Radix––根源–– 下編
世界は初め、混沌に満ちていた。
感情も、思考も、祈りも、欲望も。
全部、混ざり合っていた。
その姿は、まるで鴉の群れのようだった。
でも、疲れた。
何もかも抱え込むのに限界が来た。
だから二つに割れた。
一つがアルカナ。始まりを定義する。
秩序、理、原初、定義とも呼ばれる。
一つがタオ。流れを意味する。
変化、循環、自由、可能性。世界を進ませるとも言われる。
神より上。
世界そのものとも呼ばれる根源の名は。
アルタオ―――
「アルカナ!また生き物を死なせた!」
「仕方ないだろう。あの生き物はやがて同族をも殺していた。その野生心が芽生える前に枯れさせるのが我らが役目だ」
「アルカナはもう少し生き物を信じて!」
「タオはもう少し生き物を疑って」
「...鳥虫獣、草木花、季節。朝と夜」
「いきなり何よ」
「動物はいい。自らが生きる為に敵を狩る。だが、必要じゃない殺しや威嚇は行わない」
「昆虫もいい。自然と共存を選んでいる。殆どは自然を尊重していて、自然を壊そうとしない」
「植物は素晴らしい。己の存在する時期と枯れる時期を明確に分けている」
「季節は少し可哀想だ。己の寵愛を時に疎まれ、蔑まれるというのは見ていて痛むモノがある」
「アルカナ、何が言いたいの?」
「人は醜いということさ」
「だから人は面白いのよ」
タオは言う。
「必要以上に奪う事も、奪われる事も、与えられる事も、与える事もある」
「知っている」
「人は、最も定義から外れているかもしれない」
「...知っている」
「だからこそ、人は可能性に満ちている」
「タオは、人が好きなのか?」
「いいえ?タオはこの世界を生きる全ての生き物、現象、感情を愛しているわ」
「......」
「もちろん、アルカナもよ」
「タオは誰よりも、アルカナを愛している自信があるわ。だって――」
「タオとアルカナは、この世界の始まりだもの」
アルカナは、なんて返そうかと悩む。
「アルカナと正反対だな、タオは」
その言葉に、タオは「当たり前じゃない」と返した。
「タオは流転、アルカナは秩序。正反対よ」
「...それも、そうか」
「でも、一つだけ未来を教えてあげる」
その言葉に、アルカナは言葉に詰まる。
タオは、未来を見ようとしない。
何故ならタオは森羅万象の意思を尊重する。
その意思を『先に知る』という行為を、タオは自然と行わない。
生き物に願われたわけでもなければ、
現象に命じられたわけでもない。
タオはそう選択していた。
だからこそ、アルカナは言葉に詰まる。
未来を視たと珍しく言うタオの言葉に、
なんて返せばいいのかわからなかった。
「...何を、視た」
その言葉は、タオにどう届いただろうか。
「アルカナもいつか、人を美しいと思えるわ」
「何故」
「最も可能性に満ちているからよ」
「アルカナの定義から外れる存在だ」
「だから、未来を教えるって言ったのよ」
「人が可能性に溢れているのは、どの生き物よりも定義を理解しているからこそよ」