椿落つとも、春還る
『白で統一してばかりだと、お客様のお持ちである美しき硝子細工のような髪と虹の眼が霞んでしまう可能性があります。ですので、インナー...つまりは下着にこういった少しレースが入った黒などがお似合いになるかと』
店員は、アイの美しきオーロラを捉えながら話を進める。リンの方に一ミリも目を向けない。
『黒レース、気に入った。けど、これだけなら肌が見えない?』
ぎこちない東方の言葉は、少し甘い。
『ですので、こちらの白月の布を使い長袖上衣...言わば服の大部分を作り上げます。そしてお客様の美しき虹眼を合わせ、帯部分には、ホログラム加工がされているような独特な異彩の輝きを放つ物をお選びになるのが良いかと』
アイはゆっくりと首を傾げた。
「リン、ホログラムってなんだ?」
「......ん?あぁ虹彩色って呼ばれる...アイの瞳を人工的に作り上げたかのような色だな」
「成程...沢山柄がある、勿忘草はないのか?」
その言葉に、リンは思わずアイの方を見つめた。無意識か、意識的かは分からないが、リンの眼の色を選ぼうとしていたのだ。
『申し訳ございません、勿忘草の花は当店では取り扱いをしておりません。代わりに、此方の椿の花は如何でしょうか』
ホログラム加工が施された椿の飾りがついた帯を見て、リンは頭に血が上る感覚を覚えた。
『おい!侮辱しているのか!?椿の花こそ合わせたらダメだろうが』
リンの珍しい怒声に、アイは思わず背中をびくりと震わせた。
『説明不足で大変申し訳ございません。椿の花は、生首を連想させるとのことで不吉な印象を持たれる方も多いのですが、真冬の時期にも咲き誇る冬の花として、そして、艶のある美しき丸みを帯びた形の花は、お客様の整ったお顔立ちによくお似合いかと思いましたのでご提案させていただいた次第です』
「リン、椿の花が落ちるのは何故ダメなんだ?」
清廉された鈴の声。不快感はなく、耳によく通る硝子玉のような声を聞き、リンは少しずつ熱が冷めていく。
「...生首を連想させるからだ」
「桜が散ると同じ様に、椿も落ちる。両方ともいずれは枯れ果てる存在だ。何がダメなんだ?」
「......お前は、ほんとうに...」
その続きをなんで言ったのかは、聞き取れないほど小さい声だった。
アイに分かるのは、リンが初めて自分に関する事で怒りを表したということと、不安の色が見て取れただけだった。
『私、椿の花がいい』
甘い東方の言葉を連ねたアイの言葉で、店員は嬉しそうな笑みで『かしこまりました』と言う。
最終的にアイの服装は、月白の布が使われた長袖上衣と黒のレースインナーに決まった。
帯には、本来であれば、様々な色へ変化するホログラム加工の白椿が用いられる予定だった。
しかしアイは、その装飾を見つめながら静かに甘い、まだ慣れない東方語で問いかけた。
『帯、椿の花。翡翠と白のみに、できない?』
店員は一瞬目を丸くした後『勿論可能でございます』と嬉しそうに微笑み、特注品として仕立てることを約束した。
服は時間を少し貰うと言っていたが、帯は直ぐに完成させてくれた為、アイは帯だけ先に見せてもらった。
翡翠と白銀だけで淡く輝く椿だった。
その特注のホログラム椿を優しく覆うように白の帯を巻き、帯紐は灰青で纏めることで統一感を出している。
下駄風の履き物も灰青を基調とし、鼻緒を黒にすることで全体を引き締めようと提案され、アイとリンは頷いた。
そして胸元には、船主から贈られた翡翠の鶴のブローチが飾られる予定だった。
『次、リン』