温かく、心安らぐ抱擁……
042
「ふん!!!」
「あぐっ!!!!」
「はい!......勝者は......今回もユリカさんです......」
黒髪に白いメッシュのポニーテールをした少女が、道場内の生徒を一瞬で投げ飛ばした......そしてそれで彼女は12人目の相手にも勝利した。
「すごい......榎本先輩って......本当に電光石火の速さだよね......」
「そうだよね......国代表にもなったことあるらしいよ......確か5年前にテコンドーで金メダルも取ったんだって......本当は合気道が得意なのに」
「不思議じゃないよ......だって武術一家の榎本家の娘さんだもん......青山や中野と同じくらい古い武士の家系らしいよ......古墳時代からあるらしいし......」
「え......それは盛りすぎでしょ......」
この頃私は......いつも同じ夢を見る......
「先輩!!......あの......その......お、水です......」
「...............」
私は頷いて返事をして、水を受け取って飲んだ......
「あっ......」
この子はきっと新入りなんだろう......
「あ......そっか、新入りだから知らないよね......先輩は話せないの......」
「あっ!!すみません!!!先輩がそうだって知らなくて......」
私は微笑みながらその子の手を取って、自分を指さしてから、彼女を指さした......それから手を握り合った......
「...............」
「彼女は言った......『これから友達だね』って......」
「はい!よろしくお願いします!!」
私はその子の頭を撫でてから、道場のホールを出た......
「きゃー!!榎本先輩!!」
「相変わらずかっこいい......」「昨日もかっこよかったし、今日もかっこいい......」「明日もきっとかっこいいよね......」『『だよね!!!』』
毎日いつも......私がどれだけかっこいいか褒めてくれる人がいる......
「先輩!!」
「......?」
「写真撮ってもいいですか?......」
「.........」
私は頷いた......女の子たちが私の周りに群がってきた......
「ユリカ......」
背が高くて筋肉質な男の人が私を呼んでいる......
「...............?」
「ちょっと話がある......」
そう......この人は私の父だ......
「父さん......何度も......言ったけど......でも......お前......まだ......継ぐ......つもりが......ない......のか......うちの......家業を......本当に?......」
またか......正直に言って......私は家業を継ぐつもりなんて全くない......
「.........」
私はすぐに首を振った......
「でも......お前は......一人娘......なんだぞ......この家の......」
「私......なりたく......ない......誰の......何にも......前に......言ったよね......私......なりたい......のは......VTuberだって......」
そう......それがずっと私がなりたかったものだ......
VTuber......
「でも......お前......話せない......のに......どうやって......なるつもりだ?......」
「...............」
「待て!ユリカ......どこ行くんだ!まだ話終わってないぞ......」
外......
「はぁ......」
私はよく夕方に街の景色を見に散歩に出る......
父はいつもこの話をしてくる......もちろん私はずっと拒否してきた......
VTuber......ずっとなりたかったもの......なのに絶対になれないもの......
「.........」
アキトさんはいつも言っている......叶わない夢なんてどの時代でも、どの年代の人にもよくあることだって......
だから夢なんて持たない方がいい......あの人みたいに、他人の不幸で食っていくような落ちぶれた人間になってしまうから......
チームのVTuberタレントから2%を差し引く人......自分の本当の能力でお金を稼ぐことなく、あらゆるコネを使って自分の妹や他のメンバーを養うためにお金を稼ぐ人......
もしあと10年早く彼に出会っていたら、私はこんな風に何かに執着することもなかっただろうに......
VTuber......私が中学生の頃、インターネットの世界に現れた可愛らしいキャラクター......
明るく元気そうに見える少女の姿が、私のような人間の目を瞬く間に釘付けにした......
私はずっとVTuberを育んできたインターネットの世界に魅了されてきた......あの子がネット民の目に触れてから、10年間ずっと何人もの子が生まれ続けてきた......
私は微笑んだ......そしていつか自分もそうなれたらと、ただ願うだけだった......
そして皆が知っての通り......
「娘さんは生まれつき喉頭に異常があります......そのため言葉を発することができません......ですが耳や他の器官は問題なく機能しています......」
「治療法は本当にないんですか?......先生......」
「残念ですが......お嬢さんには諦めていただくしかありません......」
3歳の時に私に襲いかかった現実......
私はずっと変わり者として生きてきた......いつもいじめられて......ゴミのように見られて......あらゆることをされてきた......
でもあの子たちだけが......VTuberだけが......私を今でも笑顔にしてくれる......
今私が持っている小さな世界は......あの子たちだけだ......
「あら......榎本さん......」
この声は......
「......あっ!」
瑠璃川さんだ......
「会えて嬉しいです......買い物......ですか?......」
彼女はいつも私に手話で話さなきゃいけないことを忘れてしまう......
「......私......散歩......してた......んです......」
「へえ......じゃあ......何か......食べに......行きませんか?......」
私は頷いて答えた......
「あっ!」
彼女は私の手を取って街の中を走り出した......
「はい......」
彼女はクレープを買ってくれた......
「あの......」
私はお金を出そうとしたが......彼女はすぐに断った
「これは奢りです......」
「え......?」
不思議だ......普通、同年代の人がこういうものを奢ってくれることなんてない......
「あっ!榎本さん、笑って!」
「え!!」
彼女は私と自分自身を写真に撮った......
「そして投稿っと!!」
待って!急に撮るなんて!!
「あ......大丈夫です......顔はぼかしておきましたから......」
はぁ......
「あり......がとう......」
「あら......大したことないですよ......こんなの......」
改めて考えてみると......こういう小さな優しさを受け取るのも悪くないなと思う......
私は瑠璃川さんの袖を少し引っ張った......
「......?」
「私......羨まし......いです......あなたが......」
「私が羨ましい?......どうしてですか?」
「私......話せない......んです......生まれつき......でも私......なりたかった......ずっと......VTuberに......」
「...............」
「私......夢......見たんです......みんなと......楽しく......話せる......夢を......」
「榎本さん......」
「笑って......泣いて......くだらないこと......を......楽しく......話す......」
「話す......能力を......失った私......は......生きながら......死んでいる......のと......同じ......です......」
どんなに頑張っても叶わない夢......どれだけもがいても永遠に叶うことのない夢......
「......あっ......」
瑠璃川さんは私の手を握った......そして優しい笑顔を私に向けた......
「大丈夫ですよ......」
彼女は私を抱きしめた......夏が過ぎ去り......秋が訪れる頃......外の空気は少し前より冷たくなっていた......
温かい雰囲気がそれに取って代わった
「夢を叶えられなくても......別の方法で夢を叶えることはできますよ......」
彼女は私の耳元でそっと囁いた......でもそれは私の心に強く響いた
「榎本さんがVTuberになれなくても......もしまだVTuberになる夢を持ち続けているなら......諦めないでください」
「.........」
「......ね?」
それは特に意味のない、ただの慰めの言葉だった......でもそれが不思議と私の心を軽くしてくれた
まるで、こうやって話しかけてくれる誰かを......ずっと待っていたかのように......
「お前にはできない」という言葉が......ずっと頭の中で響いていた......
でも今回は......そうじゃなかった......
「うん......」
東京の冷たい空気の中で......出会ってまだ二週間の友人から温もりをもらった......
「もしもし......ユウタくん?......うん......ちょっと頼みたいことがあるんだけど......」
「あ、うん......その......何か作ってほしいものがあってさ......お金は払うから......」
「できる?......うん!よかった......」
「じゃあ......また連絡するね......」