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第3話 有象無象

 今度こそ死んだのか?

 俺は一面が赤っぽくぼんやりとした場所にいる。
 視界は固定されており、歩いたりすることもできない。
 手足を動かそうとすると、抵抗があり、なにかしらに押し返される。
 死ぬ間際なのか、死後の世界なのかはわからない。 
 どちらにせよ、できることは何もなかった。

 今になって、異世界に来て何もしなかったことを悔やむ。
 異世界に転移したから何だっていうんだ。
 生きていたら元の世界に帰れたかもしれないのに。
 言語の違いも気にせずに、身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとしていれば。
 絶望して座り込まずに、もっと早く、動いていれば。
 異世界でも幸せな人生を送るのだと、異世界に対して前向きに向き合うことができていれば。

 そんな後悔で頭が埋め尽くされる。
 異世界でも別に良かったんだ。
 俺が俺として生きているだけで、それでよかったんだ。
 そしていつか、帰る方法を見つけて元の世界に帰る。
 その頃にはもしかすると、異世界に残りたくなるような理由もできていたかもしれない。

 でも、もう遅い。
 俺は何もできずに死んだ。
 殺された理由もわからずに死んだ。

 俺の異世界生活でラノベを書くなら、きっと同人誌よりも薄い物ができるだろう。
 もしかすると、A4の紙1枚に収まるかもしれないな。
 そう思うと笑えてくる。
 俺にとっての異世界なんて、そんなもんだったのだ。

 こんなことなら、バイクの事故でそのまま死んでいれば良かったのに。
 きっと何も気づかずに、幸せなまま人生を終われたのだろう。
 変に生還し、考えたせいで、こんなにも死ぬのが悔しくて、苦しいのだ。

 ......おや、そろそろ終わりかな。

 赤くぼんやりとした世界に小さな光が差し込んできた。
 眩しいな。このまま成仏するのだろうか。
 こんな未練たらたらな俺でも成仏できるんだな。

 光がどんどん大きくなる。
 眩しい。視界が真っ白になってゆく。
 思わず目を瞑る。

 誰かが俺の体に干渉してくる。
 俺の身体に何かがあたる。
 暖かい。恐らく手だ。それにしても大きな手だ。
 俺の胴体を覆うくらいの大きさがある。
 俺はゆっくりと目を開ける。
 

 ......俺の目の前には白髪の老婆の顔があった。

 どういうことだ。誰なんだこの人は。
 というかでかい。でかすぎるだろ。
 俺の身長は170cmくらいだが、それと比較してもこの婆さんはでかい。
 巨人か。巨人なんだろうか。
 そして状況を理解した。俺はこの婆さんに抱かれている。
 恐らく、お姫様だっこのような形だ。

 視力を失ってしまったのか、ぼんやりとしか見えない。
 そのため、しっかりとは分からないが、この老婆は少し不満そうな顔をしているように感じ取れる。
 どうしてこの人は不満そうな顔をして俺を抱いているのだ。俺は何かされるのだろうか。
 そんなことを思っていると、老婆が俺の知らない言語で誰かと話し始めた。
 そして、老婆が大きな手で俺の足に触れた。

 その瞬間、急に視界がぐにゃりと曲がった。
 俺は老婆に逆さ吊りにされていた。

 俺は戦慄した。
 この婆さん、何してるんだ?
 人を逆さに、しかも片手で?
 なぜ? 何の為に?
 俺にそんなに恨みでもあるのか?

 ここは、地獄なのか?
 いや、案外そうなのかもしれない。

 俺は事故で死なずに、異世界に転移するというチャンスを手に入れた。
 にも関わらず、何もできずに死んだ。
 それに対する罰というのなら、俺は何も反論できない。

 状況の整理をしていると、俺は老婆に尻を叩かれた。
 逆さ吊りにされて尻を叩かれた。

 泣いた。これでもかというくらい声を上げて泣いた。
 怖かった。死ぬかと思った。
 いや、既に死んでいるが......
 18歳にもなって大声で泣くのは恥ずかしいって?
 しょうがないじゃないか。怖いものは怖い。
 それは何歳になっても変わらないのだ。

 俺が泣き出すと、すぐに老婆は俺を元のお姫様だっこの姿勢に戻した。
 そして老婆は満足そうな顔で何かを口ずさんでいた。
 俺の視界は緑の光に包まれた。
 特に驚くことはなかった。その光を見たことがあったから。

 緑の発光が終わると、老婆は俺を連れて歩き、大きなタオル1枚を掛けてベッドに横になっている茶髪ロングの若い女性の横に俺を寝かせた。

 地獄を経験したから次は天国か?
 整った顔立ちをした、少し幼さを感じる女性だ。
 そんな女性は微笑みながら俺の頭を大きな手で撫でてくる。

 何故に俺の頭を撫でるのだ。
 恋人でもない女性に、添い寝をして頭を撫でられる。
 これじゃまるで俺が赤ん坊みたいじゃないか。
 
 ん? 待てよ。
 明らかにサイズの大きい老婆と女性。
 逆さ吊りにされて尻を叩くという行為。
 俺を見た時の安心したような女性の笑み。
 
 ......もしかして俺は、赤ん坊なんじゃないだろうか。

 俺の中でそんな仮説が立った。
 昔のドラマかなんかで、泣かない子供を逆さ吊りにして泣かせているのを見たことがある。
 もしかすると、老婆は泣かない俺を泣かせるために、そんな行為をしたのではないだろうか。
 そして俺が産声を上げたことに安心して、茶髪の女性は俺を撫でた。
 うん。全てにおいて辻褄が合う。

 その仮説を検証するべく、重い頭を動かして、自分の手足を見る。

 小さい。
 何も掴めなさそうな貧弱な手だ。
 足はあまり見えなかったが、股の部分には小さな象さんが鎮座していた。

 やっぱりそうだ。
 弟も妹もおらず、結婚もしていない俺は直接見たことは無い。
 だが、そんな俺でも分かった。これは赤ん坊の身体だ。
 
 俺の仮説が十中八九正しい。そんでもって、俺は前世の記憶を持っている。
 つまりそういうことだ。


――俺はもう、昨日までの俺じゃない。
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異世界輪廻の終着点作者:かにたべ隊
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第3話 有象無象

 今度こそ死んだのか?

 俺は一面が赤っぽくぼんやりとした場所にいる。
 視界は固定されており、歩いたりすることもできない。
 手足を動かそうとすると、抵抗があり、なにかしらに押し返される。
 死ぬ間際なのか、死後の世界なのかはわからない。 
 どちらにせよ、できることは何もなかった。

 今になって、異世界に来て何もしなかったことを悔やむ。
 異世界に転移したから何だっていうんだ。
 生きていたら元の世界に帰れたかもしれないのに。
 言語の違いも気にせずに、身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとしていれば。
 絶望して座り込まずに、もっと早く、動いていれば。
 異世界でも幸せな人生を送るのだと、異世界に対して前向きに向き合うことができていれば。

 そんな後悔で頭が埋め尽くされる。
 異世界でも別に良かったんだ。
 俺が俺として生きているだけで、それでよかったんだ。
 そしていつか、帰る方法を見つけて元の世界に帰る。
 その頃にはもしかすると、異世界に残りたくなるような理由もできていたかもしれない。

 でも、もう遅い。
 俺は何もできずに死んだ。
 殺された理由もわからずに死んだ。

 俺の異世界生活でラノベを書くなら、きっと同人誌よりも薄い物ができるだろう。
 もしかすると、A4の紙1枚に収まるかもしれないな。
 そう思うと笑えてくる。
 俺にとっての異世界なんて、そんなもんだったのだ。

 こんなことなら、バイクの事故でそのまま死んでいれば良かったのに。
 きっと何も気づかずに、幸せなまま人生を終われたのだろう。
 変に生還し、考えたせいで、こんなにも死ぬのが悔しくて、苦しいのだ。

 ......おや、そろそろ終わりかな。

 赤くぼんやりとした世界に小さな光が差し込んできた。
 眩しいな。このまま成仏するのだろうか。
 こんな未練たらたらな俺でも成仏できるんだな。

 光がどんどん大きくなる。
 眩しい。視界が真っ白になってゆく。
 思わず目を瞑る。

 誰かが俺の体に干渉してくる。
 俺の身体に何かがあたる。
 暖かい。恐らく手だ。それにしても大きな手だ。
 俺の胴体を覆うくらいの大きさがある。
 俺はゆっくりと目を開ける。
 

 ......俺の目の前には白髪の老婆の顔があった。

 どういうことだ。誰なんだこの人は。
 というかでかい。でかすぎるだろ。
 俺の身長は170cmくらいだが、それと比較してもこの婆さんはでかい。
 巨人か。巨人なんだろうか。
 そして状況を理解した。俺はこの婆さんに抱かれている。
 恐らく、お姫様だっこのような形だ。

 視力を失ってしまったのか、ぼんやりとしか見えない。
 そのため、しっかりとは分からないが、この老婆は少し不満そうな顔をしているように感じ取れる。
 どうしてこの人は不満そうな顔をして俺を抱いているのだ。俺は何かされるのだろうか。
 そんなことを思っていると、老婆が俺の知らない言語で誰かと話し始めた。
 そして、老婆が大きな手で俺の足に触れた。

 その瞬間、急に視界がぐにゃりと曲がった。
 俺は老婆に逆さ吊りにされていた。

 俺は戦慄した。
 この婆さん、何してるんだ?
 人を逆さに、しかも片手で?
 なぜ? 何の為に?
 俺にそんなに恨みでもあるのか?

 ここは、地獄なのか?
 いや、案外そうなのかもしれない。

 俺は事故で死なずに、異世界に転移するというチャンスを手に入れた。
 にも関わらず、何もできずに死んだ。
 それに対する罰というのなら、俺は何も反論できない。

 状況の整理をしていると、俺は老婆に尻を叩かれた。
 逆さ吊りにされて尻を叩かれた。

 泣いた。これでもかというくらい声を上げて泣いた。
 怖かった。死ぬかと思った。
 いや、既に死んでいるが......
 18歳にもなって大声で泣くのは恥ずかしいって?
 しょうがないじゃないか。怖いものは怖い。
 それは何歳になっても変わらないのだ。

 俺が泣き出すと、すぐに老婆は俺を元のお姫様だっこの姿勢に戻した。
 そして老婆は満足そうな顔で何かを口ずさんでいた。
 俺の視界は緑の光に包まれた。
 特に驚くことはなかった。その光を見たことがあったから。

 緑の発光が終わると、老婆は俺を連れて歩き、大きなタオル1枚を掛けてベッドに横になっている茶髪ロングの若い女性の横に俺を寝かせた。

 地獄を経験したから次は天国か?
 整った顔立ちをした、少し幼さを感じる女性だ。
 そんな女性は微笑みながら俺の頭を大きな手で撫でてくる。

 何故に俺の頭を撫でるのだ。
 恋人でもない女性に、添い寝をして頭を撫でられる。
 これじゃまるで俺が赤ん坊みたいじゃないか。
 
 ん? 待てよ。
 明らかにサイズの大きい老婆と女性。
 逆さ吊りにされて尻を叩くという行為。
 俺を見た時の安心したような女性の笑み。
 
 ......もしかして俺は、赤ん坊なんじゃないだろうか。

 俺の中でそんな仮説が立った。
 昔のドラマかなんかで、泣かない子供を逆さ吊りにして泣かせているのを見たことがある。
 もしかすると、老婆は泣かない俺を泣かせるために、そんな行為をしたのではないだろうか。
 そして俺が産声を上げたことに安心して、茶髪の女性は俺を撫でた。
 うん。全てにおいて辻褄が合う。

 その仮説を検証するべく、重い頭を動かして、自分の手足を見る。

 小さい。
 何も掴めなさそうな貧弱な手だ。
 足はあまり見えなかったが、股の部分には小さな象さんが鎮座していた。

 やっぱりそうだ。
 弟も妹もおらず、結婚もしていない俺は直接見たことは無い。
 だが、そんな俺でも分かった。これは赤ん坊の身体だ。
 
 俺の仮説が十中八九正しい。そんでもって、俺は前世の記憶を持っている。
 つまりそういうことだ。


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