第二話:ログインアイテム
「夏休みの宿題、終わったか?」
「うん。あとは日記だけだから、毎日ちょっとずつ書くよ」
「なら、もうこれをわたしてもいいな」
夏休みの三日目、お兄ちゃんはぼくにヘアバンドみたいなのをくれた。
やわらかい布に包まれた中に、ゲームをするためのブイアールセットっていうのが入ってる。
「アルファテストやベータテストでは一つしかキャラを持てないけど、正式サービスが始まったら四つまで増やせるから。とりあえず好きなようにキャラ作成してみたらいいよ」
「わかった」
「それ頭につけて横になって、心の中で『ログイン』って言えばゲームに入れるぞ」
ぼくがヘアバンドを両手に持ってあちこち見回していたら、お兄ちゃんはゲームの入り方を教えてくれた。
ブイアールセットにはボタンやスイッチはついてなくて、つけた人が考えたことを読み取って動くんだって。
「ログインしたらガイドAIが色々教えてくれるから、聞きながらキャラクターを作ってみな。説明がむずかしいとか、わかりづらいとか、そういうのがあれば後で教えてくれ」
「おっけー」
「オレはノクスっていう名前のキャラでログインするから。チュートリアルが終わった後に転移されるポイントで待ってるよ」
「じゃあ、ぼくはメリディエスっていう名前にするよ」
「OK。いつものキャラ名だな。まだだれにも使われてないからつけられるはずだ」
「だれかが使ってる名前は、つけれないの?」
「うん。ゲームのシステムが名前でプレイデータを管理するからな」
これからプレイするオンラインゲームの世界では、だれかが使っている名前をつけることはできないらしい。
お兄ちゃんとぼくには、ゲームをするときいつも使う名前があった。
ノクスは、ラテン語で「夜」。
メリディエスは、ラテン語で「昼」。
お兄ちゃんの名前は深夜で、ぼくの名前は真昼だから、それを外国語にしてみようって話して、ゲームのキャラクターにつけるようになったんだよ。
ラテン語の昼はディエースともいうらしいけど、メリディエスとかメリーディエースの方が真昼を意味するからって教えてもらった。
「まだ今はアルファテスト期間だけど、作ったキャラはベータテストや正式サービス後も使えるから、名前キープできるぞ」
「よかった。ずっとこの名前使ってるから、他の人にとられたくない」
アルファテスト期間っていうのは、決まった人だけがログインできる期間のことだよ。
この期間に作ったキャラクターは、次のベータストや正式サービスでもそのまま使えるんだって。
「じゃあ、始めようか」
「はーい」
お兄ちゃんとぼくはヘアバンドをつけて、ベッドに並んで横になった。
(ログイン)
心の中でつぶやくと、布団が背中に当たる感じが消えていく。
ぼくは生まれて初めて、フルダイブ型ゲームの世界へ入っていった。