~彼と過ごすことになったけれど~
最初は当然驚きましたよ。
その、森の中で足を捻ってしまってバランスを崩して危うく沼に落ちそうになってしまったんです。
でも、誰かに引き寄せられて。
ただ、体勢が悪かったのか、その方も巻き込んで倒れこんでしまったんですね?
それで、身体を起こしたら、誰もいないんです。
いえ「人」に触れている感覚も、温もりもありましたし、男性らしいと言うと語弊があるかもしれませんが、筋肉質だなあって分かるくらいには密着していたんです。
けれども見えない。
そこに誰かいるはずなのに、全く見えないんです。
その上、顔辺りに触れようとしたら手がそこの部分だけかすりもしないんです。
顔の部分だけが、感覚もなにもない。
そう。
顔がないんです。
ですが、不思議と怖くなくて。きっと、その前の出来事もあって正常バイアスっていうか、そういうのが働いていたんでしょうね。
だから、とにかくお礼を伝えないとと思って拙い英語で「ソーリー」って言ったんです。
今思えばお礼じゃないんですが、その時はそれしか浮かばなくて。
そうしたら、相手が、私を抱き起してくれて、どこからか羊皮紙?
古い紙を出して、年代物の万年筆で何かを書いたみたいで、それを彼がいつの間にか出していた、あれはなんなんでしょうね?
ちょっと分からないんですが、とにかく灯りを出してくれて、読めるようにしてくれたんです。
でも、筆記体だし、外国語だし、酔っているしで全く理解できなくて。
それに気づいたらしくて、その人が手にしていた万年筆でジェスチャーしてくれて「着いてこい」って。
案内されたのが「彼」の住居だったんです。
西部劇とかで見るような、開拓時代でしたっけ。あの時代の一般的な家って言うんですか?
そういうところに通されて。
そこからは、お互いジェスチャーとか、あと相手が分かりやすいように書いてくれた英文を翻訳アプリで解読したりしてコミュニケーションを取って。
それで、ここが私がいていい場所じゃないって分かって。
それからは、元の世界に戻るために「彼」に協力してもらう事になって。
あの時過ごした時間は、刺激的な事が多すぎて言えませんけど。
とにかく、救われたというのも日々が刺激に満ちていたのも事実です。