終わりへとひた走る君に。
「いやはや、申し訳ないです。センパイ」
救急車で運ばれた彼は緊急入院になった。検査も合わせて経過観察で、安静になった今、面会ができている。
「心配したんだよ! そんな軽いノリにしないで!」
頭の裏をわしわし掻いていたケイくんは手を止め、ベッドから起き上がった膝元に置いた。
「......」
なぜ、そんな顔してるの? なぜそんな、
「安心した顔、しないでよ......」
悲痛な、消え入るような声で呟き、自然に涙が出る。
頬を伝う熱いそれ。次第に涼しくなる。そう感じたら、彼は口を開けた。
「ありがとう、センパイ」
何......それ。何......それ。
彼は嬉しそうに優しく笑っていて。
そんな顔がむかついて。
つい、言おうと思っていなかったのに口走った。
「ケイくん......!? 死なないよね!? ......死なないよね!?」
でも思ってた言葉ではなく、勝手に求めてる言葉ではなく。
彼の口からは、
「そう、オレは死にます」
彼の言葉が落ちた瞬間、病室の音が遠のいた。
廊下から聞こえる看護師の足音も、点滴の機械が刻む一定の音も、全部が水の底に沈んでいくように遠ざかって。
残ったのは、ケイくんの膝の上に置かれた手だけだった。
私はそれを見てしまった。
彼の手が、ほんの少しだけ、震えていた。
右手の指先が、膝の水色の病院服をごくわずかに掴んで。それはすぐに緩んで、またへらへらした笑顔の下に隠れた。
一瞬だけ、彼の笑顔が笑顔でなくなった気がした。
でも私は、それを確かめる言葉を持てなかった。
それからは彼を問い詰めた。
冗談だよね、じゃあなぜ死ぬの、って。
彼ははぐらかすばかりでただへらへらしてて。
ふざけんな。お前は死ぬんだぞ。
ひたすら腹が立って。
彼の肩を掴んで、少し乱暴にしても「センパイ、どうしたんすか? 変ですよ?」と相手にもしてくれなくて。
気づけば面会時間が終わり、帰るしかなかった。
帰りの夕暮れは、どこか心に穴が空いていた。
セミが鳴いている。
一週間しか生きられないのに、わざわざうるさく鳴いて。最後はころっと人知れず死ぬ。
セミファイナルなるものを起こすものもいるけれど、どこでも騒がしくするそいつらには、今はなぜか可哀想に見えた。
死にたくないと泣いてるようで。
まだ生きたいと助けを呼んでるようで。
彼にもそうしてほしかった。
あの子は死にたいのかもしれない。死にたくないのかもしれない。
分からないけど、でもそこらの木で泣いているあの人達に彼を、重ねてしまった。