第9話 ステージの名は
「第一回!作戦会議!」
ミラは、部屋のベッドに立ち宣言する。
拡声魔法が若干乗っているのか、屋敷全体とまではいかずとも、隣の部屋には確実に音は響いているだろう。
「まずは新しい仲間を紹介するね。前線で資源確認にもついてきてくれてたリグよ」
「リグです。魔法は影魔法です。暗くするだけの魔法なので......ずっとミラと同じく後方部隊でした。よろしくお願いします」
リグは、小テーブルを囲む他の二人に頭をさげる。
妙に硬い動きだ。
「ミラの母リリアです。ミラがお世話になったわね」
リリアは笑顔で応える。
「姉のレイナよ。前線では、後方部隊の活躍もとても大切で、助かっていたわ。よろしく」
続いてレイナが挨拶をする。
「リグ、緊張してるんでしょ?レイナお姉ちゃんともこんなに近くで話すの初めてだもんね」
「いや......でも緊張はしているかな。ミラの部屋だし、ご家族もいるし......」
二人の会話を聞いて、リリアは何かを察したように、うふふと笑う。
「リグくんも大変ね」
「わかりますか」
リグがやや顔を赤くする。
「そうね。飽きるまではミラに付き合ってあげてね」
「はい、ミラは見ていて飽きないですから」
リグの言葉にあらあらと笑い、リリアは鈴を鳴らしてメイドを部屋に呼ぶ。
「料理長に、今日の晩御飯は一人分追加と伝えてくれないかしら」
リリアの言葉をきき、リグは遠慮しようと申し出るが、リリアに言葉をさえぎられる。
「娘に付き合ってもらっているのだもの、気にしないで。それに、晩御飯なら応接室にこもっているお父さんも出てくるはずよ。顔を売っておいた方がいいわ」
リグはリリアの有無を言わせない雰囲気を感じ取り、避けられないのだなと悟った。
自己紹介を終えると、ミラはこれまでの経緯と目標を全員に説明した。
「――というわけで、最初のステージは灯火祭の余興として区画をもらえることに決まったの。ここまでで何か質問ある?」
テーブルに座る3人はしばらく考えていたが、リグが手を挙げる。
「世界一のショーって......つまりどういうこと?」
そうね、とミラはベッドに座って足を組む。
「世界で一番たくさんの人に、いっぱいどきどきと感動を伝えたら世界一だけど」
リグは少し考える。
「たくさんの人に届ける、というのは欲しい結果だよね。でも、商売でもそうだけど、理由なく人は集まらないんだ」
リグは真剣な表情で説明する。
「世界一だから人が集まるのではなく、人が見たいものを作るから、結果的に世界一多くの人が集まる。だからまずは『これはすごい』って、見たくなるようなものが必要だと思う」
「世界一のショーってどういう感じかしら?」
リリアがミラに視線を向ける。
「それは......なんというか......誰も見たことがない感じのやつ!」
ミラは応えるが、具体的な案は持ち合わせていない。
「誰も見たことがないって、そりゃ世界一かもしれないけど......」
リグの言葉に、レイナが続く。
「具体的にどういうものがいいのかしらね」
4人はああでもない、こうでもないと、意見を出し合うが、いまいち自分たちでピンとくる案が出てこない。
「世界一となると難しいわね。少なくとも私たちの中で勝算が見えないと」
レイナがつぶやく。
勝算――という言葉にミラは先日のある言葉を思い出す。
――十分勝算があると信じさせること。
アビスが言っていた、正攻法で兵を集める方法だ。
勝算。
そう、今必要なのはそれだ。
兵を集めるわけではないが、それは集客力自体にも大きく影響するはずなのだ。
ミラは、その言葉を発したアビスを視線で探す。
アビスはベッドの端にいた。
いつものように、足を組んでふわふわと空中に浮いている。
空中に――。
「あ」
ミラは勢いよくベッドの上に立ち上がる。
目線はアビスに釘付けになっている。
「空中に浮いたりできないかな!?」
テーブルの3人は、急にテンションの上がったミラを見て驚いている。
「ほら、人が空を飛んで、魔法も地上だけじゃなくて、空に舞い上がるの!お客さんはステージだけじゃなくて、自分たちの空を見るのよ!そこには人が舞い踊っていて、音楽が響いて、それって世界一にならないかな!?」
縦横無尽に空を舞う人。
空を飛ぶ魔法。
音楽と、歓声。
ミラは急に鮮明になったイメージが止まらず、ベッドで飛び跳ねている。
「ミラ、落ち着いて」
ベッドでもはや跳ねているミラをリグが静止する。
「そうね......浮遊の技術といえば、オルテナ連邦だけど。知っての通り停戦になりそうだから技術は入ってこないんじゃないかしら」
レイナが冷静に意見を出す。
「方向としては、素敵そうね」
元旅芸人の感性か、母リリアは好意的な印象を持っている様子だ。
「灯火祭までに、間に合わせるんだよね?浮遊する方法を考えて、練習して、ショーにするとなると、現実的には思えないけど......」
リグは再度ミラに目線を送る。
ミラは、脳内で展開される映像が止まらない。
「空を飛ぶショーを作りたい......」
ギシ、とベッドに興奮をぶつけて、跳ねながら想像する。
「人が、空を舞うショー。空で、人がきらめく」
さらに跳ねながら、想像と自分の動きを重ねていく。
「そう、満天の星空のように」
そこで跳ねるのをやめる。
思い出すのは、アビスが初めて魔法を見せてくれた時のわくわく。
雲一つない、満天の星空。
人が、あんなふうにきらめき、感動を生むステージ。
「ミラ......?」
急に止まったミラに、リグが声をかける。
「決めた」
ミラは3人を見る。
「飛ぶのは、今はまだ叶わない。だから、ベッドみたいな、跳ねる装置を開発する。それを使って、人が空を舞うんだ」
ミラのイメージが、具体的な戦略をもって鼓動をはじめる。
「人も魔法も音楽も、全部空へ飛び出していく。その光景は世界でただ一つの景色になる」
ミラの声が、魔力と共に熱を帯びる。
「空を埋め尽くすほどの星のきらめきを世界中の人に届けよう!私たちが作るんだ!星の祭典――スターフェスティアを!」
一瞬の静寂。
誰も何も言わない。
ただ三人とも、ミラの描く景色を一緒に見るように、鮮明な映像として描いていた。
さっきまではどこか夢物語に思えていたミラの話が、不思議と現実に思える。
今のミラはただベッドの上で夢を語る少女ではない。
世界一のショーを率いる未来の劇団長の姿だ。
三人の目には確かにそう映っていた。