①明智駒之助忠康という男
粗末な畳の上に毛氈を敷き、柄から外し抜き身となった刀身を持つ。刀身についている古い油を、清潔な布で拭き取る。
そして、ムラなく打ち粉を打つ。先ほどとは別の布で、また拭う。
角度を変えながら、刀身に拭い残りがないか、確認する。
その後、布で丁子油を刀身に薄く塗り込む。
鎺と鍔をつけ、柄に差し込む。その後、目釘を打ち込む。
俺は二本の刀を持っているので、この作業を二度おこなう。
作業が終わり、俺は瞑想に入る。
これを定期的にすることが、俺の日課である。
とはいっても、刀は最低限の手入れさえすれば良いと俺は思う。刀とは単なる戦闘手段の一つでしかなく、依存しすぎるべきではないからだ。必要なら投げ捨てて、その場にあるものを活用した方が良い時もある。
我羅のように特注品の刀にこだわると、いざという時に弱点となる。
それはそれとして、犬神の刀のように、手入れをしなさすぎるのも問題だが。手入れなしでも斬れ味が落ちない刀らしいが、最低限は管理しておかないと、予想外の時に折れることも考えられる。
「明智。そろそろ出発だ」
我羅の声が聞こえる。
俺は瞑想をやめ、外に出る。
宿の玄関から出ると、犬神が俺に笑いかける。
「おはよう、駒之助君」
「...ああ」
どうやら犬神は、昨晩依頼されていた一件を解決したらしい。そのためだろうか、機嫌が良さそうだ。
「敵は?」
俺はそう尋ねる。
俺は城龍と関係のある敵かどうか知りたかったのだが、犬神はペラペラと関係のない話を始めた。
おそらく城龍とは無関係だったのだろう。そう判断した俺は、話している途中の犬神から離れ、我羅に尋ねる。
「次の目的地は?」
「ああ。今回の依頼が、予想以上に早く片付いたので、一度都に戻ろうと思う。都なら各地の妖怪の噂を知れる可能性は高いし、ついでに政庁にも顔を出してくる」
我羅は、厳しい顔の割にマメな男だ。
(大した用もないのに、新政府の役人に挨拶などをする意味はあるのだろうか)
俺はそう感じる。
「少し距離があるな」
そして、俺は我羅にそう言う。馬や辻馬車を使うべきだと思ったからだ。
しかし、我羅はさも当然であるかのように、こう返す。
「いや、歩いて行く。道中に妖怪の被害があれば、徒歩だと気付きやすい。なに、徒歩でも三日もすれば着く距離だ」
俺はともかく、犬神がまた嫌がりそうだと思った。俺は答える。
「...わかった」
朝に出発した俺たちは、その日は街道沿いで野営をし、翌日の昼に道中にある港町に立ち寄ることになった。
詳しくは聞いていないが、我羅は通りがかりの旅人から話を聞いたらしい。何人もの失踪者が出ている港町があると。
俺たちは、その港町の関所を通って町へ入った。