第5話
「だって、ベッドが欲しいもの」
家のものをくれるという男を追いかけてヴェルディアーテとエミリアは教会の外に出た。
「あの男の願いはなんだったの?」
「え? 私は知りませんよ? ヴェルディアーテさまが聞いていたから願いを叶えることにしたんじゃないんですか?」
「聞いてないわよ。聞いたのは、家のベッドをくれるって言ったところだけよ」
「違いますよ!?」
誤植も甚だしい。
それほどまでベッドが欲しいのだろうか。
「同じ意味じゃない」
◇
「ヴェルディアーテさま、いました!」
教会の屋根から街を見下ろせば、さっきの男が中央の広場にいるのが見えた。
男の周りには人が輪を成している。
「やるじゃない、エミリア」
えへへ、と笑うエミリア。
広場の中央噴水の上に降り立てば、男の声もしっかり聞こえた。
「先ほど私は、教会に祈りを捧げてきました!! この町長選で勝たせてもらえるようにと!! 女神は私に微笑みます!! 私こそ町長にふさわしい!! 清き一票を!」
声高らかに男は演説をしている。
「だ、そうですよ。ヴェルディアーテさま」
返事がない。
エミリアが振り返るとそこにヴェルディアーテはいなかった。
「また!! もう! どこにいったんですかぁ!!」
エミリアは中央広場を見渡せば、ヴェルディアーテに似ている女性が露店にいるのが見えた。
その横に降り立って顔を覗き込めば、間違いなくヴェルディアーテ。
服が庶民っぽいのは人間に擬態しているからだろう。
「ありがと、おばちゃん」
「いいのよ、いいのよぉ! ヴェルちゃんがたまに遊びに来てくれたらこっちも元気が出るわ」
肉を挟んだサンドイッチを受け取りながらお金を払うヴェルディアーテ。
「ヴェルディアーテさまぁ? 何をされているんです?」
露店から離れてベンチに座っているとエミリアが黒い笑みを見せて話しかけた。
「あんな長ったらしい演説なんて聞いてられないわよ」
んー! と、おいしそうにサンドイッチを頬張るヴェルディアーテ。
「そもそも、そのお金はどこから来たんですか!」
「細かいわねえ、エミリアは。だから小言がうるさいのよ」
教会のお金よ、と悪びれもせずにヴェルディアーテはサンドイッチの最後の一口を口に入れた。
「はいはい、相変わらず言うことが芋なのよ」
ヴェルディアーテは適当に言葉を流し、広場へと目を向けていた。
「エミリア、町長選はいつって?」
「明後日だそうですよ!」
聞いていたんですか?! とエミリアが言っているがそれには答えない。
「んー、じゃあ明後日の夜にでもあの人のお家に行きましょうかしら」
「え、あの人が町長になっていいんですか?」
「ダメなの?」
「他の候補者知りませんよ?」
「ベッドが欲しいもの」
ヴェルディアーテは鼻歌交じりにまた次の露店へと足を向けていた。