コーカスレース
「どうして私がやらなきゃいけないの?」
何もないとは言い難い不思議な空間に、情けない泣き顔が映し出されて驚いた。
忘れもしない。初めての任務の後の私だ。辛くて苦しくて泣いてしまった。
たしか、妖精に騙されて、巨人に追いかけられて、食人族に茹でられた。みなみが助けてくれた。
不思議な空間は視界いっぱいに、私たちの冒険の軌跡を不揃いに並べて映し出す。
あの頃の私は、本の怪異が怖かった。魔法の魔の字も知らない私が命懸けで戦わなければならないのは、祖母任務を放棄して逃げたせいらしいと、みなみが教えてくれた。
何度も逃げ出そうとした。
でも逃げなかった。逃げられなかった。私は、すでに現実の世界から逃げていた。口を開けば勉強しなさいと言う大人も、愛想笑いで付き合う同世代も、みんな嫌いだった。
一方、物語たちの世界は命の危険を伴うけれど、現実よりも生きている実感があった。
何のために、誰のためにやっているのか明確な仕事。私にしかできない、特別な役割。
そしていつも隣には、本音と本気で助け合える相棒がいた。
しかし映像のどこにも相棒、みなみがいないことに気づいてしまった。
映像の中の私と目が合う。私が微笑む。
なるほどこれは、みなみが見ていた私たちの記憶のようだ。
「これが、みなみさんの物語なんですね。」
初めの頃は本の怪異が怖かった。
恐怖と戦い、怪異を封印して、最後の一冊のを前にして、怪異を封印することが怖くなってしまった。