第2話
トウモロコシが女神の住まう神域に転送されてから4日が経った。
エミリアは手元にカゴをもって、大量のトウモロコシを干している。
これを乾燥させて挽いて粉にすれば色々な料理に仕えると内心ウキウキしていた。
「ねえ~、エミリア~。暇ぁ~」
ヴェルディアーテは神域のトウモロコシの陰に埋もれながら、女神をダメにするクッションに身を預けていた。
その横のサイドテーブルには、朝エミリアが作ったコーンブレッドが一口齧られて置かれている。
「もう! そこ零れてますってば!」
「あらぁ~、たいへーん」
「気のない返事! 掃除してくださいよ!!」
エミリアが眷属になってヴェルディアーテの身の回りの世話をかいがいしく焼いていた。
「さ、仕事しましょ?」
ヴェルディアーテは大きく伸びをして、ドレーブについたパンくずを叩き落とした。
「あ! 外でしてください!」
「うるさいわよ、エミリアのクセに」
ヴェルディアーテはダルそうに左手を外へと払えば、パン屑は一瞬で消え去った。
「え? え?!」
「何よ?」
「昨日まで、必死に私が掃除していたのに......そんな一瞬で!」
ヴェルディアーテがにっこりと美しく微笑んだ。
「とっても、滑稽だったわ」
あははっと楽しげに笑いながらヴェルディアーテが神域から祭壇へと降りてゆく。
「もう!! 待ってくださいってばー!!」
エミリアは言いたいことが言えないまま慌ててヴェルディアーテを追いかけていった。
◇
ヴェルディアーテは自身の石像に腰かけて、祈りを捧げている女性を見下ろしていた。
「天にまします我らが女神ヴェルディアーテ様。
どうか、わたしを誰もが羨む、絶世の美女にしてください。
こんな顔では外を歩けません。
わたしの家で一番価値のある宝石をお供えいたします。......御加護がありますように」
女性は目深にかぶったフードを上げることなく祈りを捧げて、礼拝堂を後にしていった。
「なんていうか、お願いって何でもいいんですねえ......」
エミリアは自分の願いがいかに大層なものだったのかを突きつけられる。
「な、なんですか? ヴェルディアーテ様?」
じっ......とヴェルディアーテはエミリアを見ていた。
綺麗な顔立ちに美しいエメラルドの瞳、ブロンドのウェーブがかった髪はまさに絶世の美女に見つめられ、エミリアは思わず顔を背ける。
「......芋ね」
ポツリとヴェルディアーテが言った。
「......はい?」
「あなた、私の横にいる眷属のクセに芋すぎるのよね」
ヴェルディアーテがエミリアを足先から頭まで視線をなぞる。
「決めたわ、さっきの女の願いを聞き届けてあげましょう!」
ヴェルディアーテはパンッと手を軽快な音で叩いた。
「芋から脱出すれば、あなたの小うるさい小言も聞かなくてもよくなるかもしれないわ」
「なっ!!」
言い返そうと思えば、そこにはもうヴェルディアーテがいない。
周囲を見渡せば、ヴェルディアーテは礼拝堂の窓から上空へと出て行っているところだった。
「ヴェルディアーテ様! 待ってってばあ!!」
エミリアは慌てて後を追いかける。
「遅いわよ、エミリア。さっさと動きなさいよ」
「窓から出るようなお行儀の悪い女神さまには言われたくありません!!」
未だに空を飛ぶことに慣れられず、ヴェルディアーテの後ろをヒョコヒョコついてくるエミリアを楽しそうにヴェルディアーテは見ていた。
「まるで、生まれたてのヒヨコだわ」
軽快に笑うヴェルディアーテに軽く怒りを覚えつつも、事実だから何も言い返せない。
「ねえ、ヒヨコちゃん。さっきの女の顔を隠しているフード取ってきてよ」
「そんな失礼なことできるわけないですよ!」
ヴェルディアーテの失礼極まりない提案をはねのける。
「風でも起こせば一発じゃない」
「ダメです! 隠したいものを無理やり暴くのは失礼ですよ!」
ちぇ~と口を尖らせるヴェルディアーテ。
この女神さまは大丈夫なのだろうかと不安にもなるが、これでも街の教会の女神様。
信者は多い。
「しかたないわねぇ......」
ヴェルディアーテは歩く女性を空から面倒くさそうに見下ろしていた。