる。母艦が戦車を含めた地上部隊を守った。母は子を守らなければならない。放任主義が一概に悪と言えなかった。もっとも、敵地に放り投げた後は自力で頑張れというのも酷であろう。長門以下が41cm砲の圧倒的な破壊と副砲の物量による弾幕を敷いた。揚陸艦も12cm砲と8cm砲で敵軍の制圧を試みる。



「そりゃワイキキにはいないだろうよ。矢でも鉄砲でも持ってこいや!」



「ふん。主砲の仕事が無くなってしまったな」



「海軍基地に一発ぶち込んでみますか?」



「司令部に撃ち込むと交渉が面倒になる。いい感じのところを探せ」



「観測機に命じます」



 地上戦が始まると一気に暇と変わった。副砲と高角機銃は絶え間なく射撃している。一方で主砲は待機時間に置かれた。敵の本拠地であるが故に慎重に進める。あまりの威力から司令部を一発で吹っ飛ばした。これでは交渉のテーブルにつくことすらできない。砲弾はたっぷりと持参してきたが使わないに越したことはなかった。これからを考えると節約できるところは節約が望ましい。それに無駄な地は流したくなかった。



「市民が逃げまどって海軍基地に向かっています。これでは撃てません」



「むしろ、好機じゃないか。主砲を全て海軍基地に向けよ」



「脅しですな。伝達します」



「それと三川君に電話できるか? 今更傍受されても構わない」



「かしこまりました」



 長門の特徴的な艦橋から見下ろそう。ワイキキを越えたホノルルの市民が逃げまどった。早朝の空襲の時点で避難が指示されている。大戦艦が乗り上げてきたかと思えばゆっくりと行進してきた。これに耐えられるメンタルの持ち主はいるはずもない。心理的な圧力はこの世に存在する脅威の頂点に位置した。しかし、ハワイに安全なところはない。その全土が主砲の射程に収まった。



 陸軍が野戦仕様の重砲と野砲を持ち出す。彼らが発砲した瞬間に位置を逆探知された。長門以下が手を下すまでもない。駆逐艦の主砲が一斉射すれば何も残らなかった。駆逐艦の主砲は海戦において豆鉄砲かもしれない。地上戦においては重砲に匹敵した。さらに、1隻あたり127mm連装砲が3基6門の大火力を秘める。10隻という大所帯で来襲されればひとたまりもなかった。



「大潮に火災発生! 8時方向の山から撃たれたと推測されます!」



「アメリカも骨がある。そう簡単に負けてくれなかった」



「駆逐艦には撃たせるな。無駄弾だ」



「あぁ、三川君かね。ちょうど、うちの駆逐艦がやられた。いや、生きてるが一発かましてくれ」



「天城型の一斉射でお願いします」



「一斉射を希望するそうだ。うん。すまないね」



 ハワイはアメリカ最大の前線基地にして事実上の一つの国家である。したがって、上陸部隊はワイキキビーチだけでなく反対側のラニカイビーチからも強襲上陸を敢行した。例によって、戦艦だが機動力に富んだ巡洋戦艦4隻が突っ込む。長門以下に比べて防御力は劣るが地上走行時の速度や旋回を改善した。それでいて41cm連装砲4基8門は変わらない。ラニカイの位置からして正面に島を置いた。あそこに米陸軍の重砲があって味方の駆逐艦を撃ったらしい。お灸を据えてやらねば気が済まないものだ。



「あの豊かな自然を破壊することは忍びないが勝利のためには致し方あるまい。三川君も残念がっていることだろう」



「長官の演技は見事であります」



「何を言うか。それよりもミッドウェーが気になる。山口君が良くやっているといいが」



「ハワイとミッドウェーなど同時多発的な艦隊の強襲上陸です。これが決まれば最低でも2年は勝利し続けられました」



「天城が発砲! 一斉射です!」



「お、見逃してしまった」



 天城型巡洋戦艦の長女である天城が主砲を一斉射する。このためにわざわざ艦を傾けた。地上の軟目標を撃破する際は榴弾の出番である。豊かな自然に対して人類の火器が向けられた。恨むならば一方的な侵略を行った者どもを恨むがいい。我々は太平洋の解放者なのだ。これは必要な犠牲に過ぎない。41cmの零式弾があっという間に届けられた。山肌が削り取られる。これは悲劇か惨劇か将又はと考える間もなかった。



「国際共通の救難信号が届いています。一時停戦の申し出が来ました」



「ふん。なぜか向こうから停戦をいってきた」



「どうされますか?」



「無駄は嫌いな性分だ。大人しく降伏してくれるならそれでいい」



 1941年12月8日午後3時のことである。



続く
シェア
← 前の話
第1話 ハワイ陥落【前編】
次の話 →
第3話 八八艦隊意気揚々と
鋼鉄の行進~陸上戦艦八八艦隊~作者:竹本田重郎
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›鋼鉄の行進~陸上戦艦八八艦隊~›第2話 ハワイ陥落【後編】
← 前の話目次次の話 →

第2話 ハワイ陥落【後編】

ゆっくりと砂浜が近づいてくる。いいや、こちらが近づいていた。



「まもなく砂浜に突っ込みます!」



「極低速で侵入せよ! 敵砲台ごと踏み潰す!」



「沿岸砲台は機能を停止しました。おそらく、停電したでしょう」



「これで勝敗は決まった。揚陸艦は乗り上げて機甲部隊並びに戦闘工兵部隊を展開する。高角砲と高角機銃は自由射撃を許可する。各々が思う目標を狙ってよい」



 長門を先頭に陸奥、加賀、土佐がワイキキビーチから強襲上陸を敢行する。砂浜に乗り上げる前に艦本式タービンから艦本式ディーゼルに切り替えると低速モードに移行した。これにより戦艦の巨体を確実に推し進める。それから普段は収納されている履帯が展開された。ディーゼルのパワーを余すところなく使い切るべく小型の転輪を大量に並べている。これは速度を稼げない代わりに不整地でも確実に走破する工夫だった。そもそも戦艦を水陸両用に変えるので速度を求めることがおかしい。



 沿岸砲台は事前に粉砕しきった。日本海軍の艦砲射撃は世界一である。弾着観測機の修正により第二射から直撃を与え始めた。地上の砲台は固定されているため一度当たれば照準を変える必要はない。五月雨式に41cmの徹甲弾を受け続けてコンクリートは粉砕された。また、外れた砲弾も送電線を切断して電力喪失を強いる。ついには黙りこくってしまった。沿岸砲台が沈黙して現地守備隊に抵抗の手段は残されない。チェコの針鼠や鉄条網、対戦車地雷など古典的ながら強力な防御は新時代の前に通用しなかった。誰が想像できるだろうか。戦艦が海を渡って上陸してきた。



「長門を盾に進め! 細々とした標的は戦車がやる! 火力支援はたっぷりだぞ。恐れることはない!」



「戦車前へ!」



「装甲車も突っ込め! 歩兵を支援しろ!」



「揚陸艦も続くからな! 安心しろよ!」



「こんなデカブツに守られるなんて思ったこともねぇ。お袋と親父に見守られている気分だぜ。こいつは負けられない。そらいくぜ!」



「おっと? ありゃ天城たちか?」



「おぉ~ラニカイだったか。そこからも強襲したみたいだ。こいつは今日で終わる」



 長門と陸奥、加賀と土佐の戦艦4隻がワイキキビーチから上陸に成功すると横方向に展開した。洋上では単縦陣だったが鈍重な機動力をフルに使って単横陣に移り変わる。砂浜に並列で突っ込めるほどの度胸は持たなかった。なんせ空前絶後の大作戦のために石橋は叩いて渡る。オアフ島に上陸してしまえば勝利は決まっていた。4隻の隙間を縫うように駆逐艦に護衛された揚陸艦が突っ込む。揚陸艦は原則として砂浜に乗り上げるのみだ。日本海軍の揚陸艦は高速を保って砂浜に乗り上げると履帯を展開して地上走行を始める。側面と背面のハッチが開かれて渡し板を兼務した。その上を中戦車と装甲車が通ってワイキキの町を目指す。



 これで揚陸艦の仕事は終わりと言わせなかった。旧型駆逐艦から譲渡された12cm砲や8cm高角砲、各種高角機銃が支援の砲撃と射撃を実施する。戦車は歩兵の盾を為した。それでは戦車は誰が守ってくれる。母艦が戦車を含めた地上部隊を守った。母は子を守らなければならない。放任主義が一概に悪と言えなかった。もっとも、敵地に放り投げた後は自力で頑張れというのも酷であろう。長門以下が41cm砲の圧倒的な破壊と副砲の物量による弾幕を敷いた。揚陸艦も12cm砲と8cm砲で敵軍の制圧を試みる。



「そりゃワイキキにはいないだろうよ。矢でも鉄砲でも持ってこいや!」



「ふん。主砲の仕事が無くなってしまったな」



「海軍基地に一発ぶち込んでみますか?」



「司令部に撃ち込むと交渉が面倒になる。いい感じのところを探せ」



「観測機に命じます」



 地上戦が始まると一気に暇と変わった。副砲と高角機銃は絶え間なく射撃している。一方で主砲は待機時間に置かれた。敵の本拠地であるが故に慎重に進める。あまりの威力から司令部を一発で吹っ飛ばした。これでは交渉のテーブルにつくことすらできない。砲弾はたっぷりと持参してきたが使わないに越したことはなかった。これからを考えると節約できるところは節約が望ましい。それに無駄な地は流したくなかった。



「市民が逃げまどって海軍基地に向かっています。これでは撃てません」



「むしろ、好機じゃないか。主砲を全て海軍基地に向けよ」



「脅しですな。伝達します」



「それと三川君に電話できるか? 今更傍受されても構わない」



「かしこまりました」



 長門の特徴的な艦橋から見下ろそう。ワイキキを越えたホノルルの市民が逃げまどった。早朝の空襲の時点で避難が指示されている。大戦艦が乗り上げてきたかと思えばゆっくりと行進してきた。これに耐えられるメンタルの持ち主はいるはずもない。心理的な圧力はこの世に存在する脅威の頂点に位置した。しかし、ハワイに安全なところはない。その全土が主砲の射程に収まった。



 陸軍が野戦仕様の重砲と野砲を持ち出す。彼らが発砲した瞬間に位置を逆探知された。長門以下が手を下すまでもない。駆逐艦の主砲が一斉射すれば何も残らなかった。駆逐艦の主砲は海戦において豆鉄砲かもしれない。地上戦においては重砲に匹敵した。さらに、1隻あたり127mm連装砲が3基6門の大火力を秘める。10隻という大所帯で来襲されればひとたまりもなかった。



「大潮に火災発生! 8時方向の山から撃たれたと推測されます!」



「アメリカも骨がある。そう簡単に負けてくれなかった」



「駆逐艦には撃たせるな。無駄弾だ」



「あぁ、三川君かね。ちょうど、うちの駆逐艦がやられた。いや、生きてるが一発かましてくれ」



「天城型の一斉射でお願いします」



「一斉射を希望するそうだ。うん。すまないね」



 ハワイはアメリカ最大の前線基地にして事実上の一つの国家である。したがって、上陸部隊はワイキキビーチだけでなく反対側のラニカイビーチからも強襲上陸を敢行した。例によって、戦艦だが機動力に富んだ巡洋戦艦4隻が突っ込む。長門以下に比べて防御力は劣るが地上走行時の速度や旋回を改善した。それでいて41cm連装砲4基8門は変わらない。ラニカイの位置からして正面に島を置いた。あそこに米陸軍の重砲があって味方の駆逐艦を撃ったらしい。お灸を据えてやらねば気が済まないものだ。



「あの豊かな自然を破壊することは忍びないが勝利のためには致し方あるまい。三川君も残念がっていることだろう」



「長官の演技は見事であります」



「何を言うか。それよりもミッドウェーが気になる。山口君が良くやっているといいが」



「ハワイとミッドウェーなど同時多発的な艦隊の強襲上陸です。これが決まれば最低でも2年は勝利し続けられました」



「天城が発砲! 一斉射です!」



「お、見逃してしまった」



 天城型巡洋戦艦の長女である天城が主砲を一斉射する。このためにわざわざ艦を傾けた。地上の軟目標を撃破する際は榴弾の出番である。豊かな自然に対して人類の火器が向けられた。恨むならば一方的な侵略を行った者どもを恨むがいい。我々は太平洋の解放者なのだ。これは必要な犠牲に過ぎない。41cmの零式弾があっという間に届けられた。山肌が削り取られる。これは悲劇か惨劇か将又はと考える間もなかった。



「国際共通の救難信号が届いています。一時停戦の申し出が来ました」



「ふん。なぜか向こうから停戦をいってきた」



「どうされますか?」



「無駄は嫌いな性分だ。大人しく降伏してくれるならそれでいい」



 1941年12月8日午後3時のことである。



続く
シェア
← 前の話
第1話 ハワイ陥落【前編】
次の話 →
第3話 八八艦隊意気揚々と
鋼鉄の行進~陸上戦艦八八艦隊~作者:竹本田重郎
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません