ホーム›それはまだ青春になりえない›前後
← 次の話目次

前後

なんでなのかな。
 席替えで、前後になった。

 私が後ろ。
 彼が前。

 プリントを回すとき。

 彼はなぜか、変な渡し方をしてくる。


 ⋆˙⟡


 同クラのテニス部の武藤むとうくん。
 茶髪で背も高くて、人当たりもよくてお調子者。
 同じくお調子者の、同じくテニス部の長谷はせくんと、野球部の佐々木ささきくんと仲が良い。
 クラスでも人気者だった。

 私のような、文化部系地味キャラとは、相容れない人。のはず。


「はーい、笠原かさはらさん」

 今日も、ブリッジかな? ってくらいエビ反りしながら渡されるプリント。
 普通に「はい」って渡せばよくない?

「......はい」
「どぞ」
「............ちょっ......」
「え?」
「取れない」
「あーごめごめ」

 テニス部の握力酷使してきたな、くらいの力強さでプリントを離さない武藤くん。
 何でそんなこと。

 彼とは、一切話したことなかったのに。


 別に、好きだとか。
 そんなんじゃなくて。

 ただ、目を引く。
 私とは別世界で輝く彼が、眩しいだけで。
 私は教室でひっそりと、眺めているだけだった。


 そんな彼と。
 席替えで前後になった。


 それはあるよね。そういうことも。
 席替えなんだから。
 幸い私は後ろだったから、ああ背が高くて黒板見えにくいな、と思いながら、彼の広い背の制服のシワを眺めるだけ。

 ......だったのに。

 なぜか、彼は、プリントを変な風に渡してくる。

 反って上から。
 全然離してくれなかったり。
 ないよー、って。何も握られてない手だけを向けてきたり。

 ......なにそれ。


 ある日、私は風邪を引いて高校を休んだ。

 次の日。

 数学のプリントを回すとき、身体を全部こちらへ向けた彼。
 要は「こんにちは」みたいな感じで向かい合った。

「......?」
「昨日、いなかったから」
「......??」

 どゆこと?



 地理の授業は出席番号順に座る。

 その時、たまたま彼の姿をちらりと捉えた。
 すると、武藤くんは後ろの女子に、すって普通にプリントを回した。


 なんでかな、とか。
 特別、じゃないけど、なんかあるのかな、とか。

 期待じゃない。
 期待じゃないんだけど、なんだか胸がそわそわするの。

 そんなの無縁な高校生活だと思ってたのに。



 今日も彼は前の席で、長谷くんと佐々木くんと盛り上がっている。
 ふざけた長谷くんの腕がガタッ、と、私の机に当たった。

「あーごめん笠原さん」

 謝るのはなぜか、武藤くん。

「今日、いつもより髪くるくるー!」

 ははって笑いながら、長谷くんたちの方を向いた。


 なんで、なのかな。
 期待なんて、しないんだけど、なんでなのかなって。

 気になって。

 背中の制服のシワを見ちゃうんだけど。
シェア
← 次の話
自販機
それはまだ青春になりえない作者:朝日エール
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

前後

なんでなのかな。
 席替えで、前後になった。

 私が後ろ。
 彼が前。

 プリントを回すとき。

 彼はなぜか、変な渡し方をしてくる。


 ⋆˙⟡


 同クラのテニス部の武藤むとうくん。
 茶髪で背も高くて、人当たりもよくてお調子者。
 同じくお調子者の、同じくテニス部の長谷はせくんと、野球部の佐々木ささきくんと仲が良い。
 クラスでも人気者だった。

 私のような、文化部系地味キャラとは、相容れない人。のはず。


「はーい、笠原かさはらさん」

 今日も、ブリッジかな? ってくらいエビ反りしながら渡されるプリント。
 普通に「はい」って渡せばよくない?

「......はい」
「どぞ」
「............ちょっ......」
「え?」
「取れない」
「あーごめごめ」

 テニス部の握力酷使してきたな、くらいの力強さでプリントを離さない武藤くん。
 何でそんなこと。

 彼とは、一切話したことなかったのに。


 別に、好きだとか。
 そんなんじゃなくて。

 ただ、目を引く。
 私とは別世界で輝く彼が、眩しいだけで。
 私は教室でひっそりと、眺めているだけだった。


 そんな彼と。
 席替えで前後になった。


 それはあるよね。そういうことも。
 席替えなんだから。
 幸い私は後ろだったから、ああ背が高くて黒板見えにくいな、と思いながら、彼の広い背の制服のシワを眺めるだけ。

 ......だったのに。

 なぜか、彼は、プリントを変な風に渡してくる。

 反って上から。
 全然離してくれなかったり。
 ないよー、って。何も握られてない手だけを向けてきたり。

 ......なにそれ。


 ある日、私は風邪を引いて高校を休んだ。

 次の日。

 数学のプリントを回すとき、身体を全部こちらへ向けた彼。
 要は「こんにちは」みたいな感じで向かい合った。

「......?」
「昨日、いなかったから」
「......??」

 どゆこと?



 地理の授業は出席番号順に座る。

 その時、たまたま彼の姿をちらりと捉えた。
 すると、武藤くんは後ろの女子に、すって普通にプリントを回した。


 なんでかな、とか。
 特別、じゃないけど、なんかあるのかな、とか。

 期待じゃない。
 期待じゃないんだけど、なんだか胸がそわそわするの。

 そんなの無縁な高校生活だと思ってたのに。



 今日も彼は前の席で、長谷くんと佐々木くんと盛り上がっている。
 ふざけた長谷くんの腕がガタッ、と、私の机に当たった。

「あーごめん笠原さん」

 謝るのはなぜか、武藤くん。

「今日、いつもより髪くるくるー!」

 ははって笑いながら、長谷くんたちの方を向いた。


 なんで、なのかな。
 期待なんて、しないんだけど、なんでなのかなって。

 気になって。

 背中の制服のシワを見ちゃうんだけど。
シェア
次の話自販機
それはまだ青春になりえない作者:朝日エール
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません