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朱雀フェニックス

 広いテーブルが4つだけ並ぶ焼肉店の1番奥。店員に案内されて向かった個室では、今日の一軍メンバーによる戦勝祝いが行われていた。
 信濃に無理やり連行されてきたドーム近くの焼肉店は、朱雀フェニックス選手たちの行きつけの店である。

「おっ、来たぞ今日のヒーロー」

 個室席の上手から三治を指さしたのは、ベテラン三塁手の前田であった。三治は小さく頭を下げて、個室の中央に空けられていた席へ座る。

「ずいぶん遅かったではないか三治! 片桐殿はすでにワインを2本開けて潰れておられるぞ」

 三治の右側から馴れ馴れしく肩を組んできたのは、同期のドラフト1位スラッガー・樋口兼愛である。

「暑苦しい。離れろ」

「まったく貴様は。どうせまた相手チームの情報をチマチマと帳簿に認めておったのであろう。試合の後はまず先に食事をとらぬか」

 メジャーリーガーの父と五輪選手の母を持つ怪物サラブレッドは海外生活が長く、時代劇から日本語を学んだために武士のような口調である。
 三治が暑苦しい兼愛の身体を引き剥がすと、左隣から冷たい手がヌッと現れて白い紙エプロンを三治の首から掛けた。

「うわっ」

「三治坊ちゃんは熱中するとすぐ食事と睡眠を忘れるからな。ほうら、ちゃんと食べて大きくなるんだぞ」

 滑らかな白い肌に長い金髪と碧眼。極端に美しい顔の男・紀上吉継は、子供をあやすように三治の背中をさすった。
 個室の中に燦然と輝く美貌は野球選手の打ち上げに紛れるモデルや俳優のように見えるが、信じられないことにこの男は結果的に今日の決勝点となった押し出し死球を喰らった高卒3年目の遊撃手で、三治の幼馴染でもある。

「ボールが当たった場所は大丈夫なのか」

「ああ、さっきの? シューズの爪先に掠っただけだから大丈夫だよ。露骨に痛がってはおいたけど」

 8回裏、満塁のチャンスで打席が回ってきた吉継に相手ピッチャーの初球が当たった瞬間の女性ファンたちの阿鼻叫喚は、野球場とは思えないほどの高い悲鳴であった。
 バッターボックスに転がってうずくまり、医療スタッフに肩を借りてベンチまで足を引きずってきた吉継が、座った途端に羊羹を頬張りながら足を組んで小説を読み始めた時にはまさかとは思ったが、全ては死球による押し出しを演出するための策略だったのである。そろそろ天罰が下ったほうがいい所業である。

「まあ、勝ちゃあ何でもいいんだよ。これで3位のセイレーンズとゲーム差1。ようやく俺らもクライマックスシリーズに行けるのかねえ」

 信濃は酔い潰れた片桐の手元から勝手にワインボトルを分捕って自らのグラスに注いだ。大先輩の片桐の許可を取ることもなく、吉継のグラスにも勝手に赤ワインを注ぎ入れる。

「そうか。左近が入団してきた時には、もうAクラス常連じゃなかったか。リーグ優勝や日本一ってのは確かに、ずいぶんご無沙汰だなあ」

上手で日本酒を飲んでいた前田が、遠い昔を懐かしむように言いながら徳利に残った日本酒の一滴をお猪口に注いだ。
「左近」というのは、信濃が所属していた社会人野球チームを所有する警備会社「左近警備」の屋号がそのまま信濃の通称になったものである。

「だがまあ、今年は期待できるんじゃねえの。何たって本塁打リーグトップのカネちゃんと『3桁の彗星』がいるんだからよ」

「ふふふふ......3桁の彗星」

 吉継が小さく笑って、愛おしそうに自身のスマートフォンの待受画面を見た。
 吉継の待ち受け画面は、三治の一軍デビュー戦翌日に発行された「3桁の彗星」の見出しがついたスポーツ誌の一面である。真剣な顔で投球する三治の写真をわざわざ待ち受け画面に設定するこの男は、三治のデビュー記事を妙に気に入っていた。

「うむ! 我らがおれば朱雀フェニックスの優勝は必定! 必ずやリーグを制し、日本シリーズで天下を平定せん!!」

 懲りずに三治と肩を組んで叫んだ兼愛が、なみなみと注がれたコーラを飲み干す。景気の良い兼愛の宣言を、チームメンバーたちが賑やかに囃し立てた。
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育成くんと球団マスコットちゃん作者:甘味屋
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朱雀フェニックス

 広いテーブルが4つだけ並ぶ焼肉店の1番奥。店員に案内されて向かった個室では、今日の一軍メンバーによる戦勝祝いが行われていた。
 信濃に無理やり連行されてきたドーム近くの焼肉店は、朱雀フェニックス選手たちの行きつけの店である。

「おっ、来たぞ今日のヒーロー」

 個室席の上手から三治を指さしたのは、ベテラン三塁手の前田であった。三治は小さく頭を下げて、個室の中央に空けられていた席へ座る。

「ずいぶん遅かったではないか三治! 片桐殿はすでにワインを2本開けて潰れておられるぞ」

 三治の右側から馴れ馴れしく肩を組んできたのは、同期のドラフト1位スラッガー・樋口兼愛である。

「暑苦しい。離れろ」

「まったく貴様は。どうせまた相手チームの情報をチマチマと帳簿に認めておったのであろう。試合の後はまず先に食事をとらぬか」

 メジャーリーガーの父と五輪選手の母を持つ怪物サラブレッドは海外生活が長く、時代劇から日本語を学んだために武士のような口調である。
 三治が暑苦しい兼愛の身体を引き剥がすと、左隣から冷たい手がヌッと現れて白い紙エプロンを三治の首から掛けた。

「うわっ」

「三治坊ちゃんは熱中するとすぐ食事と睡眠を忘れるからな。ほうら、ちゃんと食べて大きくなるんだぞ」

 滑らかな白い肌に長い金髪と碧眼。極端に美しい顔の男・紀上吉継は、子供をあやすように三治の背中をさすった。
 個室の中に燦然と輝く美貌は野球選手の打ち上げに紛れるモデルや俳優のように見えるが、信じられないことにこの男は結果的に今日の決勝点となった押し出し死球を喰らった高卒3年目の遊撃手で、三治の幼馴染でもある。

「ボールが当たった場所は大丈夫なのか」

「ああ、さっきの? シューズの爪先に掠っただけだから大丈夫だよ。露骨に痛がってはおいたけど」

 8回裏、満塁のチャンスで打席が回ってきた吉継に相手ピッチャーの初球が当たった瞬間の女性ファンたちの阿鼻叫喚は、野球場とは思えないほどの高い悲鳴であった。
 バッターボックスに転がってうずくまり、医療スタッフに肩を借りてベンチまで足を引きずってきた吉継が、座った途端に羊羹を頬張りながら足を組んで小説を読み始めた時にはまさかとは思ったが、全ては死球による押し出しを演出するための策略だったのである。そろそろ天罰が下ったほうがいい所業である。

「まあ、勝ちゃあ何でもいいんだよ。これで3位のセイレーンズとゲーム差1。ようやく俺らもクライマックスシリーズに行けるのかねえ」

 信濃は酔い潰れた片桐の手元から勝手にワインボトルを分捕って自らのグラスに注いだ。大先輩の片桐の許可を取ることもなく、吉継のグラスにも勝手に赤ワインを注ぎ入れる。

「そうか。左近が入団してきた時には、もうAクラス常連じゃなかったか。リーグ優勝や日本一ってのは確かに、ずいぶんご無沙汰だなあ」

上手で日本酒を飲んでいた前田が、遠い昔を懐かしむように言いながら徳利に残った日本酒の一滴をお猪口に注いだ。
「左近」というのは、信濃が所属していた社会人野球チームを所有する警備会社「左近警備」の屋号がそのまま信濃の通称になったものである。

「だがまあ、今年は期待できるんじゃねえの。何たって本塁打リーグトップのカネちゃんと『3桁の彗星』がいるんだからよ」

「ふふふふ......3桁の彗星」

 吉継が小さく笑って、愛おしそうに自身のスマートフォンの待受画面を見た。
 吉継の待ち受け画面は、三治の一軍デビュー戦翌日に発行された「3桁の彗星」の見出しがついたスポーツ誌の一面である。真剣な顔で投球する三治の写真をわざわざ待ち受け画面に設定するこの男は、三治のデビュー記事を妙に気に入っていた。

「うむ! 我らがおれば朱雀フェニックスの優勝は必定! 必ずやリーグを制し、日本シリーズで天下を平定せん!!」

 懲りずに三治と肩を組んで叫んだ兼愛が、なみなみと注がれたコーラを飲み干す。景気の良い兼愛の宣言を、チームメンバーたちが賑やかに囃し立てた。
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