第八話:新たな家と仮面を被った王
ガラガラッ......
手押し車を引いたルルは、サクサクッと芝生を踏みしめ裏庭へ向かっていた。
荷台には、3頭と1羽用の朝ご飯が積まれている。
(リュックの時より便利になった。作ってくれたおじいちゃんありがとう)
施設の裏庭の隅に、新たな建物が二つ出来ていた。
一つは、コッコちゃんの家。
彼女の家は全て防火対応の赤い魔石で作られ、
他にも発光する珍しい宝石を自身で見つけては部屋に飾っていた。
外壁の魔石は、ポチが二日掛けて魔物を狩ってきたおかげである。
コンコンッ
「コケッ! 」
『どうぞ!』
ガチャッ
【おはよう。よく眠れた? 】
『マスターおはよう。うん! ヒンヤリした石のベッドは最高よ! 』
羽を大きく広げ、ご機嫌のコッコちゃん。
ルルは、静かに頷いた後、荷台から持ってきた朝食と飲み物を皿へ移し替えた。
【あとこれ、エリザさんから】
ポケットから出したのは、ロイドが防火魔法をかけた花のブローチだった。
「コッココッ......。ケエッ? 」
『これ、燃えない? 』
ルルが頷くと、そっと口ばしで掴みトコトコとベッドの上に置いた
コッコちゃんは、尾ひれを嬉しそうに左右に揺らした。
敵意がない人間は、コッコちゃんの炎で燃えないという事が最近分かった。
ルルは近づき優しく背中を撫でた後、ペンで書いたスケッチブックの文字を見せる。
(高級羽布団......。フワフワッ。癒される)
【じゃあ、またね】
ガラガラッ......
(喜んでたってエリザおばあちゃんに後で伝えなくちゃ)
ルルは、家から外へ出ると再び手押し車を引きながら次の家に向かった。
キィィッ
(着いた)
ドワーフのおじいちゃんが、丹精込めて作った特製ポチの家。
広い平屋に水色の屋根。
外壁の真ん中に、黄金の骨の飾りが太陽の光に照らされ輝いている。
黒い大理石の表札には、金色の文字で大きく『ポチ』と刻まれていた。
部屋で眠っていたポチは、ルルの足音にピクピクッと耳を立て
目をゆっくり開けた。
コトッ
【おはよう。朝ご飯だよ】
ロイドだと黒焦げになるので、毎日ルルが世話をしている。
今日のご飯は挽肉と野菜を炒めて、米粉の皮で包んだもの。
塩分を使っていない野菜とキノコのスープ。
『ありがとう!』
『マスターの作った飯は、いつも美味い』
『ご飯食べたら、また遊ぼう! 』
尻尾を振りながら、すっかりポチはルルに懐いていた。
目を輝かせながら、美味しそうに食べ始めたポチを撫でるルル。
(今日も素晴らしいモフモフ。可愛いな。ポチ、また後でね)
ルルは手押し車を元の場所へ置き、施設の入り口へ移動すると
正門の前に人だかりが出来ていた。
目を細めて見ると、慌ただしく職員達が掃除をしていたり
赤く長い絨毯を敷いている。
(誰か来るのかな? )
ルルは首を傾げながら、施設へと戻って行った。
「チーフ! た、大変です」
ロイドが慌てた様子でルルへと駆け寄って来た。
「王が、今日視察に来るらしくて――」
(なるほど。だから赤い絨毯を広げていたんだ)
それから、施設長は午前中用事がある為。
国王の出迎えは、チーフが行うとロイドから聞いた。
(先に、挨拶書いておこう)
ルルは、話を聞き終わると自室へと戻って行った。
――数時間後
一際豪華な馬車が止まり、騎士が扉を開ける。
カツッカツッ......
銀髪に紫の瞳。胸元には国章の金色のバッジが付いている。
彼が、この国の王。エドマール(62歳)。
「国王陛下。ようこそお越しくださいました」
声を揃えた職員達は、一斉に頭を下げた。
その中央にはルルが数歩前に出て頭を下げる。
ロイドは、お昼寝の見守り係の為、施設内に居る。
「ふん、伝説の英雄や魔王が集まる施設だと聞いて来てみれば......。
案内役が、小娘とは情けない。
我が国の安全をこのような子供に任せているとは、呆れたものだ」
豪華な赤いマントを羽織った王は、鼻で笑ったが
内心では、優しいおじいちゃんを発動していた。
王の背後には、国で最強と呼ばれる騎士団の面々が、
厳つい鎧を着込んでずらりと控えている。
『ああ。またやってしもうたあぁぁ!
威厳ある喋り方をすると、冷たく言い放ってしまう。
こ、こんな幼子を働かせて、施設長は何を考えている!
ここの老人は危険なんだぞ?!
それに、よく見たら手に傷がいくつもある。
可哀想に、後で傷薬を送ってやろう』
ルルはいつも通りの真顔でペコリとお辞儀をし、スケッチブックを掲げた。
(緊張する。私の事、きっと......いいようには思ってないよね? )
【遠路はるばる、お越しいただきありがとうございます】
ペラッ
【お静かに見学してください。お昼寝の時間がそろそろ終わりますので】
『偉いねぇ~。この子供は、筆談で一生懸命挨拶をしてくれている。
うん、うん。我は静かに移動するぞ。
あとで王都のお菓子を、この子と出迎えてくれた職員達へ渡そう』
心の中で、陛下がルルへ拍手を送っていることは誰も分からない。
待機していた騎士の一人が、ルルの前に数歩進んで声を荒げた。
「この小娘!! 無礼な! 口がきけない者が出迎えるだけで不敬だ! 」
「そうだ! 更に陛下に向かって命令するとは――」
その瞬間。
バンッ!!
ダダダダダダッ――
土煙をあげながら、扉からおじいちゃん、おばあちゃん達がゾロゾロと出てきた。
「おい、若造達! 我らがマスターに向かって、随分と大きな口を叩くじゃないかい」
マーサおばあちゃんが、殺気ゼロのまま、いつの間にか王様の真後ろに立っていた。
その手には、定規(ナイフのつもり)が握られていた。
「ヒッ!? いつからそこに――って、お前は
三十年前に我が国の大臣を暗殺した暗殺者のマーサ!? 」
陛下は小さく悲鳴を上げ、微かに肩が震えている。
「なーにが、大臣だ。平民を騙してた腹黒男だったろうが!
あたしが成敗してやったんだ。感謝して欲しいね!! 」
「ぐぬぬっ! 我らがマスターの静寂を乱す者は、
王といえども容赦せんぞ! 」
フォードおじいちゃんが、剣に青白い光をまとわせ
騎士たちの前に立ちはだかり鋭い眼光で剣を構え直した。
ボワッ!――
「我がマスターを侮辱するとは......。塵にしてくれるわ! 」
ベルゼおじいちゃんまで、漆黒の炎を片手から出して、ニヤリと笑みを浮かべた。
世界崩壊させれるレベルの元強靭達が、
一斉にルルを「マスター」と呼び、王や騎士達の周りをギロリと睨みつけたのである。
(皆、あの距離で、よく聞こえたね? 私は言われ慣れてるから気にしてないよ)
ルルはそう思ったが、皆が真剣な顔で怒っている姿を見て
心が少し温かくなったのを感じていた。
騎士団が国王の前に一斉に出て守る体制を取るが、剣を持つ手は震えている。
「ケホッケホ! 皆、どこに行っちゃったんですか? 」
頭が黒焦げのロイドが最後に杖を突きながら出てきた。
「坊主! マスターの事をこいつらが、口がきけないとか、
不敬だとか侮辱してたんだ! 」
フォードおじいちゃんが後ろを振り向かないまま、叫んだ。
「ハァァア?! ワタクシがぶっ潰します!! どいつですか! 」
黒焦げの顔で、目を擦りながら王に近づくロイド。
途中で失言したと気づくには、あまりにも遅かった。
「へっ陛下!? あ、えっと......陛下のことではありませんからね」
苦笑いをしながらロイドは、ルルの所まで後ずさりした。
王は深く息を吐いた。
『危な~い。潰されなくて良かったー。我はその言葉を言ってないけどね?
にしてもだ! この騎士達は城に帰ったらクビだ。
言葉が過ぎたな、我の子供が同じ立場だったらと思うと胸が痛む』
王は、無表情のまま内心では静かな怒りを面に出ないように
ギュッと拳を握った。
パチパチッ――
「やぁ~ルルちゃん。今日も見事な支配力だね~。
陛下! 遅くなりまして申し訳ございません」
拍手をしながら笑顔で、歩いてきた施設長。
施設長とロイドが、国王の勘違いをまた加速させていく......。
(あぁ......皆、落ち着いて......。)
ルルは、その場を見守ることでしか出来なかった。
王様と騎士団は、真っ青な顔になり、ガクッとその場に膝から崩れ落ちた。
「ま、まさか報告書に記載されていた新人というのは――!」
「はい! このルルちゃんと、ロイド君です! 」
にっこりとした笑顔でルルとロイドの肩を組む施設長。
「ど、どういう事なのだ?!な、何という底知れない組織......!
この娘、実は支配の祝福を持っているのか?!
もしや......この世界の裏の支配者だったのか......!! 」
『どうしよぉ~!! さっき冷たい感じで挨拶しちゃったから、
嫌われちゃったかもしれぬーー!
怖いよー! 最強を束ねるのが、こんな可愛い子だって分からんかったー!
国を壊されたらどうしよ!! 妻に怒られちゃう!』
王の内心は、更に混乱していた。
ズサッ――!!
王様は誤解の極みに達し、ルルに向かって地面に頭を擦り付けた。
「お、お許しください、マスター!
我が国は、貴女の組織に一切の敵対する意志はありません!
どうか、どうか国を滅ぼすのだけはご勘弁をおおおぉぉ! 」
ルルは、そっとスケッチブックをめくりサラサラ書き始めた。
(私の祝福なんて聞いたことがないし、魔力もないよ? )
【ただの雇われチーフです。ご飯のために働いています】
それを見た王様は、口を開いたまま動けなかった。
『国家を崩壊させることすら可能な戦力を従えておきながら、
なんと謙虚な......!
いや、違うな。『私にとって管理することなど、造作もない』という
絶対強者の余裕。格の違いを見せつけられているのだ!』
ルルは、動かない王へ次のページを見せる。
【どうぞ、お立ちください】
小さい手を王へ差し出した。
ハッと我に返った王は、微かに震えた指先をルルの掌に乗せた。
よろよろと立ち上がると、お互いに頭を軽く下げて離れる。
ルルは、おじいちゃん達に向かって次のページをめくり文字を見せた。
【今日のおやつは、プリン】
「うおおおぉぉぉおお!! 」
一斉に盛大な叫び声が響いた。
「マスター最高! 」
「マスター万歳!!」
世界を滅ぼせる猛者たちが、プリンの一言に大喜びで肩を組み
鼻歌を口ずさみながら施設の中へ入って戻って行った。
「......そなた、何者なんだ? 」
国王は、怯えた表情でルルを見つめた。
【チーフです。王もプリン食べます? 】
その後、食堂の長いテーブルには
過去の栄光を背負ったおじいちゃん、おばあちゃんの中に
一際目立つ国王の姿があった。
「我は、何をやっているんだろうか」
テーブルに置かれたスプーンを見つめながら、
小さく呟いた国王の声は誰にも届かなかった。
「うんうん!皆、仲良くなって良かったね」
「施設長!何のんきな事言ってるんですか!?
一歩間違ったら私達は投獄もんですよ?!」
呑気に笑っている施設長と必死に怒っているロイド。
それを横目に見ながら、皆へプリンを配っていくルル。
(なにやら後ろの方で2人が騒いでたけど、平和になって良かった)
配り終わると、スケッチブックにペンで大きく文字を書き
バッと掲げる。
【プリン 一人、1個まで! 】
「御意!!!!!」
食堂には、キャラメルの匂いと楽しそうな声が広がっていった。