第8話 最初の協力者
「ミラ様、ごめんなさい。協力はできません」
昼の休憩で、人がごった返す時間帯。
明るい女性店主の声が響きわたり、あちこちでわいわいと会話が交わされている。
そんな店内の隅のテーブルで、ミラは今日も苦戦していた。
「冬のうちに灯火祭の準備と、木の手入れをしないといけないんです。演劇に時間を割く余裕はないです」
午後の始まりを告げる鐘の音が鳴る。
ミラの向かいにいる男性は頭を下げ、食べ終わった皿にフォークを置いて立ち上がった。
「いや、演劇とはちょっと違ってね......ちょっとまってよお!」
ミラは去っていく男性を引きとめようとするが、午後も仕事があるのでと断られてしまう。
灯火祭でショーをすると決まってから3日。
応援してくれてる母リリアと相談し、とにもかくにも人員は必要だろうということで、手あたり次第声をかけている。
しかし、現時点での成果はゼロ。
ミラが領主の娘だと知れば一応は話は聞いてくれるが、了承までは至らない。
ミラは『断られた人リスト』にもう一つ名前を追加する。
30人を超えてからは数えていないが。
「まただめかあ......」
ミラは背もたれにぐったりする。
「苦戦しているな」
アビスがミラの肩に乗る。
「そうだね......。やっぱりお母さんと私だけじゃだめかな」
「それについては、お前の母に相談していたではないか」
「......わかってるよ。おかえり会のときの倍の時間をもらったんだもん。何をするか決まっていなくとも、人が足りないことだけは確定しているもんね」
ミラは最後に残ったスープを飲み干す。
「暇な人はいないもんかなあ」
他人から見ると、随分とひとりごとを話すように見えているだろうが、ミラはもう3日使って進捗がないためいよいよ気にする余裕がなくなってきた。
「暇人であっても、断られるだろうがな」
「む。なんでよ」
アビスの言葉にミラはやや苛立ちに似た感情を抱く。
「お前のやっていることは、いうなればショーという戦に向けて、協力者という兵を募っているのであろう?」
アビスはテーブルにふわふわと移動し、ミラに向かい合う。
「兵を登用できるかは暇かどうかによっては決まらんぞ」
「......じゃあ、どうやって決まるのよ?」
「いろいろやり方はあるが、一番早い方法は強制力だな。義務として課す。逆らえば増税か武力行使だな」
「それは......できないじゃない」
人に強制するような力を、ミラは持っていない。
父の力も、このようなことで借りるというのは論外だろう。
「正攻法だと、戦う理由やビジョンを伝えること。勝った場合のメリットを示すこと。そして、十分勝算があると信じさせること」
「なるほど。それは、今の状況に当てはめると......ビジョン以外無理じゃない?」
ミラのショーが成功すると示せるものはそんなに多くない。
そしてなにより、提示できるメリットが思いつかない。
「他には?他にはないの?」
「そうだな......あとは身内や知人にはなるが、例えば、惚れた弱みってやつも意外とよくあるパターンだ」
惚れた弱みかあ......とミラは記憶を探る。
自分に惚れている人間はいるか。
いや、思い当たらない。
父と母は愛してくれていると思うが、既に協力者側だ。
「うーん。それってどんな感じ?」
「そうだな。恋人や夫婦でなくとも、不倫相手やパトロン、後援のファンなんかもあるな」
「――ファン!」
ファンという言葉に、姉のことを思い出す。
ミラの脳裏には、姉に惚れていそうな人物が思い出されていた。
「......うん、いけるかも!」
ミラは立ち上がり、さっそく会計をすましてばたばたと店を出ていく。
追って、アビスもやれやれといった様子でついていく。
★
「つまり......どういうこと?」
ミラは戦場で後方部隊として共にいた仲間、リグの元を訪れていた。
突然の訪問だったが、リグの父がこの応接室へと通してくれたのだ。
「だから、ショーに協力してくれたら、毎日アッシュベル家に来て、作戦会議ができるのよ!お母さんだけじゃない、お姉ちゃんも来る日も絶対たくさん作るわ!」
リグはレイナのことを気にしていたはずだ。
後方部隊時代から、こりゃあ絶対惚れてるだろう、とミラは感じていた。
少なくともファンであるのは間違いない。
つまるところ、恋愛経験ゼロのミラはリグなら惚れた弱みというやつを使えると思ったのだ。
「よくわからないんだけど、トライルクス商会への依頼ではないんだよね?」
リグは商会の会長の息子だ。
この応接室も、基本的にはトライルクス商会に用のある人が使う場所である。
「そうね!リグ、あなたが欲しいのよ!」
「ほ、欲しいって......貴族がそう簡単にそんなこと......」
「そしてあなたにもメリットがあるはずよ!惚れた弱みでしょ?観念しなさい!」
勝った、といった表情でリグに堂々と宣言するミラに対し、リグはやれやれといった表情だ。
「......明日の夕方、日が落ちる前にアッシュベル家の屋敷に伺うよ。それでいい?」
リグは観念したような様子で肩をすくめる。
「いいよ!ついに一人目の協力者ゲットだ!」
ミラはガッツポーズをして喜ぶ。
「......絶対ミラ、勘違いしてるよね」
リグは恨めしそうにミラを見る。
「何言ってるの!惚れた弱みでしょ!男は辛いわね!」
「そうだけど、そうじゃない......」
リグの本当の想いは、まだ伝わる気配はない。