第3話 八八艦隊意気揚々と
ハワイの戦いは終わった。
アメリカ領ハワイを代表してハズバンド・キンメル海軍大将は条件付きの降伏を承諾する。日本軍も欲を出さなかった。とりあえずハワイを抑えることが出来ればよい。ここで交渉が拗れて地上戦が再発するよりも確かな勝利を目指した。市民を巻き込んだゲリラ戦が起こると面倒極まりない。
その条件とは太平洋艦隊の生存艦は武装を解除するが負傷者や市民を載せて退避することだ。あまりの攻撃によって設備は徹底的に破壊されている。日本の管理下で復旧することは必至としておいた。名誉ある負傷を負った兵士や罪の無き市民を束縛するわけにいかない。ハワイを統治するに足枷となることは言うまでもなかった。日本としても歓迎できるが武装解除と雖も五体満足の軍艦を取り逃がしてしまう。一応は米軍に逆襲の余地を残した。
それでも勝ったことには勝ったのである。
「ハワイに日の丸が翻った。カメカメハ大王もお喜びになられている」
「しかし、ハワイの復旧は前途多難であります。港湾施設は壊滅しており、飛行場も穴ぼこたらけ、八八艦隊を収容するところも探しています。一旦は陸地にいますが海洋に戻りたく」
「わかっている。何のためにミッドウェーも狙った。ミッドウェーを前哨基地にしてハワイ復旧の時間を稼ぐ。第一航空艦隊が進出したのも航空機により抑えるためだ。ミッドウェーは無条件降伏で決まっている」
「空母も上がってしまえば飛行場を復旧する必要がありませんからなぁ。もっとも、今ごろは周辺を警戒中でしょうが」
「八八艦隊の戦艦に始まって重巡洋艦と軽巡洋艦、駆逐艦に至った。今となっては軽量級の砲艦が揚陸艦と協同する。本当の機動艦隊は水陸両用を指していた。この山本五十六をアッと言わせた担当の顔がこびりついている」
「彼は元気ですか?」
「あぁ、元気と聞いているが変人らしく、自宅に閉じこもった」
オアフ島を囲むように陸上戦艦が並んだ。本来は港湾施設に収まるところ先日の空襲で壊滅的な被害を受けている。現在は小型艦が損傷艦を曳航するなど片付け中だ。戦艦も収まるぐらいに綺麗になったら移動したい。幸いにも、大規模な燃料タンクを丸ごと頂戴できた。これによりハワイの八八艦隊は安泰である。陸上戦艦の燃費はお世辞にも良好と言えなかった。彼らに燃料が無くては主砲も動かせない。
しかし、米軍がハワイという最重要視する拠点を捨ておくはずがなかった。日米開戦の一発目にハワイ陥落らしい。これが偉大なるジャーナリズムの下に晒された瞬間に逆風が吹き荒れた。これまでのモンロー主義が足を引っ張る。欧州戦線への参戦もドイツの暴挙によるもので正当性を帯びるが偉大な市民は嫌った。対日戦も日本側の仕掛けてきたことだが大敗の受け止めは言うまでもない。したがって、本土に待機する戦力を抽出して奪還に訪れて当然だった。ハワイを抑えてすぐの浮足立っているところが狙い目である。
「長門型に加賀型、天城型とよく用意したものだ。人工石油のおかげであるが陸上戦艦とはな...」
これは一人の狂人が開いた物語だった。
八八艦隊は対欧米を見越して大艦隊を整備する計画だった。その予算と資材は莫大な膨大を誇った故に最低でも10年を見込んで一歩ずつ進める。人工石油の開発に伴う経済発展と軍事拡張により現実的となって一挙に建造を開始した。まずは長門型をブラッシュアップした加賀型を整える。さらに、金剛型のような巡洋戦艦に長門型の打撃力を加えた新巡洋戦艦も浮上した。それぞれの改良型も含めて戦艦4隻と巡洋戦艦4隻である。これが八八艦隊の前期型に該当するとハワイを掌握してしまった。
馬鹿真面目に軍艦と建造してもアメリカを筆頭にする欧米諸国に対抗できるはずがない。質を磨こうにも限界が存在した。何か突飛なことで圧倒できやしないかと広く意見を募集した際に陸上戦艦を拾いあげる。どれだけ戦艦が強力でも島嶼部の地上戦に勝てなければ勝ち戦は負け戦に変わった。なるほど、戦艦を揚陸させるだけでなく陸上戦艦という移動要塞と変えればいい。これで海戦から地上戦まで何でも対応できた。
なんと素晴らしい。
「八八艦隊の後期組も来てほしいところ」
「無茶をいってはいけない。世の中は出来ることと出来ないことに分かれた。彼らは今ごろ各々で南洋を渡っている。どれだけ人工の資源を得ても天然が不要と言わなかった。まずは土台を固めなければならない」
「お話し中に申し訳ございません。天城から三川中将がいらっしゃいました」
「おう、来たか。会議室に通してくれるか。すぐにいく」
「かしこまりました」
まだ一回戦が終わったに過ぎなかった。今後の打ち合わせを予定表に入れている。長門と向かい合うようにした数十キロ先に天城が停泊中だ。金剛型と長門型のハイブリッドのようである。最速30ノットの健脚に41cm砲8門は理想形だが防御力は比較的に劣るために無理は禁物だ。戦艦が上陸している時点で「無理」と思われるだろうが出来てしまったのだから文句は言わせない。
そんな栄光ある長門の会議室に三川軍一がいた。ハワイの米海軍司令部にあった高級そうなコーヒーを差し出される。普段は上司が来るまで我慢だが今ばかりは香りに誘われてしまった。ちょうど一口を含んでいる時に上司が到着する。カップ片手に目が合って気まずくなった。幸いにも、上司は手をひらひらさせている。どうやら、気にするなと言っているようだ。
「最初はどうなることかと思いましたが案外と上手くいきました。今後はハワイを起点に作戦を展開することに」
「そうなるが、陸軍の艦隊がアリューシャンを奇襲する。アメリカに北方から南方まで戦力の分散を強いるが守ることに集中したい」
「同感です。これで図に乗って本土までと言い出す奴は士官だろうと清掃に回します。ミッドウェーも山口中将が制圧したので当面は安泰でしょう。沿岸砲台の復旧はコンクリート船を充当できますが内陸部はそうもいきません。一時の安泰を無駄にしてはならない」
「この作戦を行うために陸軍の要求を呑む必要があった。米豪遮断作戦とかいう。私はオーストラリアの大陸を走破すると夢を掲げてほしいと思うんだが」
「それはまた...ご冗談を」
「さすがに冗談である。ただし、やらないと約束を反故した」
第一にハワイの復旧と機能の増強に努める。ハワイの燃料を元手に米本土までと言い出す者はバカでアホと帝国海軍式より矯正を試みた。上陸部隊と別に待機している工作組が上陸次第に大工事を始める。市民が立ち退いてくれたおかげでオアフ島の開発は大手を振って行うことができた。この間に米軍が襲来した場合はミッドウェーにいる山口艦隊が迎撃する。ミッドウェーで勝利できれば一層も盤石を極めた。
しかし、此度の大作戦は海軍主導と聞かれる。陸軍の作戦を忘れられては困り果てた。現在はマレー作戦とシンガポール作戦、蘭印作戦を実行中にある。海軍も参加しているが陸軍の船団護衛が大半を占めた。その船団も単純でない。海軍が陸上戦艦を整備することに陸軍が何も言わないことがあっては恥辱と知れだ。かといって、いちゃもんをつけて海軍と対立しては締め出される。陸軍は陸軍なりに解釈を加えた戦力を整備してきた。
「しかし、一応の同盟国であるドイツとイタリアがなんと言ってくるか」
「自分の尻は自分で拭いてもらう。我らに断りもなく自分勝手にソビエト連邦に攻め込んだ。ソ連はいずれ制圧する目標だが今は中立に貫徹するのみ。負けようと勝とうと知ったことでない」
「陸上戦艦を寄越せと言ってきそうです」
「無理だ。どれほどの大金を積まれても渡さない。これは独占してこそ威力を発揮する」
「よかったです。長官が賢明でいらっしゃり」
ムッとした表情の山本五十六である。
続く