涙の池
書庫のランプに明かりを灯す。
色とりどりの背表紙の本がずらりと並んでいる。
私が初めて訪れた日、書庫の本は半数以上が白かった。逃げ出した怪異を一体ずつ集め、封印するたび書架に色が増えた。
今や白い本の方が目立つほどだ。あと......
――......あと一冊?
そんなはずはない。
未来の幻を見せるウサギを封じる前には、白い本はまだいくつかあった。あと一冊のわけがない。
三面の壁を埋める書架を改めて隅々まで見渡しても、白い本はこの一冊しかない。
「みなみさん。白い本、減ってませんか?」
返事がない。
いつものみなみなら、間を空けずに即答してくれる。
即答できない質問だったとしても、煩わしそうな生返事くらいある筈だ。
振り返る。
誰もいない。
広く薄暗い空間に、私一人。
私はランプで部屋中をぐるりと照らす。
誰もいない。
いつもは騒がしいくらいの小人も妖精も、不意に現れては消える猫又も、書庫の管理者の魔女も......
任務が終わったらいなくなると、いつだったかみなみが言っていた気がする。だが、白い本はまだ一冊だけ残っている。任務は終わっていないはずだ。
「ここだよ、ちなみ。」
中空からみなみの声がする。しかし姿は見えない。
私はポケットの鍵を確かめた。ちゃんとある。ならば見える筈だ。しかし、みなみの声しか聞こえない。
「どこにいるの?」
予想ならついている。というか、そこしかない。
最後の白い本の中。
全ての物語の怪物を封印したらみなみはみなみの世界に帰る。初めからそう言っていた。
任務の終わりを想像してしまったせいで、喉の奥がきゅっと熱い。
それでも、私がやらなければならないのだと、最後の白い本を開く。
最後の怪異、書庫の魔女を封印するための冒険に出かけた。