④二本の妖刀
「とりあえず、色々斬ってみるか」
俺は一段速く踏み込んでみた。笠の男はすかさず反応して、俺を斬ろうと動く。
俺は体を捻らせて、直線的なその太刀筋をギリギリで躱す。そして、俺はその態勢のまま、男の首筋に刀を振るった。
男の首を刀が滑り、出血する。
「やっぱり無理か」
男の首は少し削れた程度だった。
そして、男は気にする様子もなく、俺に斬りかかってくる。俺は、刀を振り下ろしてくる男の動きを、見ながら紙一重で避ける。
その瞬間、触手で刀と一体化しつつある男の手の指を斬り裂いてみた。
笠の男は苦しみながら、後ずさる。
地面には男の右手の指が二本転がっていた。
「なんか、分かっちゃったかも。斬りやすいところ」
俺はさらに速度を上げて男に踏み込んだ。男が反応するより前に、刀を握る左右の手の先を三回ほど斬った。
これまでとは違い、肉を裂き、骨を断つ手応えがした。どうやら、妖刀と肉体の接続部が脆いようだ。
その時、さらに多くの触手が柄や鍔、刀身から飛び出した。
そして、男の腕にがっちりと食い込み始めた。その触手は最初に見たものより太く頑丈そうに見えた。
「防御のつもりかな?確かにちょっと面倒になってきたね」
「...くそ、何だ...お前の...動きは?」
苦しそうに汗を滲ませながら、そう聞いてきた。
(何だと言われてもね)
俺はそう思ってこう聞き返した。
「何が?」
「...構えが...ないこともそうだ。おかしな...態勢で斬ったり、...見たことも...ない太刀筋だ」
「まあ我流だしね」
俺はため息をついて、さらに話した。
「逆に聞くけどさ。何で、構えや型がないといけないのかな?人を斬るために必要な技術なんて何もないよ。どんな斬り方でも、斬れればいいじゃん」
俺はそう言うと、一気に踏み込んで男と間合いを詰めた。男の妖刀からさらに触手が飛び出して、接続部の手を守っているようだ。
「残念。そっちじゃないよ」
俺は全身を回転させて、男の首を斬り裂いた。
「な...なんで」
その声は、すでに地面に転がった男の首から発せられていた。
「ぜ...全身に...妖刀の力...を張り巡らしていたはずの、...俺の...身体を」
「さっき指を斬った時に、君の体を斬るイメージはできたからね。触手で守ってる部分は、斬りにくそうだったから、首を狙っただけだよ」
「それが...お前の、妖刀の...、力か」
「いや。確かにこの刀、よく斬れるけどさ、異能なんてないよ。ただ俺が斬っただけだよ」
俺は自身の刀を見る。男の血はすでに乾いていた。
「見ての通り、刀身がすぐ乾くくらいかな。それと、切れ味も悪くないし、普通の刀よりもちょっと軽いんだよ。その程度の刀だよ。刀身はなんか錆みたいなのついてるけど」
笠の男はすでに絶命していた。
「あ。我羅君が生かしとけって、言ってたの忘れてた。まあいいか。とりあえず、妖刀だけ後で渡しとこう」
男に絡みついていた触手はすでに消えていた。太さや大きさも、元の状態に戻っていたその刀を、俺は拾い上げた。
「なんか気分が乗ってきたな。ちょっと用事済ませて帰るか」
俺は自分の刀を鞘に収めないまま、宿へは帰らずに夜の町に歩いていった。
「起きろ!犬神」
俺は布団から引っ張り出されながら、目を覚ました。
「どうしたの?我羅君。こんな朝から大声で」
目に涙を溜めながらあくびをする俺に、我羅君が詰め寄る。
「この刀はなんだ?」
我羅君の指差す方を見ると、俺の刀と昨夜の妖刀が無造作に転がっている。
「なんだって、例の妖刀だよ。昨日倒したよ」
我羅君は呆れるような目で俺を見る。
「だったらなぜ、昨晩のうちに報告しなかった?」
「帰ったら眠くなっちゃって、我羅君遅かったから、朝でいいかなって」
「全く、なんてやつだ。それで?下手人は?」
「あ。ごめん我羅君。人間だったんだけどさ、斬っちゃった」
それを聞いた我羅君が、また怒り出しそうだったので急いで言葉を繋ぐ。
「いやいや、多分、もう手遅れだったんじゃないかな?持ち主を乗っ取るタイプの妖刀だったし。だから、その刀我羅君も無闇に触らないほうが良いよ」
我羅君は渋い顔をしたが、しぶしぶ納得した様子だった。
「まあいい。それならその刀、お前が破壊しておけ」
「わかったよ」
俺はそう返事をして、その刀を分解し始めた。
「こういう時ばっかり、妖刀を触っても平気な俺に、押し付けるんだから」
柄や鍔、刀身を外しながら、俺はそう不満を漏らした。
そして、全てを分解し終えた。あとは分解した部位を、金槌か何かで砕けば終わりだ。
宿で朝飯を食べた後、俺は外に出た。通りの方から噂話が聞こえてくる。
「昨晩も辻斬りがあったってよ」
「聞いたぜ。首の落ちた浪人と、同心が二人やられたらしい」
俺は煙管に火を入れながらつぶやいた。
「最後に斬った人、同心だったのか」
煙管から立ち上る煙を眺めた。
「今日は何食べようかな」