第十話:タコさんウィンナーを守れ!盗賊VSロイド
――国王の視察から一週間後。
夜ご飯を食べた後、会議室に呼ばれたルルとロイド。
どうやら、本当に予算が5倍増量したらしい。
「ということで、食堂に置いていた箱を開封したいと思いまーす! 」
施設長がご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら箱の後ろにある鍵を開けた。
中からガサゴソと紙を取り出していく。これは、施設の皆に企画を募った箱だ。
「結構、皆書いてくれたね。じゃあロイド君、紙を読み上げて」
「はい! えーっと、釣り大会。大食い大会。お買い物――」
ホワイトボードと画用紙両方へ施設長が交互に書き込んでいく。
読み上げるロイドの表情は、徐々に曇っていった。
「魔界に日帰り旅? 皆で城を乗っ取る? 皆で世界征服?!
なぜ、後半になるにつれて物騒な言葉が書かれているんだ?! 」
紙を持つ手が震えたロイドは、一旦読むのを止めて施設長を見つめた。
「一つ聞いてもいいですか? 」
「うん! なんだい? 」
「魔界とか世界征服とかが、もし決まったらどうするんですか? 」
「うーん。まぁ1日くらい大丈夫でしょう! 」
のんびりとした微笑みを浮かべる施設長にロイドは叫んだ。
「いや、いや! ダメでしょ!! それに、どうやって決めるんですか?」
施設長は、スタスタと後ろの隅へ歩き
立て掛けれられた丸や長方形の木の板を持ってきた。
「これだよ」
「いつのまに!? 回転板で決めるのですね――」」
「うん! 楽しく、公正に決めれるからね。
ルルちゃん! これに紙を貼ってくれる? 」
ルルは静かに頷き、画用紙に書かれたものを回転板に
ペタリッと張り付けていった。
その後、施設長は子供用の弓をルルに渡す。
「たしか、特技に弓で狩りって書いてあったよね?
回転が始まったら、弓矢を放って欲しいんだけど出来そう? 」
ルルは久しぶりの弓が嬉しくて、首を縦に数回頷いた。
(面接の時に書いていたの、憶えててくれたんだ。
そうだよ、自分でご飯を採らないといけないからね)
ドゥ、ルルルゥゥ......♪
施設長が音を口ずさみながら回転板が回り始めた。
ルルは片足を一歩前に出し、ゆっくりと弓を構えた。
ギリギリッと弓がしなる音がする。
「魔界は嫌だ。世界征服も嫌だ。一時間たりとも辛い。
チーフ! 戦争と魔界以外でお願いしますよ!! 」
(気が散る......。でも、私は少し魔界とか行ってみたい)
真剣な表情のルルが、目を細めて狙いを定める。
ヒュッ――
運命の矢が放たれた。
「平和なやつこぉおいっ!! 頼むぅぅう!」
トスッ!
「すごいよ、ルルちゃん。想像以上だ」
施設長は拍手し、ロイドは床にへたり込んだ。
「な、何で......」
ふらふらと立ち上がったロイドは、ルルの両肩をガシッと掴み前後に揺らした。
「何でど真ん中なのですかぁああああ!! 」
回転板の真ん中へ綺麗に刺さった弓矢を見たルルは満足そうに頷いた。
(うん、腕は健在で安心した。)
ルルは、ロイドの手を静かに払いスケッチブックにペンを走らせた。
バッと文字を見せ、空いている片手で親指を立てる。
【弓には自信があります! 】
「そうじゃなくてぇぇぇえ!! 」
それから、仕切り直しで再度行った結果。
ルルの希望ではなく、平和そうな遠足に決まったのだった。
――数日後
パタンッ
(これが最後のお弁当)
遠足当日。早朝から職員と一緒に作ったお弁当が完成した。
行き先は、施設から徒歩20分ほどの場所にある、美しい緑に囲まれた
『フォリアの丘』。
おじいちゃんやおばあちゃん達の健康維持と、気分転換にはもってこいの場所だ。
ルルはロイドが背負うリュックにお弁当を入れ込み、頭を下げた。
【重たいけど、よろしく! お弁当を守って】
「もちろんです! さあ、行きましょう! 」
ロイドは、笑顔で親指を立てルルと一緒に集合場所へ向かった。
「皆さん、荷物は持ちましたかー?
列を乱さずに、チーフの後をついていってねー! 」
施設長の穏やかな声を響かせながら、左右に黄色い旗を振り
白銀輝の園で初の遠足が開始した。
ルルは遠足用のリュックを背負って、
事前に書いていた文字を、背伸びしながら掲げた。
【手を繋いで歩きましょう】
「ハッ! 了解いたしました。マスター!! 」
フォードおじいちゃんが、ベルゼおじいちゃんの手をギュッと握りしめた。
「フォードよ。貴様の祖国を滅ぼした我が手を迷いもなく握るとは、
良い度胸ではないか」
「フンッ! 何を勘違いしておる。マスターの御前だぞ、従うにきまっておろう」
(いや、ただの安全策としてだからね?
繋いだ手の間から、紫と金の光がバチバチしてるけど大丈夫かな......)
空には、アヒルの大きさになったコッコちゃんが飛んでいる。
ルルを先頭に、仲良く手を繋いで歩く伝説の英雄と魔王たちの列。
その後ろでは、お弁当の特大重箱をリュックに背負ったロイド
(本日まだ無傷)が、列から離れないように必死に歩いている。。
「ハァ、ハァ......。24人分のお弁当重たいよぉ――」
暫く歩いていると、施設周りの森の景色から城下町に変わった。
すれ違う旅人や冒険者たちが次々と道を開けて行く。
「伝説の剣聖フォード様! と、隣の大きなおじいちゃんは誰だ? 」
「施設の職員じゃないの? あ!テイマーのエリザ様だわ! 」
「あ! あれは母さんを治してくれた、最高司祭様だ! 」
人々は、次々と有名な英雄や最高役職の名前を口にしては驚き、そして歓喜を上げていた。
しかし、魔王や魔王幹部がその列に加わっている事は、
街の人は誰も知らない。
「聞いたか? ワシの方が有名じゃ! 故にワシが最強! 」
「ハッ! 能ある魔族は姿を知られないという言葉が魔界にはあるのだ。
調子に乗るでない! 魔界に来たら逆転するのだからな! 」
「なんじゃとぉ?! 」
ギャーギャー言いながら二人は、静かな火花を散ら付かせている後ろで
穏やかな笑い声が聞こえる。
「久々に街を見ると、新しいお店が出来てるわね~」
「ええ。今度、皆でお買い物しましょうよ」
おばあちゃん達は、街並みを楽しそうに見ながら平和に進んでく。
暫く歩いていると、丘の入り口に到着した。
「フォリアの丘 入口。標高まであと88m」
入口には売店もあり、他の家族連れが休憩をとっていた。
施設の皆の点呼を一回取った施設長は、
スケッチブックを持っているルルを、フワリと魔法で宙に浮かせた。
【足元に気を付けて。ゆっくり歩きましょう】
「御意!!! 」
暫く歩いていると、ガサガサと左の茂みから葉の音が大きくなる。
ザッ――
シュタッ......。
「全員止まりな! 」
「俺達は『鷹影の盗賊団』
命が惜しけりゃ、持っている荷物をすべて置いて消えな! 」
森の茂みから、総勢二十名ほどの武装した盗賊団が
武器をギラつかせながら飛び出してきた。
(お弁当を強奪しようという不届き者)
ルルは目を細め、殴り書きをしたスケッチブックを見せた。
【皆の大事なものなので、荷物はあげれません】
「ほう。やはり、そんなに大事な物なんだな」
「羽振りがいいって、聞いたんだ。金貨沢山持ってんだろ! 」
「持ち物はお弁当だけですから! 金貨なんて入ってないですよ! 」
ロイドが必死に横で叫んでいるのを聞いた私は、ハッと目を大きく見開いた。
(あ......お弁当目的じゃなかったのか)
ルルは、日頃の皆が勘違いしているのを、もうあまり言えないなと思い俯いた。
「あ......」
ロイドくんが、一瞬後ろを振り返り。天を仰ぎ始めた。
ルルが振り返って後ろを見ると、コッコちゃんは巨大な鳥の大きさに戻り。
手を繋いでいたフォードとベルゼは目をギラリと光らせ、禍々しいオーラを放っている。
「ほう。マスターの行く先を邪魔する刺客か。
フォードよ、どちらが多く倒せれるか我と勝負とするか? 」
「ハッ! 奇遇だな。ワシも同じことを思っておったわい!
よかろう。ワシの剣で、そやつらを一人残らず駆逐してくれるわ」
腰からゆっくりと聖剣を引き抜き、構えるフォード。
「コッコケェェエエ!! 」
『あんた達! どきなさいよぉぉお! 』
「あ、あの鳥。魔物か?! 」
盗賊達が一斉に『魔物』という単語を言い出し、後ろに後ずさりをしている。
「コケ......ケェェエ!? コココッ――」
『ま、魔物ですって?! この神聖な、あたいに?! 許せないわ』
コッコちゃんは激怒し、口からゴォオッと火炎放射を開始した。
「あぁ......賠償金がぁぁぁぁあ !! やめてぇぇぇ! 」
「国営だから、時価でお高いんですのよぉぉおおお!! 」
ロイドと施設長の叫び声が丘の森へ響き渡る。
ルルは慌ててスケッチブックを開き、ペンを猛スピードで走らせた。
殺気全開のおじいちゃん達とコッコちゃんの目の前へ
バッと掲げる。
【喧嘩したら、タコさんウインナーあげません】
「......なっなんだと!!」
「コッ?! 」
世界を滅ぼせる二大巨頭と一羽が、同時に息を呑んで硬直した。
「た、タコさん、ウインナー!? あの、足が綺麗に広がった、
あの美しい赤き食べ物を、抜きにされるというのか......!?」
「コッコココケェェェ......コケェ――」
『窓から覗いただけで美味しそうなタコさんが食べれなくなるなんて
......耐えられないわ』
おじいちゃん達と一羽は、絶望のあまりその場にガタガタと地面へと崩れ落ちた。
ルルはそのまま、さらにページの余白に追撃の指示(現場の判断)を書き加え
今度はロイドへ向けた。
【ロイドさん。あの人たち(盗賊)を魔法でどかしてください】
ペラッ
【おじいちゃん達にやらせると、炭となるので】
それを見たロイドくんは、ハッと目を見開いた。
(......そうか!マスターは、伝説の英雄たちの手を汚すまでもない。
新入りの私(ロイド)一人で片付けろ、という事ですね!?
ここで成果を出さねば、私のタコさんウインナーも消える......! )
「フフッ。マスター、お任せください!!
私が、不届き者を排除いたします!! 」
シュゥゥゥウ――
杖の先端に赤い光が集まり、一気に火球が誕生した。
「さぁ! 主席で卒業したワタクシの実力を、とくとご覧あれぇぇぇえ!
『爆炎(エクスプロージョン)』!!」
ロイドが気合いを込めて杖を前へ突き出すと、
盗賊団のど真ん中で大爆発が巻き起こった。
シュンッ!――
ドガァァァァァン!!!
「ロイドォォォオオ!!
賠償金は、お給金から天引きにしてやりますわよぉおお!! 」
施設長の中にある、悪役令嬢の性格が叫んだ。
「へ?! ワタクシから天引き?! 」
ロイドは我に返ったがもう遅い。
杖から止まらぬ火球に、森の木々や地面が燃やされていく。
「ギャァァァァッ! 」
「本気すぎるだろぉぉ! うわぁぁああ! 」
盗賊団は一撃で消し飛び、全員が綺麗な黒焦げと仕上がった。
「ハァ、ハァ。マスター、やりましたよ――」
頭から、煙を上げながら親指を立てるロイドくん。
ルルは静かに頷き親指を立てた。
スケッチブックのページをめくり、サラサラと書いてロイドに見せた。
【よくできました。お弁当が無事でよかったです】
それから、残った盗賊達は元騎士団と元暗殺者の皆で木の幹に縛り付けた。
「フンッ! マスターに歯向かったら、どうなるか......。
これで分かっただろう? 」
「ヒャイッ......」
片付け終わると、再び頂上を目指す。
「私は、あと何年ただ働きすればいいのでしょうか――」
【分からない。でも、王様優しそうだから大丈夫だよ。多分】
ルルは、ロイドを励ましたかったが
焼けた状況を見ると上手く言葉が出なかった。
ロイドは魂が抜けたように、「天引き」と小さく呟きながら歩き始めた。
「標高まであと5m」木の看板の文字を通り過ぎ、皆で無事に丘の頂上へと到着した。
【さあ、丘の頂上でお弁当にしましょう】
「おおお!守り切ったぞぉぉお!マスター、万歳!!」
タコさんウインナーの生存に大歓声を上げる。
その様子を、縛り付けられた盗賊団の頭領が震えながら見上げて口を開いた。
「おい、どういう事だ。あんなに強いとは聞いてねぇぞ」
「そうだ! あの変な鳥の情報も聞いてない! 」
他の盗賊の男が怒鳴っていた。
だが、語りかけた先の男は震えるばかりで無言だった。
「おい! 何か言ったらどうだ!!」
「あ、あの女だ......。一言も喋らねぇのに、伝説の化け物どもを
『タコさんウインナー』という謎の隠語(精神呪縛)だけで
一瞬で殲滅(せんめつ)させた......。
やはりあの女こそ、この世界の裏の支配者なんだ!! 」
施設で捕まえたはずの会計士が叫び出した。
◆
重箱によって、おにぎりとサンドウィッチ、に分かれている。
そして、最後に開けた中央のタコさんウィンナーと卵焼き、唐揚げの重箱をルルは開けた。
パカッ
香ばしいウィンナー揚げ物の香りが広がると、どこからともなく拍手がわいた。
「はーい!皆さん仲良く食べましょう!」
「せーの! いただきまーす!」
お弁当を配り終わり、施設長がご飯タイムのアナウンスをする。
「見よ!! 我のタコさんウィンナーの方が大きいぞ! 」
「外で食べるお弁当は美味しいね」
ゴトッ
【コッコちゃんの分】
『わぁーい! ありがとう、マスター! 』
ルルは数回頷き、その後ロイドと一緒にお茶を配るのであった。
(皆、楽しそうで良かった。早起きして作った甲斐があったな)
青空の下、色とりどりのレジャーシートの上に座った皆の笑い声が
丘に響き渡っていた。