第7話 父ノルドからの試練
「つまり......ブレスレットによる魔法で、このステージのようなものをつくれるようになったということか?」
ミラの、アビスの存在を伏せての説明をようやく理解したノルドは、そう確認する。
「そうなんだよね。説明してなくてごめんなさい」
ミラは家族の反応をうかがいながらこたえる。
「これはすごいわね」
父ノルドと一緒に魔法でできたステージを確認する母リリア。
「レイナ、どう思う?」
ノルドは、強度を確認していたレイナに尋ねる。
レイナは剣で柱を押してみる。
「そうね。強度もいいし、《嵐》は欲しがるんじゃないかしら」
「......えっ!?」
レイナが思いもよらないことを告げ、ミラは驚く。
「だって、この規模の拠点をどこでも作れるんでしょう?」
レイナはミラに説明する
「やっぱりそうか。軍事利用できるか」
ノルドは腕を組んで頷く。
「いやいや、お父さん?お姉ちゃん?この魔法、攻撃力も防御力もないよ?」
ミラはショーを作りたいのだ、戦争をしたいなどと思っていない。
戦争の流れによっては、戦場に出ないといけないという問題があるとは思っていた。
だが、この力自体が戦争に使われる可能性までは考えていなかった。
「いいや、ミラ。この規模の魔法であれば、戦争で役に立つ力としてアークソル国王陛下も評価するであろう」
観客席の一つに腰を下ろし、ノルドは腕をくむ。
「ちゃんと整理すれば、後方部隊のミラであってもその便利さは理解できるだろう。雨でも泥でも関係なく負傷者を運び、物資を集める場所があるだけでどれだけ役に立つか」
ミラは、ノルドの言うことは理解できた。
だが、受け入れられるかは別の話だ。
ステージに人々が集まるのを想像する。
先ほどまでのイメージと違い、傷ついた兵士と散乱する物資であふれている。
笑顔の人はいない。
あの日のステージ上のミラも、ここにはいない。
そういうことではない――とミラは胸の奥で思った。
「アッシュベル家は下から2番目、ドレア・ルナの貴族位だ。便利な力を遊ばせるようなことは、アッシュベル家の力では叶わない」
ミラは言葉が出ない。
まさか、国が魔法に目をつける可能性があるとは盲点だった。
アッシュベル家はこのアークレイム王国の貴族の中では位が低い。
領土内ならいざ知らず、ひとたび領土の外や国のことになると、わがままを通せる力はない。
「でも......嫌だよ。私この魔法で、ショーをつくりたくて......戦争のためじゃない......」
ミラは、俯いてしまう。
戦場に行くことだって、自分の意志だけで断ることは叶わなかった。
「ショーがしたい」とミラ一人が願ったところで、国が戦争に使うと判断した場合は、貴族として逆らうことは難しいのではないか。
もしそうなったら、ミラとアビスに野望を叶える術は残されているのだろうか。
「......ミラ」
リリアがミラに優しく声をかける。
「あなたはどうしたいの?」
ミラの髪をなでる。
「ショーがしたい。でも......」
ミラは握った手に力が入る。
「軍事に使えるかは後に置いておきましょう。まずはあなたの考えを聞きたいわ」
リリアはミラの手をやさしくつつむ。
ミラの瞳をみつめる。
「私は......ショーがしたい」
「それは、どうして?」
「だって......」
思い出すのは、昨日アビスと話したこと。
「いろんな人が輝く場所を作って、わくわくや感動を届けたいの。おかえり会も、お祭りも、魔法の初披露会も、お母さんの歌と魔法も......すごく心が躍ったから。それを、もっとたくさんの人に届けたいと思ったの」
ミラは母の目を見て、言う。
「だから......だから、世界一のショーを作りたい!」
「それは、アッシュベル領や、国にとって役に立つ?」
「うん!役立たせる!絶対にいいものにする!」
ミラの決意に満ちた瞳を見て、リリアはにっこりと笑う。
そしてミラの手を放し、ノルドのほうに体を向ける。
「ノルド、私はミラの夢を応援したいわ」
「リリア......」
ノルドは立ち上がる。
「ふふ、あなただって、私の歌と魔法に惚れたから、おじい様を振り切ってまで私を口説いていたじゃない。ミラもそういう素敵なものに惚れて、自分で作って、広めたいって言ってるのよ。じゃあ、止められないことはわかるでしょう?」
リリアはノルドをからかうように笑う。
「私もミラを応援する。それに......世界一のショーになるらしいのよ?」
続いて、レイナも援護とばかりにミラを応援する。
「レイナまで......」
ノルドは仕方がないなあ、という風に一息つき、ミラの前まで歩いてくる。
「ミラ。貴族の義務は戦争だけではない」
ミラは、真剣な表情で聞いている。
「領地を繫栄させ税を納めること。また、文化や伝統を発展させ、次世代に継承していくこと。こういったことも貴族としての義務だ」
ノルドは指を立てる。
「今のブレスレットの魔法の情報だけだと、戦争時の力としての活用法が模索されるだろう。そうなったら貴族として、私はミラに戦争への利用を命令するしかなくなる」
だから、とノルドはミラの目を見据える。
「土地を繁栄させ、未来の伝統となることと証明しなさい。戦争利用をするよりも価値があると証明するんだ」
戦争よりも、価値がある。
それを証明する。
その言葉は、ミラの胸の奥に火を灯した。
「春の灯火祭で、アッシュベル家の余興用の区画を用意しよう。そうだな......交易倉庫の管理をしているガイセンに連絡しておくのでそこにしようか」
ノルドは具体的な場所とスケジュールを伝える。
「リリアの力を借りてもいい。度肝をぬいてやりなさい。少なくともそれまでは、ブレスレットの魔法は国にばれないよう最大限努力する」
春の灯火祭、それは日数にして3ヶ月後。
それまでに、戦争よりも価値があるものをつくる。
ノルドから出されたその試練は、ミラにとってはむしろ喜ぶべき試練だった。
「わかった。必ず、最高のショーを作り上げて見せるね」
ミラは、決意と共にこぶしを握り締めた。