第3話
「ようやく......帰宅してくださいました」
女性は自宅へとようやく帰宅した。
買い物はかなり長かった。
衣服を見て、アクセサリーを見て、日用品を買い込み、食材を大量に買う。
女性は大量に購入した4袋にもなるものをダイニングテーブルへ置いていた。
エミリアは大きく息を吐いた。
ようやく探偵のように後をつけるのが終わったのだ。
エミリアは女性の後に続いて家へとお邪魔させてもらう。
眷属となり、人から認識されないとはいえ、勝手に家に入るのはためらわれる。
しかし、これもヴェルディアーテの命令には逆らえない。
「おじゃましますぅ......」
小さい声で家の中へと一歩踏み入れたら、後ろのドアをそっと閉じる。
ヴェルディアーテ?
ヴェルディアーテさまは「こんなお買い物ばかり見てられないわ。エミリア、あんたがこの女の顔を見てきなさい」と、言って上空へと飛び立ってしまっていた。
エミリアは取り残され、一人で女性の後を付ける羽目になっていたのだ。
女性はというと、家の中に入っても買ったものをしまうために家の中を歩き回っている。
「フード、取らないんですねぇ......」
エミリアは部屋の隅に立って女性が慌ただしく歩く様子を見ていた。
部屋を見渡すと、どこにでもある普通の家。
ただ、他の家よりも裕福であることはなんとなくわかる。
鏡台には布が掛けられているが、そこには色とりどりの宝石が光っている。
「うわぁ......、きれい」
初めて見る宝石にエミリアは目を奪われた。
「こんな素敵なものを持っているのに顔を隠すなんて」
エミリアは部屋の主を見た。
深く被るフードから見えるのは綺麗な口元だけ。
――風でも起こしてフードを取ればいいじゃない。
ヴェルディアーテの言葉が思い出される。
ここなら、他の人に見られることが無い。
ちょっとだけなら......。
エミリアがヴェルディアーテの真似をして、右手に力を込めて軽く動かしてみた。
ゴオオオオ......
強い風が部屋を吹き荒れる。
「きゃあああああ!」
思いのほか強い風を起こした自分にびっくりして叫び声をあげてしまった。
「なんで? こんな強風なんて聞いてないよ?!」
部屋を見れば、強盗でも入ったのかと思うぐらい散らかっていた。
「うわああああ、ごめんなさいいいいい!」
慌てて膝をついて、片付けようとする。
ふと顔を上げれば、女のフードが取れて顔が見えていた。
「あ、美人さんだ」
美しい美貌を持った女性が急な強風に目をぱちくりしていた。
「なぁに? 美人じゃない」
後ろから不意に声をかけられた。
開いている窓に肘をついているヴェルディアーテ。
ジト目で女の顔を見ている。
「ヴェルディアーテさまぁ?!」
「うるさいわよ、エミリア」
「め、女神様......」
え?! とエミリアは振り返る。
「ヴェヴェヴェ......ヴェルディアーテ様! 見られていますよ!」
「うるさいわよ、エミリア。見せてるのよ」
何の気なしにヴェルディアーテは窓からふわりと部屋へ入り込んだ。
女性は慌てるように跪く。
「いい心がけじゃない」
にっこりと笑うヴェルディアーテは満足そうだ。
「あなた、きれいになりたいのよね? 今の美しさに満足していないの?」
「め、女神さまの美しさに比べると......足元にも及びませんわ」
なんというか、恐れ戦いているように見える女性。
「そりゃあそうよ、私は女神だもの」
ドヤッと謙遜することなくヴェルディアーテは鼻を鳴らした。
「あなたが好きな男に見合う姿に変えてあげるわ。ただ、これは徐々に元の姿に戻る魔法よ」
ヴェルディアーテは右手を上げて女性に光の粒をかける。
「女神様......わたしの願いを叶えてくれるのですか」
「もちろんよ、供物を差し出してくれたから」
ヴェルディアーテは鏡台へと目を向けると、宝石が一瞬で消える。
エミリアにはわかる、教会の神域に送ったのだ。
「あなたへかけた魔法は周囲からの認識をゆがませるわ。あなたは今、好きな男性の理想の姿をしているの。ただし、あなたが鏡を見ても何も変わらないわ。
――鏡は真実を映すから」
女性は目に涙をためる。
「いい、その魔法は半年で徐々にあなたの姿に戻っていくわ。それまでに相手を落とすことね」
ヴェルディアーテは微笑んだ。
女性は何度もお礼を言っている。
エミリアは尊敬のまなざしをヴェルディアーテに向けた。
いつの間にか、この女性が顔を変えたいと思う理由を探し出したのだろう。
ヴェルディアーテさまは、とてもすごい方だ......。
ヴェルディアーテが「じゃあね、幸運を祈るわ」と言えば、エミリアとヴェルディアーテは神域に一瞬で戻っていた。
「わわっ......一瞬で戻ってきちゃった」
それにもびっくりしたが、ひとつになることがある。
「ヴェルディアーテさま、あの女性の姿......私たちから見ても何も変わっていないのは力があるからですか?」
「んー? 何も変えていないわ。あの光る粉は......なんていうのかしら? そうねえ......演出?」
「えええええ?!」
悪びれもなくヴェルディアーテは言い放つ。
「詐欺です!! 詐欺ですよ!!」
「言い方が悪いわ、一応美人の部類じゃない。あんなのを絶世の美女なんかにしたら私がかすんじゃうわ。それに、すでに好きな男とは両想いなのよ?」
ヴェルディアーテは神域に先に送っていた宝石を眺めている。
「わたしはちょっと自信を持たせてあげただけ」
語尾にハートがつきそうなほどいたずらっぽい言葉で宝石を眺める女神がいた。