ホームOblivium  LibraryStella Oblita ―願いの灯火––
← 前の話目次次の話 →

Stella Oblita ―願いの灯火––

 この世界にはかつて『星』があった。
 だが、人々はある日を境に星を見なくなった。

『遠くの光なんて、意味なんてない』

 そう言う人が現れたのだ。
 その一つの疑問は、やがて大きな答えへと着地した。

『星は見るだけで無駄である』と。

 そうして、何百年と月日が経った。

 ある日、一人の子どもが問いかけた。

「どうして夜になると、空に穴があくの?」

 その言葉に、人々は頭を抱えた。
 『星』を見なくなって八百年。
 『星』が世界に忘れられてから三百年。
 世界は、再び空を見上げようとしていた。
「気になるのなら、書庫に行くのはどう?」
「しょこ?」
「そう、この世界のあらゆる知見が見れる場所よ!」
 その言葉に、子どもは目を輝かせた。
「行きたい!」
 子どもの無垢な願いにより、書庫へと向かう。
「みて、おかあさん!」
「どうしたの、ペガ」
「穴があいてる!」
「ふふ、その答えを探しに行きましょう」
 書庫に辿り着いたペガは、手当たり次第に書物を広げた。
「おかあさん、読めない」
「これは夜神様の歴史...これは花神様、これは暁様ね」
「夜神様からみつけられないかな?」
「そうね、なら夜神様を調べてみましょう」
「お母さん、これ」
 不意に、ペガが一つの書物に触れた。
 藍色の表紙に淡い銀が点々と広がっている。
「夜のお空とおんなじ!」
「そうね、これを読みましょうか」

 夜神様は、
 かつて夜空に無数の灯火を浮かべていた。
 それらは遠く、小さく、
 触れることはできなかった。
 しかし人々は、その光を見て夢を描いた。

「ゆめ?」
「時に幸せ、時に不幸。たくさんの感情よ」
「へぇー!」

 その光は時には尾を引いた。
 その時期には、皆願いという灯火を飛ばす。
 その願いは、やがて大きくなっていく。

 今もまだ、願いの灯火は静かに佇む。

「あの穴は、お願いごとなんだ!」
「素敵な捉え方ね、ペガ」

 願いの灯火に夜神は触れる。
 その灯火は夜神と人間の唯一の繋がりである。

「おかあさん、夜神様はひとりなの?」
「...どうかしら」

 灯火の願いが一つ無くなる。
 灯火の願いがまた一つ無くなる。
 この記録も、もう届かないかもしれない。

 どうか、この記録を見てくれた君へ。

 忘れないでくれ、願いの灯火を。
 思い出してくれ、空の灯火を。
 私の願いの灯火を、最後に灯そう。

 遥か未来で、思い出してくれますように。
 この空の、美しさを。

「そろそろ帰りましょう、続きはまた明日」
「ええーっ!」
 ペガは泣く泣く書庫から離れた。
「お母さん、空に穴が...ううん」
 ペガは空に手を掲げた。

「夜神様、きこえるのかな?声」

「きっと、聞いてくれてるわ。何か伝えたいの?」
 その問いに、ペガは大きく頷いた。

「うん、夜神様が一人じゃなくなるよーに!ってお願いするんだ!」

「素敵ね、お母さんも願うわ」
 ペガの母、アルカは静かに空を見上げた。

「夜神様、長らく一人にさせてしまい、申し訳ございません」

「私とペガが、これからは空に願います」

「夜神様、泣かないで」

「穴を開けて、泣く必要はありません」

「お母さんと一緒にお願いする!」

 ペガは両手を掲げて言う。

「泣かないで、夜神様」

 その瞬間、
 一つの願いが灯火となり尾を引いた。
 新しい『願い』ではない。
 ずっとずっと願われていた灯火だった。

 同じ『願い』を持つ者にだけ見える灯火に、
 嬉しそうにペガは微笑んだ。
シェア
← 前の話
Eos ―失われし黎明―
次の話 →
Fides ―最後の信徒―
Oblivium  Library作者:結弦
目次を見る
✍️
まだ感想がありません
あなたの一言が、作者の次の一話につながります。
最初の感想を書いてみませんか?
コメント0
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホームOblivium  LibraryStella Oblita ―願いの灯火––
← 前の話目次次の話 →

Stella Oblita ―願いの灯火––

 この世界にはかつて『星』があった。
 だが、人々はある日を境に星を見なくなった。

『遠くの光なんて、意味なんてない』

 そう言う人が現れたのだ。
 その一つの疑問は、やがて大きな答えへと着地した。

『星は見るだけで無駄である』と。

 そうして、何百年と月日が経った。

 ある日、一人の子どもが問いかけた。

「どうして夜になると、空に穴があくの?」

 その言葉に、人々は頭を抱えた。
 『星』を見なくなって八百年。
 『星』が世界に忘れられてから三百年。
 世界は、再び空を見上げようとしていた。
「気になるのなら、書庫に行くのはどう?」
「しょこ?」
「そう、この世界のあらゆる知見が見れる場所よ!」
 その言葉に、子どもは目を輝かせた。
「行きたい!」
 子どもの無垢な願いにより、書庫へと向かう。
「みて、おかあさん!」
「どうしたの、ペガ」
「穴があいてる!」
「ふふ、その答えを探しに行きましょう」
 書庫に辿り着いたペガは、手当たり次第に書物を広げた。
「おかあさん、読めない」
「これは夜神様の歴史...これは花神様、これは暁様ね」
「夜神様からみつけられないかな?」
「そうね、なら夜神様を調べてみましょう」
「お母さん、これ」
 不意に、ペガが一つの書物に触れた。
 藍色の表紙に淡い銀が点々と広がっている。
「夜のお空とおんなじ!」
「そうね、これを読みましょうか」

 夜神様は、
 かつて夜空に無数の灯火を浮かべていた。
 それらは遠く、小さく、
 触れることはできなかった。
 しかし人々は、その光を見て夢を描いた。

「ゆめ?」
「時に幸せ、時に不幸。たくさんの感情よ」
「へぇー!」

 その光は時には尾を引いた。
 その時期には、皆願いという灯火を飛ばす。
 その願いは、やがて大きくなっていく。

 今もまだ、願いの灯火は静かに佇む。

「あの穴は、お願いごとなんだ!」
「素敵な捉え方ね、ペガ」

 願いの灯火に夜神は触れる。
 その灯火は夜神と人間の唯一の繋がりである。

「おかあさん、夜神様はひとりなの?」
「...どうかしら」

 灯火の願いが一つ無くなる。
 灯火の願いがまた一つ無くなる。
 この記録も、もう届かないかもしれない。

 どうか、この記録を見てくれた君へ。

 忘れないでくれ、願いの灯火を。
 思い出してくれ、空の灯火を。
 私の願いの灯火を、最後に灯そう。

 遥か未来で、思い出してくれますように。
 この空の、美しさを。

「そろそろ帰りましょう、続きはまた明日」
「ええーっ!」
 ペガは泣く泣く書庫から離れた。
「お母さん、空に穴が...ううん」
 ペガは空に手を掲げた。

「夜神様、きこえるのかな?声」

「きっと、聞いてくれてるわ。何か伝えたいの?」
 その問いに、ペガは大きく頷いた。

「うん、夜神様が一人じゃなくなるよーに!ってお願いするんだ!」

「素敵ね、お母さんも願うわ」
 ペガの母、アルカは静かに空を見上げた。

「夜神様、長らく一人にさせてしまい、申し訳ございません」

「私とペガが、これからは空に願います」

「夜神様、泣かないで」

「穴を開けて、泣く必要はありません」

「お母さんと一緒にお願いする!」

 ペガは両手を掲げて言う。

「泣かないで、夜神様」

 その瞬間、
 一つの願いが灯火となり尾を引いた。
 新しい『願い』ではない。
 ずっとずっと願われていた灯火だった。

 同じ『願い』を持つ者にだけ見える灯火に、
 嬉しそうにペガは微笑んだ。
シェア
← 前の話
Eos ―失われし黎明―
次の話 →
Fides ―最後の信徒―
Oblivium  Library作者:結弦
目次
✍️
まだ感想がありません
あなたの一言が、作者の次の一話につながります。
最初の感想を書いてみませんか?
コメント0
ログインしてコメントする
まだコメントがありません