第6話
町長選当日、ヴェルディアーテとエミリアは男の様子を朝からずっと見ていた。
どこにでもいる普通の中年男性。
それでもヴェルディアーテが目を輝かせているのは、この男の豪華な家!
客間が4部屋もあり、それぞれに最高級のベッドが置かれている。
さらには女神をダメにするクッションに似たものもある。
「家のもの何でも持って行っていいって言ってたわよね?!」
ヴェルディアーテはウキウキしながらクッションに体を預けている。
「ヴェルディアーテさま、ここはこの人のお家だからそんな失礼なことしたらダメですよ!」
「いいじゃない、もうこれは私のものになるんだから」
既に神力を使ってこの男が当選するように根回しをしている。
「本当にいいんですか? そんな簡単に町長に就任させてしまって......」
「大丈夫よ、ねー!」
ヴェルディアーテはクッションに頬ずりしながら、クッションに話しかけている。
「あなたもこんな家よりも、私のところに来たいわよね! そうでしょう、そうでしょう!」
ヴェルディアーテが大げさな言葉でクッションを抱きしめる。
「エミリアもいらっしゃいよ!」
ヴェルディアーテが指を振れば、エミリアは背中を押されヴェルディアーテの胸元に倒れ込む。
そのままヴェルディアーテに抱き留められる。
「2人で転んでも十分な大きさねぇ」
ヴェルディアーテは嬉しそうにエミリアを抱きしめた。
「そう、ですね」
久々に誰かに抱きしめられたエミリア。
ヴェルディアーテの豊満な胸に押し付けられているが、抱きしめられるのは案外悪くないらしい。
柔らかな感触に目を閉じれば、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇
「わわーー!! 寝ちゃっていました!!」
飛び起きると、柔らかな女神をダメにするクッションでエミリアは熟睡していた。
窓を見れば日が傾いていて、もう夕方になりそうだ。
窓際にあるサイドテーブルにヴェルディアーテが腰かけて、外を眺めている。
「きれい......」
「ん? 起きたの、エミリア。よく寝ていたわねえ、ほら」
ヴェルディアーテがにんまりと指さしたのはクッションについている涎の跡。
「うっそ、そんな!! 人のものなのに!」
「いいじゃない、それ貰っちゃってエミリアのものにしたらいいじゃない」
「そんな! いくつ貰うつもりなんですか!」
ヴェルディアーテは綺麗な顔で笑うだけ。
この女神、もらえるものはもらう気だ......。
ヴェルディアーテが立ち上がる。
「行くわよ、エミリア。町長選の結果が出るわ」
窓を開けて、外に出れば夕方の涼しい風がヴェルディアーテの髪をなぞった。
夕日に光る金髪がまた美しく、エミリアは一瞬だけ見とれる。
窓から飛び立つヴェルディアーテを追いかけて、豪邸の人だかりのところへと向かった。
空から見下ろせば、町長選に当選したのだろう。
「ばんざーい、ばんざーい」と喜びの声が聞こえる。
「勝ちましたね」
「そうね......」
ヴェルディアーテの普段とは違う一言にエミリアは振り返った。
「もらいに行くわよ、供物♡」
気のせいだったかも。
そう思うほど、ヴェルディアーテはウキウキしながら、客室へ戻る。
◇
「まだもらうんですか!?」
もう既にベッドは2つ、女神をダメにするクッションも2つ。
さらには客室にあるテーブルや椅子もどんどん神域に転送していく。
「こんなに置けないですよぉ!」
「部屋を増やせばいいじゃない!」
「そんなことできるんですか!?」
「当たり前じゃない。エミリアの部屋も作ってあげるわねぇ」
楽しそうにどんどん転送していくヴェルディアーテ。
夜になり、空の雲行きも怪しくなってきた。
「一雨きそうですねえ......」
「......時間ね、行くわよエミリア」
「え? どこにですか?」
客室を出て、ヴェルディアーテは屋敷内を歩く。
着いたのは、男の書斎。
中から話声がする。
わずかに開いているドアからエミリアとヴェルディアーテは中を覗き込んだ。
「ははっは、ようやく俺の時代が来たな」
「ええ、町長選おめでとうございます」
「かしこまらんでもいい、お前にはまだまだ助けてもらわんといけんのだからな」
「もちろんですよ、この町に活気を戻すためにも、やるべきことが沢山ありますからね」
「まずは、そうだな。人を集めるようにせんとな」
「ええ、まずは賭博場からですね」
「賭博場!?」
エミリアは思わず大きな声を出した。
女神の眷属でよかった、中の2人に声が聞こえることはなかった。
「ヴェルディアーテさま、知ってたんですか!?」
「うるさいわよ、エミリア。聞いてなさい」
ヴェルディアーテは中を見たまま答える。
中の話はどんどん進んでいく。
「どこに作りますかね」
「広い土地がいるからな......」
「広場をつぶしますか?」
「あれをつぶしたら、見栄えが悪くなるだろう」
「そうですねえ」
「教会をつぶすか。あそこなら土地もあるし、広場にも近い、宿屋にも行きやすい」
「ああ、土地としては最高ですね」
「な、な、なんですって!?」
エミリアが絶句している。
「なんて人を当選させちゃったのですか! ヴェルディアーテさま!! どうしましょう! 私たち住むところなくなっちゃいますよ!」
「うるさいわよ、エミリアのクセに」
ヴェルディアーテはドアから身を離した。
「行くわよ」
屋敷から外に出れば、外は土砂降りの雨。
「うう......、教会はなくなっちゃうかもしれないし、土砂降りの雨......」
大きなため息が出そうなエミリア。
ヴェルディアーテは気にせずに雨の中飛びあがる。
「待ってくださいよぉ、ヴェルディアーテさまぁ!!」
慌てて羽を動かして、ついて行く。
「神域まで転送してくださいよ、びしょ濡れになっちゃいますよぉ」
屋敷の上空にヴェルディアーテはとどまった。
「エミリア、よく見ていなさい」
とても冷たい声だった。
「え?」
「信者ならざるものが、祈りを捧げ、供物を捧げる。そして願いが叶い、尚も神に盾突く者の末路よ」
刹那。
天から稲妻が屋敷へと直撃した。
屋敷に火が付く。
土砂降りの雨の中、火は収まることを知らず火柱を上げていく。
屋敷はあっという間に火に飲み込まれた。