ホーム›わたしは知っている、君の最期を。……それでも、›私の壊れ方。
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私の壊れ方。

 あれから、どれほどの時間が経ったのだろう。

 私は蒸し暑い部屋の中で、冷えた所を探すように床を寝っ転がっている。

 でも、暑い。

 今日は気分もなんとなく悪いし、母にクーラーつけていいか頼んでみようか。

 たった一日ぐらい。

 いや、面倒だからいいや。やめよう。
 今日は何もしてないのに、疲れた。

 私はもう休もうと、ベッドに入った。

 薄着に布団をかけないまま、天井を見上げる。
 相変わらず、白い簡素な天井だ。つまらない。

 星のような壁紙もしてないし、それをしない部屋の主もどこか狂ってそうだ。

 暇だし、スマホでネットサーフィンでもしようか。 

 枕の元で休んでいたスマホを叩き起こして、画面が光れば、いろんな通知を見せてくる。

 そういえば、彼はメッセージを送ってきてないのだろうか。

 アプリを開いて、変な顔をした猫口のキャラアイコンを指で押してみれば、案の定。

 何も変わってなかった。

『オレ、自分のうんこ食べて死にますよ? いいんですか?』

 笑えないよ、ケイくん。

『悲しすぎて困る百パーセント』

 だから、笑えないって。

 私が勝手に彼に毒づいて、見てしまった。
 
『柊センパイ、寂しいですよー。センパイの顔一週間見てないですよ〜。会いたいよ〜』

 柊センパイ、ね。

 私も、今は寂しいよ。
 今すぐ会って、ずっとそばにいたい。

 そばに。いたいのに。

 なんで、君は......。

 あの薄暗かった病室で、気付かせないように震えた唇で、笑っていたの......?



 気付けば、寝ていた。
 起きれば、朝になっていて、小鳥が鳴いている。
 
 それに、瞼から頬がカサカサになって乾いていた。

 なんだろう。
 自分の身体が何を求めてるのか、分からないけど。

 気付いてはいけない気がして、深く考えなかった。 
 
 洗面台で顔を洗ったあと、居間にでると、母がいないことに気付いた。

 今、父は出張中だから、母までいないと余計に静かだ。

 その事にさっき、気付く。

 食卓に使ってるテーブルにメモ用紙が置かれていた。
 置き手紙だ。

『今日は同窓会で隣町に行くので、夕方までいません。冷蔵庫の弁当をお昼に食べてください』
 ......と、母らしい丸みを帯びた綺麗な字で書かれていて。

 そうか、そういえば夏休みの期間に同窓会があるとかいってたような気がする。

 今日は私一人、か。

 夏なのに、朝だからか肌寒い気がする。人肌が恋しい。人の気配が恋しい。

 だからなのか、昼に食べてと書かれていたのに、冷蔵庫に手を伸ばしてしまった。

 冷蔵庫に入れるのに、あの人ときたら、私が小さい時に好きだったキャラクターの風呂敷に弁当を包んでくれている。

 触れた弁当の包む布は冷たくなく、風呂敷を広げてピンクの弁当箱を触っても、地味に温かい。

 さっきまで、いたんだ。お母さん。

 私はさっそく箱を開けて、気持ち程度に温い、ご飯とおかずを広げた。

 箸を手に持って、いただきます。

「うん、おいしい」

 あの人の味がする。優しくて、暖かくて。
 いつも見守ってくれてるような、心が落ち着く味。

 呪いのせいで、私が社会人時代の記憶もあるけど、そのときには、もうこれはなかった。

 毎日のように、冷たい、何かに追われる日々だった。

 だから、思っていた。いつも。
 人が恋しいと。今も。あの人が、あの子が恋しい。

 でも、あの子はいなくなると言った。あの人の元もいずれ巣立たなければならない。
 弁当でしか人の温もりは感じられないなんて、私は、惨めだ。

 人に関わらないかった、ツケだ。

 なんなんだろう、私は。
 なにがしたいのだろう。

 ほんと、私というやつは、どうしようもない。


 部屋に戻ったあとは、ずっとベッドで寝包まっていた。
 ただ、見上げる天井で、あの女の子の笑顔がずっと映し出されている。

 つばきちゃん。私に仲良くしてくれた、唯一の女の子。

 勝気そうな、あの鋭さのある笑顔が目の前から離れない。

 なんで、あの子だけは救えたのだろう。
 なんで、つばきちゃんだけ死なずに、ルールをかいくぐれたのだろう。

 私がお節介をかけた人は、余計に未来が狂った。

 今までの未来よりも不幸になって。
 みんな、私を遠ざけた。

 将来が変わった、よかった。そう満足して、私が満たされたとき、手を伸ばした人は顔を青くした。

 私が自己満足したから。幸せになったから。

 そうか。

 この呪いは、いわゆるルールだ。

 私が満ち足りたなら、他人が堕ちて。
 他人が幸せになるには、私が不幸になればいいんだ。

 その証拠につばきちゃんが生きてる。

 でも、彼が死ぬ未来は、死ぬという事実が分かってるだけで、理由までは分からない。

 つばきちゃんを助けたくらいの私の不幸じゃ、きっと足りない。

 ケイくんが確実に生きられる、特大の不幸が必要だ。

 私だけじゃ、足りない。

 不明瞭の死を覆すのに、成立するはずがない。

 だって、保険をかけて絶対助かる、生きられる未来にしたいんだ。

 足りるはずがない。

 黒く、暗く、考えて、考えて。

 一つ、思いついた。一筋の、光のようなものだ。

 でも、いいのか?
 
 正直やりたくない。やりたくないけど、何もやらないよりかは。きっと。

 正しい。救える。いや、救わなければならない。

 やらなければ、ならない。

 明日が来ないでほしい。もし、来てしまったら、仕方ない。

 私は、瞳の中に浮かぶ朧げなその人に、力なく笑う。

 瞼に映る女の子は、いつの間にか、あざとく笑う一人の男の子に成り代わっていて。

 その残像をしっかり掴むように、手を伸ばして、離さないと腕の中に抱きしめた。

 でも、私の手のひらが握りしめたのは、なにもない、ただの虚空だった......。
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わたしは知っている、君の最期を。……それでも、作者:蒼井瑠水
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私の壊れ方。

 あれから、どれほどの時間が経ったのだろう。

 私は蒸し暑い部屋の中で、冷えた所を探すように床を寝っ転がっている。

 でも、暑い。

 今日は気分もなんとなく悪いし、母にクーラーつけていいか頼んでみようか。

 たった一日ぐらい。

 いや、面倒だからいいや。やめよう。
 今日は何もしてないのに、疲れた。

 私はもう休もうと、ベッドに入った。

 薄着に布団をかけないまま、天井を見上げる。
 相変わらず、白い簡素な天井だ。つまらない。

 星のような壁紙もしてないし、それをしない部屋の主もどこか狂ってそうだ。

 暇だし、スマホでネットサーフィンでもしようか。 

 枕の元で休んでいたスマホを叩き起こして、画面が光れば、いろんな通知を見せてくる。

 そういえば、彼はメッセージを送ってきてないのだろうか。

 アプリを開いて、変な顔をした猫口のキャラアイコンを指で押してみれば、案の定。

 何も変わってなかった。

『オレ、自分のうんこ食べて死にますよ? いいんですか?』

 笑えないよ、ケイくん。

『悲しすぎて困る百パーセント』

 だから、笑えないって。

 私が勝手に彼に毒づいて、見てしまった。
 
『柊センパイ、寂しいですよー。センパイの顔一週間見てないですよ〜。会いたいよ〜』

 柊センパイ、ね。

 私も、今は寂しいよ。
 今すぐ会って、ずっとそばにいたい。

 そばに。いたいのに。

 なんで、君は......。

 あの薄暗かった病室で、気付かせないように震えた唇で、笑っていたの......?



 気付けば、寝ていた。
 起きれば、朝になっていて、小鳥が鳴いている。
 
 それに、瞼から頬がカサカサになって乾いていた。

 なんだろう。
 自分の身体が何を求めてるのか、分からないけど。

 気付いてはいけない気がして、深く考えなかった。 
 
 洗面台で顔を洗ったあと、居間にでると、母がいないことに気付いた。

 今、父は出張中だから、母までいないと余計に静かだ。

 その事にさっき、気付く。

 食卓に使ってるテーブルにメモ用紙が置かれていた。
 置き手紙だ。

『今日は同窓会で隣町に行くので、夕方までいません。冷蔵庫の弁当をお昼に食べてください』
 ......と、母らしい丸みを帯びた綺麗な字で書かれていて。

 そうか、そういえば夏休みの期間に同窓会があるとかいってたような気がする。

 今日は私一人、か。

 夏なのに、朝だからか肌寒い気がする。人肌が恋しい。人の気配が恋しい。

 だからなのか、昼に食べてと書かれていたのに、冷蔵庫に手を伸ばしてしまった。

 冷蔵庫に入れるのに、あの人ときたら、私が小さい時に好きだったキャラクターの風呂敷に弁当を包んでくれている。

 触れた弁当の包む布は冷たくなく、風呂敷を広げてピンクの弁当箱を触っても、地味に温かい。

 さっきまで、いたんだ。お母さん。

 私はさっそく箱を開けて、気持ち程度に温い、ご飯とおかずを広げた。

 箸を手に持って、いただきます。

「うん、おいしい」

 あの人の味がする。優しくて、暖かくて。
 いつも見守ってくれてるような、心が落ち着く味。

 呪いのせいで、私が社会人時代の記憶もあるけど、そのときには、もうこれはなかった。

 毎日のように、冷たい、何かに追われる日々だった。

 だから、思っていた。いつも。
 人が恋しいと。今も。あの人が、あの子が恋しい。

 でも、あの子はいなくなると言った。あの人の元もいずれ巣立たなければならない。
 弁当でしか人の温もりは感じられないなんて、私は、惨めだ。

 人に関わらないかった、ツケだ。

 なんなんだろう、私は。
 なにがしたいのだろう。

 ほんと、私というやつは、どうしようもない。


 部屋に戻ったあとは、ずっとベッドで寝包まっていた。
 ただ、見上げる天井で、あの女の子の笑顔がずっと映し出されている。

 つばきちゃん。私に仲良くしてくれた、唯一の女の子。

 勝気そうな、あの鋭さのある笑顔が目の前から離れない。

 なんで、あの子だけは救えたのだろう。
 なんで、つばきちゃんだけ死なずに、ルールをかいくぐれたのだろう。

 私がお節介をかけた人は、余計に未来が狂った。

 今までの未来よりも不幸になって。
 みんな、私を遠ざけた。

 将来が変わった、よかった。そう満足して、私が満たされたとき、手を伸ばした人は顔を青くした。

 私が自己満足したから。幸せになったから。

 そうか。

 この呪いは、いわゆるルールだ。

 私が満ち足りたなら、他人が堕ちて。
 他人が幸せになるには、私が不幸になればいいんだ。

 その証拠につばきちゃんが生きてる。

 でも、彼が死ぬ未来は、死ぬという事実が分かってるだけで、理由までは分からない。

 つばきちゃんを助けたくらいの私の不幸じゃ、きっと足りない。

 ケイくんが確実に生きられる、特大の不幸が必要だ。

 私だけじゃ、足りない。

 不明瞭の死を覆すのに、成立するはずがない。

 だって、保険をかけて絶対助かる、生きられる未来にしたいんだ。

 足りるはずがない。

 黒く、暗く、考えて、考えて。

 一つ、思いついた。一筋の、光のようなものだ。

 でも、いいのか?
 
 正直やりたくない。やりたくないけど、何もやらないよりかは。きっと。

 正しい。救える。いや、救わなければならない。

 やらなければ、ならない。

 明日が来ないでほしい。もし、来てしまったら、仕方ない。

 私は、瞳の中に浮かぶ朧げなその人に、力なく笑う。

 瞼に映る女の子は、いつの間にか、あざとく笑う一人の男の子に成り代わっていて。

 その残像をしっかり掴むように、手を伸ばして、離さないと腕の中に抱きしめた。

 でも、私の手のひらが握りしめたのは、なにもない、ただの虚空だった......。
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