①犬神魅羅衣という男
「見えてきた。あの町だ」
我羅君が俺たちにそう言って、ようやく見えてきた町の方向を指差した。
「我羅君さ、やっぱりそんなに急ぐような事件でもないじゃん?」
俺は我羅君が受け取った依頼状を読みながらそう伝えた。
「こんなに急いで山越えすることもないんじゃなかったの?『人の持つものとは思えぬ刀を持った者による辻斬り』って書いてるけど、妖怪とは限らないじゃん」
「よく読め。目撃者によると、『下手人の持っていた刀は月明かりに照らされ、赤く脈打っているようだった』と書いてあるだろう。妖怪か、妖刀の可能性が高い」
我羅君は、俺の腰の刀をチラリと見ながらそう言った。
「どちらにしても、毎夜犠牲者が出ている。早く解決せねば、さらに人が斬られる」
(ほら、そんなに焦る事態じゃないじゃん)
俺はそう思ったが、我羅君にそれを言うとまた怒りそうなので、代わりに黙っていた駒之助君に笑いかけた。
「我羅君がまた生き急いでいるよ」
「...そうだな」
俺は駒之助君が俺に同意したことが、嬉しくなって笑った。
町に着いて、我羅君が早速聞き込みを始めていた。
「駒之助君、俺たちはどうする?」
「城龍について調べる」
そう言うと駒之助君も、どこかへ歩いて行った。
「二人とも熱心ですごいなぁ。もっと楽しめば良いのに」
俺はまず煙管用の刻みを買うために、煙草屋へ向かった。
「おばちゃん。この辺で人気な甘味処と呉服屋はないかな?」
俺は購入した刻み煙草を煙草入れにしまって、煙管に火を入れながらそう尋ねた。
煙草屋のおばちゃんは、いくつかの店を俺に教えてくれた。
「お兄さん。旅の人かい?刀を差してるようだけど、辻斬りには気をつけるこったね」
「この町は変な辻斬りがいるらしいね。帯刀してるとよくないの?」
我羅君が聞き込みしてる、例の辻斬りのことかなと思い、そう聞いた。
「そうさね。面妖な刀を持った腕の立つ辻斬りらしいと聞くよ。浪人や武士を狙うって噂さ。だから、お兄さんも夜の外出は気をつけた方が良いよ」
「ありがとう。怖いねぇ、気をつけるよ」
俺は煙管の雁首を指で軽く叩き、火皿から灰を落としながらそう答えた。
「お姉さん、ちょいと。」
俺は呉服屋の若い女手代に声をかけた。
「いらっしゃい。あら、えらくお綺麗なお客さんでございますね。何かお探しで?」
「うん。ちょっとこの帯を見せてもらえるかな。それと、あの柄の反物も見せてくれる?」
「こちらでございますね」
手代は俺が指差した商品を慣れた手つきで用意した。
「この反物、当ててみてくれる?」
手代が俺の肩から反物を垂らす。
「よくお似合いですよ」
「うーん、ちょっと色の主張が強すぎるかな。今回は帯だけもらおうか。他にもある?」
「かしこまりました。少々お待ちを」
俺がそう尋ねると、手代は他の帯を持ってくるために、店の奥へと入った。
待っている間、暇だったので、店の外で煙管に火を入れようとした。その時、誰かとぶつかった。
「おっとごめんよ」
ぶつかってきた男は、深く笠を被り、えらくがっしりとした体で、腰に刀を差していた。
「こちらこそ、ぼうっとしちゃって」
男は俺に一礼して去っていった。
「うーん...?」
俺はその男が見えなくなるまで、目で追っていた。
「お待たせしました。おや、どうかされましたか?」
いくつかの帯を持ってきた手代が、遠くを見つめる俺にそう聞いた。
「いやね。ちょっと同類がいたかもしれなくて。あ、帯ありがとう。この柄のものを一つもらおうかな」
俺はそっと腰の刀に触れながら、良い気分で帯を選んだ。