③闇夜の戦い
笠の男は刀を大きく振り上げ、俺に迫ってきた。
「ちょっと、ちょっと。大振りすぎない?」
俺は脱力したままの態勢で躱す。そして、その流れで笠の男の腹に、刀を滑り込ませた。
「ん?」
そのまま腹を引き裂くつもりで振り抜いたが、笠の男の薄皮一枚を削っただけだった。
「ずいぶん硬い身体だね。ひょっとして妖怪なのかな?」
「...違う。俺は...最強の...男だ」
ずいぶんと力んだ声で、笠の男はそう答えた。
「それで?答えになってないよ。人間ってこと?」
「この...刀を持った俺は、...もう誰にも...負けない...!」
そう言いながら、笠の男は再び刀を俺に振り下ろす。
「だから、そんな動きじゃ無理だよ」
俺は先ほどと同じように躱そうと動く。
しかし、振り下ろされていた刀が、突然刀身を伸ばし、間合いを一気に広げた。
俺は、咄嗟に笠の男の懐に潜り込み、男の右腕を斬り上げてみた。やはり、表皮と少しの肉を斬り裂いた程度の手応えしかない。
そして、笠の男の右の袖が破れ落ちた。
「うわぁ、なんかすごいことになってるよ?その右手」
俺は露出された笠の男の右腕を見て、そう言った。
笠の男の右腕は、刀の柄から無数に血管のような触手が、絡みついて食い込んでいた。
笠の男が両手で刀を握ると、左腕にも触手が食い込んでいくのがチラリと見えた。
「あれかな。妖刀に操られちゃった感じの人かな?」
「俺は...人を斬れば...斬るほど、強くなる」
「いやいや。それ、君の命を使って成長しているようにしか見えないよ。」
笠の男の刀に目をやると、先ほどよりもさらに、刀身が太く長く成長していた。
「多分、もう身体の方も妖刀と一体化しちゃってるのかな。やたら硬いし」
俺はため息をついた。
「あんまり好みじゃないんだよなぁ。君みたいに斬り心地悪い人」
笠の男は、刀を上に構えて俺の方へジリジリとにじり寄ってきた。
「...構えろ。俺は...強いやつを斬りたい...!」
「なんだ。俺と同類かと思ったのに。戦いが好きな人ね。駒之助君タイプだ」
俺は少しがっかりして答えた。
「それで、構えだっけ?いいよ、そのまま来て。俺、構えとか無いから」
上段に構え近づいてくる笠の男に、俺は片手で刀を持ったまま向かっていった。
「ほら、間合いだよ」
俺は笠の男に近づいてそう言った。
男は俺に攻撃を仕掛けた。今度は大振りの一撃ではなく、連続で畳み掛けるように刀を振ってきた。
「なんだ。結構速いじゃん」
俺は最低限は刀で受けながら、避けることに集中した。
息もつかぬような連続攻撃の中で、男の刀はドクドクと脈打つように震えて、成長していく。
笠の男の太刀筋は間合いや速度が、どんどんと変化していく。俺は、自身の感覚の赴くままの方向へ避け続ける。
そして、回避不可能な斬撃だけを刀で受ける。
さらに、躱す瞬間や受け流す合間に、何度も斬撃を放つ。
しかし、笠の男は痛みを感じる様子は見せなかった。出血はしているが、それでも、致命傷にはなっていないことが、感覚で分かった。
「驚いたな。君、どうやったら死ぬんだい?」
そう言ったとき、俺の頬から何か滴る。
「あ、ちょっと掠ってたか」
頬の小さな傷から、一筋の血が流れていた。
その時、笠の男の妖刀がさらに脈打ち、心臓の鼓動のように、大きく震えだす。
「ん?」
気がついたら、俺の頬から大量の血が流れ始めていた。
「うわ。すごいね、これ」
俺は傷口を押さえながら、感心したようにそう言う。
「出血が止まらない。でも、かすり傷でよかった。多分この程度じゃ死なないよね?」
「なぜ...、そう...思った...!?」
笠の男は、少し驚いたように俺を見てそう言った。
「別に。何となく、死ぬ感じじゃない気がしただけだよ」
しばらくすると、頬からの出血が収まった。それと同時に、全身に疲労感が湧いてきた。
「なんか、すごい疲れてきたんだけど。生命力的なものを吸い取る異能?」
笠の男は、すでに鉄塊のように成長した妖刀を構えた。
「そろそろ終わらせないと、疲れが明日に響きそうだな」