②二人の辻斬り
「あれ。まだ誰も帰ってないのか」
俺は我羅君が手配したと言っていた宿に入り、そうつぶやいた。
「我羅君も駒之助君もまだ外出中かぁ」
俺は早めに宿に来たことを少し後悔した。暇つぶしに、俺は煙管を吸いながら、くつろぐことにした。
我羅君が熱心に調査している姿や、城龍について何も情報を得られず、町のどこかでぼうっと黄昏れている駒之助君を想像して、少し笑みがこぼれた。
「二人とも肩に力が入りすぎだよね」
俺は床に置いた刀を見ながら声を漏らした。
「今日はどうしようかなぁ」
夕方になり、宿に帰ってきた二人と今後の相談をした。
「私は今夜から町の見回りをする。二人はどうする?」
そう尋ねる我羅君に駒之助君が答える。
「気が向いたら、俺も行こう」
そう聞いて、ため息混じりの我羅君が俺を見る。
「そうだなぁ。今日はあんまり気分じゃなかったけど、俺も行こうかな」
「わかった。それなら私は南側を見るから、お前は北側を―」
そう言いかけた我羅君を、俺は遮りながら言う。
「あ。悪いんだけど、俺が南側を見るよ」
「...そうか。構わんが何かあるのか?」
「いやぁ、なんとなくかな?ほら、南側なら今日、俺が買い物した地点だから」
我羅君は納得したように頷いた。
「それから聞き込みで分かったことを伝えておく。下手人は、妖怪か人間かは不明だが、妖刀を所持している可能性が高い。妖怪ならば斬れば良いが、人間であれば話を聞きたい。戦闘になってもできれば生かしておいてほしい」
俺は、はいはいと返事をした。そして、夜になって俺たちは見回りに出発した。
駒之助君は来なかったが、後で行くかもと言った。来るやつの台詞じゃないよと、俺は笑った。
我羅君と別れた俺は、なんとなく気になる場所へ歩き出した。
「うん。やっぱりこの辺がしっくりくるな」
俺は、まだまばらに人が歩いている大通りから少しだけ外れた路地を見て言った。
「他の場所も探そうかな」
そして、俺は同じように人気のない路地を、いくつか回った。
そうしているうちに、夜は更け、人通りもほとんどなくなってきていた。
俺はいくつか目星をつけた路地の近くを通る大通りを歩いてみた。
「ちょっと人が少なすぎるか。これじゃあ―」
「お主。こんな夜更けに何をしている?」
不意にそう声をかけられ、俺は声のした方を見る。
腰に刀を差し、手には十手と提灯を持ったその男は、訝しげな目で俺を見ていた。
「あ。同心さんですか?困ったな、怪しいものじゃありませんよ」
「近頃、辻斬りが頻発している。早く帰りなさい」
「いや、あのですね。ちょっと人探しというか、うーん。どう説明しようかな」
俺は笑いかけながら、腰の刀に手を伸ばす。
「まあ、いいかな。別にあなたでも」
そう言って、柄を握り、引き抜こうとした瞬間、突然同心の背後から刀が振り下ろされた。
俺は驚いて、咄嗟に同心を横へ突き飛ばす。
しかし、振り下ろされた刀は、同心の肩を斬り裂いた。
「びっくりした。人通りが少ないから、もう来ないと思ってたよ」
絶叫を上げる同心の近くに立つその男に、俺はそう声をかけた。
「俺なら、もう少し人がいる時間の方が好みなんだけどな。でも場所は正解だったね」
笠を深く被ったガタイの良いその男は、昼間にぶつかった男だった。
「別にどっちでも良いんだけどさ。君って人間?妖怪?」
笠の男は何も言わずに同心の血で汚れた刀を、俺の方へ向けた。
「無口な人だね。あと、同心の人、死んでないけど、いいの?叫び声で人が集まっちゃうよ」
そう言った時、苦しんでいた同心が突然、大量の血を撒き散らして静かになった。
「あれ?今、何かした?」
トドメを刺すことなく、突然絶命した同心を見てそう声を漏らす。
そして、それと同時に、笠の男の持つ刀身は、鮮やかな赤に染まり、脈打つように震えていた。
「あ、そういう異能の妖刀なのね。理解。理解。」
俺は再び腰の刀に手を添え、引き抜いた。
赤黒い錆のような模様で覆われたその刀身が、月明かりに照らされる。
「奇遇だね。妖刀友達になれるかな?」
俺は右手で刀を軽く握った。