ホーム›わたしは知っている、君の最期を。……それでも、›終わりへとひた走る君に。
← 次の話目次前の話 →

終わりへとひた走る君に。

「いやはや、申し訳ないです。センパイ」

 救急車で運ばれた彼は緊急入院になった。検査も合わせて経過観察で、安静になった今、面会ができている。

「心配したんだよ! そんな軽いノリにしないで!」

 頭の裏をわしわし掻いていたケイくんは手を止め、ベッドから起き上がった膝元に置いた。

「......」

 なぜ、そんな顔してるの? なぜそんな、

「安心した顔、しないでよ......」

 悲痛な、消え入るような声で呟き、自然に涙が出る。

 頬を伝う熱いそれ。次第に涼しくなる。そう感じたら、彼は口を開けた。

「ありがとう、センパイ」

 何......それ。何......それ。

 彼は嬉しそうに優しく笑っていて。

 そんな顔がむかついて。

 つい、言おうと思っていなかったのに口走った。

「ケイくん......!? 死なないよね!? ......死なないよね!?」

 でも思ってた言葉ではなく、勝手に求めてる言葉ではなく。

 彼の口からは、
「そう、オレは死にます」
 

 彼の言葉が落ちた瞬間、病室の音が遠のいた。
 
 廊下から聞こえる看護師の足音も、点滴の機械が刻む一定の音も、全部が水の底に沈んでいくように遠ざかって。
 
 残ったのは、ケイくんの膝の上に置かれた手だけだった。
 
 私はそれを見てしまった。
 
 彼の手が、ほんの少しだけ、震えていた。
 
 右手の指先が、膝の水色の病院服をごくわずかに掴んで。それはすぐに緩んで、またへらへらした笑顔の下に隠れた。
 
 一瞬だけ、彼の笑顔が笑顔でなくなった気がした。
 でも私は、それを確かめる言葉を持てなかった。

 

 それからは彼を問い詰めた。

 冗談だよね、じゃあなぜ死ぬの、って。

 彼ははぐらかすばかりでただへらへらしてて。

 ふざけんな。お前は死ぬんだぞ。

 ひたすら腹が立って。

 彼の肩を掴んで、少し乱暴にしても「センパイ、どうしたんすか? 変ですよ?」と相手にもしてくれなくて。

 気づけば面会時間が終わり、帰るしかなかった。

 帰りの夕暮れは、どこか心に穴が空いていた。

 セミが鳴いている。

 一週間しか生きられないのに、わざわざうるさく鳴いて。最後はころっと人知れず死ぬ。

 セミファイナルなるものを起こすものもいるけれど、どこでも騒がしくするそいつらには、今はなぜか可哀想に見えた。

 死にたくないと泣いてるようで。

 まだ生きたいと助けを呼んでるようで。

 彼にもそうしてほしかった。
 あの子は死にたいのかもしれない。死にたくないのかもしれない。

 分からないけど、でもそこらの木で泣いているあの人達に彼を、重ねてしまった。
シェア
前の話 →
かわええやないかー。
← 次の話
私の壊れ方。
わたしは知っている、君の最期を。……それでも、作者:蒼井瑠水
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›わたしは知っている、君の最期を。……それでも、›終わりへとひた走る君に。
← 前の話目次次の話 →

終わりへとひた走る君に。

「いやはや、申し訳ないです。センパイ」

 救急車で運ばれた彼は緊急入院になった。検査も合わせて経過観察で、安静になった今、面会ができている。

「心配したんだよ! そんな軽いノリにしないで!」

 頭の裏をわしわし掻いていたケイくんは手を止め、ベッドから起き上がった膝元に置いた。

「......」

 なぜ、そんな顔してるの? なぜそんな、

「安心した顔、しないでよ......」

 悲痛な、消え入るような声で呟き、自然に涙が出る。

 頬を伝う熱いそれ。次第に涼しくなる。そう感じたら、彼は口を開けた。

「ありがとう、センパイ」

 何......それ。何......それ。

 彼は嬉しそうに優しく笑っていて。

 そんな顔がむかついて。

 つい、言おうと思っていなかったのに口走った。

「ケイくん......!? 死なないよね!? ......死なないよね!?」

 でも思ってた言葉ではなく、勝手に求めてる言葉ではなく。

 彼の口からは、
「そう、オレは死にます」
 

 彼の言葉が落ちた瞬間、病室の音が遠のいた。
 
 廊下から聞こえる看護師の足音も、点滴の機械が刻む一定の音も、全部が水の底に沈んでいくように遠ざかって。
 
 残ったのは、ケイくんの膝の上に置かれた手だけだった。
 
 私はそれを見てしまった。
 
 彼の手が、ほんの少しだけ、震えていた。
 
 右手の指先が、膝の水色の病院服をごくわずかに掴んで。それはすぐに緩んで、またへらへらした笑顔の下に隠れた。
 
 一瞬だけ、彼の笑顔が笑顔でなくなった気がした。
 でも私は、それを確かめる言葉を持てなかった。

 

 それからは彼を問い詰めた。

 冗談だよね、じゃあなぜ死ぬの、って。

 彼ははぐらかすばかりでただへらへらしてて。

 ふざけんな。お前は死ぬんだぞ。

 ひたすら腹が立って。

 彼の肩を掴んで、少し乱暴にしても「センパイ、どうしたんすか? 変ですよ?」と相手にもしてくれなくて。

 気づけば面会時間が終わり、帰るしかなかった。

 帰りの夕暮れは、どこか心に穴が空いていた。

 セミが鳴いている。

 一週間しか生きられないのに、わざわざうるさく鳴いて。最後はころっと人知れず死ぬ。

 セミファイナルなるものを起こすものもいるけれど、どこでも騒がしくするそいつらには、今はなぜか可哀想に見えた。

 死にたくないと泣いてるようで。

 まだ生きたいと助けを呼んでるようで。

 彼にもそうしてほしかった。
 あの子は死にたいのかもしれない。死にたくないのかもしれない。

 分からないけど、でもそこらの木で泣いているあの人達に彼を、重ねてしまった。
シェア
← 前の話
かわええやないかー。
次の話 →
私の壊れ方。
わたしは知っている、君の最期を。……それでも、作者:蒼井瑠水
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません