ホーム›それはまだ青春になりえない›自販機
← 次の話目次前の話 →

自販機

なんで毎日……梅ソーダ
 その子はなぜか毎日。

 真剣な顔つきで、自販機のボタンを押す。


 ⋆˙⟡


 うちの高校には、自販機が3台ある。

 1台は、正門から昇降口へ向かう途中の中庭手前。
 もう1台は、体育館と武道場の間。
 そしてもう1台は、校庭横男子クラブ室の奥。

 男子クラブ室の奥にはテニスコートがあり、テニス部もたまに利用しに来る。が、実質運動部男子専用と言ってもいい。

 そこに最近。

 朝練の男子の波が落ち着いた、朝のホームルーム直前に来る女子がいる。
 

 ⋆˙⟡


「――お、佐々木ささきまたそれー?」

 クラスで仲の良い長谷はせが、ひょいと俺のペットボトルを持ち上げた。

「そ」
「......梅ソーダ......?」
「うめーの、それ?」
「あほか」

 武藤むとうのくだらない発言に、ぎゃはは! と笑う長谷。
 ばーか、と言って俺は、ペットボトルを取り返す。

「これ、あれじゃん。テニスコート横にしかないやつ」
「知ってんの、武藤」
「なんか、女子が話してた。誰が買うんだって」

 梅干し味? とパッケージを覗き込む長谷の顔に、ペットボトルをぶつける。
 ひでー佐々木! とわざとらしく声を上げる長谷。
 それを無視して武藤が、じっと俺の顔を見た。

「あー......あれ? 憧れの橘たちばなセンパイが飲んでるとか」
「ねーし」
「え? 佐々木好きな人いんの?」
「長谷、知らんかったっけ」
「知らねー!」
「好きじゃねーって」

 ふいと目を逸らすと俺は、ペットボトルキャップを回した。

「かわいいだけ」
「......いやそれ」
「認めろ!」

 キャップの端を長谷の額にめり込ませながら俺は、ペットボトルを傾けた。
 ぎゃーいてー! と叫んでいる長谷。
 ほどよい強度の炭酸と甘ったるくない梅が、さっぱりする。

 ただ別に、梅味が好きなわけじゃない。



「おっつかれぇー佐々木くん!」
「......っす」

 野球部の朝練を終え、マネージャーの橘先輩が、クラブ室へ向かう男子たちの波をぬって声をかけていく。
 誰にも分け隔てなく明るくて、かわいい先輩。
 おつかれーおつかれーと言っていた橘先輩が、どーん! と1人の部員にぶつかった。
 きゃーでかい! と笑う先輩。前見ろばーか、と笑うのは、彼氏で副部長の玉城先輩。
 いつもの光景。

 別に、好きとかじゃない。かわいくて憧れるだけ。


 制服に着替えると、クラブ室を最後に出た。

 すると――ちょうど、小柄な女子が、とてとてと小走りでクラブ室前を横切っていくところだった。

(......今日も来た)

 ぴたと、自販機の前に立つ。

 固く握りしめていた財布から小銭を出すと、投入する。
 真剣な表情で、ぷるぷる震えてんじゃないかってくらい慎重に、自販機のボタンを押した。

 ペットボトルを取り出すと、パッケージをじっと見つめ、満足そうに、踵を返す。
 来た時と同じように、とてとてと校舎へ向かっていった。

 これが、少し前からの、朝の光景。

(なんで毎日......梅ソーダ)

 俺は不思議に思いながらも、自販機へ向かう。
 小銭を入れると、同じボタンを押した。



 ある日、いつもの小走りが、るんるん弾んでいた。
 いいことがあったんだろうか。
 ボタンを押すときわずかに身をよじると、きゃ、と一度声が漏れる。
 いつものボタンを押すと、嬉しそうにパッケージを見つめ、るんるんと校舎へ戻っていった。


 またある日は、自販機にめり込むくらい頭を預けていた。

(......??)

 どうした、と思いながらも、誰なのかも知らないから声もかけられない。
 少しして、しょぼんとした雰囲気で小銭を入れた。
 自販機を後にする彼女のとてとては、少し元気がなかった。



「おっつかれぇー佐々木くん!」
「......っす」

 いつものように橘先輩に声をかけられて、いつものように、クラブ室を最後に出る。

 すると、例の女子が自販機の前で立ち尽くしていた。

 なるほど。
 ボタンに赤いランプが点灯している。売り切れ。

 小銭は入れてしまったようだった。返却レバーを引けばいいのに、指をぴっと立ててまま、動かない。
 すん、と一度鼻をすする彼女。
 そうして、梅ソーダの隣のボタンを押した。

 振り返った彼女はきゅうっと口をつぐみ、眉をへの字に下げていた。
 悲しそうにパッケージを見つめる。
 とぼとぼ帰っていく彼女から、なぜか目が離せない。

 彼女が校舎の中へと消えると俺は、自販機の前に立った。
 同じボタンを押す。

 ガコン、と転がり出てきた。

「......いや、なんでこれ」

 冷やししるこって、美味いのか?
シェア
前の話 →
前後
← 次の話
梅ソーダ
それはまだ青春になりえない作者:朝日エール
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

自販機

なんで毎日……梅ソーダ
 その子はなぜか毎日。

 真剣な顔つきで、自販機のボタンを押す。


 ⋆˙⟡


 うちの高校には、自販機が3台ある。

 1台は、正門から昇降口へ向かう途中の中庭手前。
 もう1台は、体育館と武道場の間。
 そしてもう1台は、校庭横男子クラブ室の奥。

 男子クラブ室の奥にはテニスコートがあり、テニス部もたまに利用しに来る。が、実質運動部男子専用と言ってもいい。

 そこに最近。

 朝練の男子の波が落ち着いた、朝のホームルーム直前に来る女子がいる。
 

 ⋆˙⟡


「――お、佐々木ささきまたそれー?」

 クラスで仲の良い長谷はせが、ひょいと俺のペットボトルを持ち上げた。

「そ」
「......梅ソーダ......?」
「うめーの、それ?」
「あほか」

 武藤むとうのくだらない発言に、ぎゃはは! と笑う長谷。
 ばーか、と言って俺は、ペットボトルを取り返す。

「これ、あれじゃん。テニスコート横にしかないやつ」
「知ってんの、武藤」
「なんか、女子が話してた。誰が買うんだって」

 梅干し味? とパッケージを覗き込む長谷の顔に、ペットボトルをぶつける。
 ひでー佐々木! とわざとらしく声を上げる長谷。
 それを無視して武藤が、じっと俺の顔を見た。

「あー......あれ? 憧れの橘たちばなセンパイが飲んでるとか」
「ねーし」
「え? 佐々木好きな人いんの?」
「長谷、知らんかったっけ」
「知らねー!」
「好きじゃねーって」

 ふいと目を逸らすと俺は、ペットボトルキャップを回した。

「かわいいだけ」
「......いやそれ」
「認めろ!」

 キャップの端を長谷の額にめり込ませながら俺は、ペットボトルを傾けた。
 ぎゃーいてー! と叫んでいる長谷。
 ほどよい強度の炭酸と甘ったるくない梅が、さっぱりする。

 ただ別に、梅味が好きなわけじゃない。



「おっつかれぇー佐々木くん!」
「......っす」

 野球部の朝練を終え、マネージャーの橘先輩が、クラブ室へ向かう男子たちの波をぬって声をかけていく。
 誰にも分け隔てなく明るくて、かわいい先輩。
 おつかれーおつかれーと言っていた橘先輩が、どーん! と1人の部員にぶつかった。
 きゃーでかい! と笑う先輩。前見ろばーか、と笑うのは、彼氏で副部長の玉城先輩。
 いつもの光景。

 別に、好きとかじゃない。かわいくて憧れるだけ。


 制服に着替えると、クラブ室を最後に出た。

 すると――ちょうど、小柄な女子が、とてとてと小走りでクラブ室前を横切っていくところだった。

(......今日も来た)

 ぴたと、自販機の前に立つ。

 固く握りしめていた財布から小銭を出すと、投入する。
 真剣な表情で、ぷるぷる震えてんじゃないかってくらい慎重に、自販機のボタンを押した。

 ペットボトルを取り出すと、パッケージをじっと見つめ、満足そうに、踵を返す。
 来た時と同じように、とてとてと校舎へ向かっていった。

 これが、少し前からの、朝の光景。

(なんで毎日......梅ソーダ)

 俺は不思議に思いながらも、自販機へ向かう。
 小銭を入れると、同じボタンを押した。



 ある日、いつもの小走りが、るんるん弾んでいた。
 いいことがあったんだろうか。
 ボタンを押すときわずかに身をよじると、きゃ、と一度声が漏れる。
 いつものボタンを押すと、嬉しそうにパッケージを見つめ、るんるんと校舎へ戻っていった。


 またある日は、自販機にめり込むくらい頭を預けていた。

(......??)

 どうした、と思いながらも、誰なのかも知らないから声もかけられない。
 少しして、しょぼんとした雰囲気で小銭を入れた。
 自販機を後にする彼女のとてとては、少し元気がなかった。



「おっつかれぇー佐々木くん!」
「......っす」

 いつものように橘先輩に声をかけられて、いつものように、クラブ室を最後に出る。

 すると、例の女子が自販機の前で立ち尽くしていた。

 なるほど。
 ボタンに赤いランプが点灯している。売り切れ。

 小銭は入れてしまったようだった。返却レバーを引けばいいのに、指をぴっと立ててまま、動かない。
 すん、と一度鼻をすする彼女。
 そうして、梅ソーダの隣のボタンを押した。

 振り返った彼女はきゅうっと口をつぐみ、眉をへの字に下げていた。
 悲しそうにパッケージを見つめる。
 とぼとぼ帰っていく彼女から、なぜか目が離せない。

 彼女が校舎の中へと消えると俺は、自販機の前に立った。
 同じボタンを押す。

 ガコン、と転がり出てきた。

「......いや、なんでこれ」

 冷やししるこって、美味いのか?
シェア
次の話梅ソーダ
それはまだ青春になりえない作者:朝日エール
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません