ホーム›臥竜の剣―妖討滅道中記―›③遭遇
← 次の話目次前の話 →

③遭遇

 提灯を掲げる。その明かりが届くのは、せいぜい数歩先までだった。
そして、提灯の薄明かりに、少しずつ照らされたそいつらは、人間のような輪郭だった。ただその異様な姿は、とても人間と共通した生物とは思えなかった。まるで昔の戦場にいた足軽のような簡素な甲冑を無造作に着けているそいつの腕は、俺の二倍ほどの長さだった。


「我羅さん!こいつ刀を持ってますよ!」


長い腕の先には、しっかりと握られた古い刀があり、すでに固まった赤い血の跡で、刀身が汚れていた。
そいつはその刀を俺たちに向けて、俺の三倍はあろうその大きく裂けた口の端を、ニィッと歪ませた。その口からは熊の爪のような牙が何本ものぞいていた。まるで巨大な爬虫類のような顔だった。


「佐吉殿、もっと後ろに」


俺は無意識にやつに近づいていたようだ。恐怖を通り越すと、好奇心で身体がおかしくなるのだと、俺は生まれて初めて知った。


「これが、そうなのですか?」


震えて自分でも上手く言葉を発せたかわからなかったが、我羅は奴から目を離さずに言った。


「妖怪です」


わかっていた。言われるまでもなく、そいつを見れば一目瞭然の事実だった。だが俺はそれを聞いて、より一層身体が恐怖に支配されていく感覚がした。


「気をつけて。奴の後ろに何体かいるようですが、周囲から聞こえる気配はさらに多い」


「ど、どうすれば」


「私の間合いの中にいてください。絶対に守れます」


我羅はそう言うと、立ち上がり、その巨大な刀身をゆっくりと地面に下げた。地に触れるギリギリのところでピタリと止まり、真っ直ぐに敵を見ていた。俺に剣術の知識はないが、下段というやつだろうか。
前に出ていた妖怪も足を止めて我羅をまっすぐ見据えていた。それと同時に、そいつの後ろにいた数体の何かも動きを止めた気配がした。
突然俺の背後の茂みが揺れた。振り返ろうとした時、金属がぶつかり合う音が至近距離から聞こえ、俺は尻餅をついた。
すでに我羅が俺の後ろから襲いかかってきた妖怪の刃を受け止めていた。今の音は我羅の分厚い刀と、妖怪の血で汚れた刀が、ぶつかり合った音なのだと、その時気づいた。
俺が状況をなんとか把握しようとしているうちに、今度は正面にいた爬虫類面のそいつが、俺たちめがけて飛びかかってきた。俺の後ろの妖怪に対応していた我羅の背中を、斬ろうとしている。
そう思った俺が、必死で我羅に伝えようとしたが、俺の言葉が出る前に、我羅は刀を交えている妖怪を力ずくで押し倒し、素早く襲いかかる敵に向き直った。またも凄まじい金属音と同時に、我羅が妖怪の刃を受け止めたようだ。


「す、すげえ」


俺はただ、我羅の人間離れした動きを眺めながら、そう間抜けなことを言うだけで、精一杯だった。
森の中から次々と妖怪が飛び出して、俺と我羅に斬りかかってきた。そいつらはみんな、別々の姿をしていて、腕の多いやつや異常に頭がでかいやつがいたりした。
俺がいちいち驚く前に、我羅はその長く重そうな刀を自在に操り、全ての斬撃を受け止めていた。
だが、木々の生い茂るこの山では、思い切り剣を振り抜けないようだった。何度か枝に引っかかりながら、そのまま刀を振り抜いている。妖怪たちはその一瞬の隙を狙っているようだ。
妖怪たちは、低い唸り声のような奇声のような声を出して、我羅の剣が一瞬止まった瞬間、いっせいに飛びかかってきた。


(死ぬ...!)


俺がそう思うと同時に、我羅は回転し、長刀で飛びかかってきた妖怪を叩き落とした。


「やはり私の隙を見つけたと思って、飛びついてきたか」


叩き落とされた妖怪たちの何匹かは、すぐ立ち上がり、距離をとって闇の中に消えた。


「我羅さん!すごい!やりましたね!どうやってあんな一撃を!」


興奮する俺に、我羅は少しうずくまって答える。


「実際戦いづらい環境だったので、あえて、いっせいに攻撃されるように立ち回ってみました。しかし奴ら、思ったよりも統制が取れてないようで、攻撃のタイミングが予想よりバラバラでした。完璧な対応はできませんでした」


何匹か逃したことを言っているのかと思ったが、我羅の脇には短刀が刺さっていた。


「我羅さん!血が!」


「大丈夫。内臓まで達してはいない。問題はないですが、奴らの気配が消えました。もしかすると、私の怪我を見てこの隙に町へ降りたのかもしれません。我々も下山しましょう」


そう言うと我羅は刺さった短刀を引き抜き、平然と歩き始めた。


(刺さった刃物を抜いたら血が吹き出すものなのでは?)


そう思った俺だったが、我羅の脇腹からの出血は大したことはなさそうだった。


(この人も、とんだ妖怪だよ)


俺は我羅と一緒に急いで下山した。
シェア
前の話 →
②山での調査
← 次の話
④炎上する町
臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›臥竜の剣―妖討滅道中記―›③遭遇
← 前の話目次次の話 →

③遭遇

 提灯を掲げる。その明かりが届くのは、せいぜい数歩先までだった。
そして、提灯の薄明かりに、少しずつ照らされたそいつらは、人間のような輪郭だった。ただその異様な姿は、とても人間と共通した生物とは思えなかった。まるで昔の戦場にいた足軽のような簡素な甲冑を無造作に着けているそいつの腕は、俺の二倍ほどの長さだった。


「我羅さん!こいつ刀を持ってますよ!」


長い腕の先には、しっかりと握られた古い刀があり、すでに固まった赤い血の跡で、刀身が汚れていた。
そいつはその刀を俺たちに向けて、俺の三倍はあろうその大きく裂けた口の端を、ニィッと歪ませた。その口からは熊の爪のような牙が何本ものぞいていた。まるで巨大な爬虫類のような顔だった。


「佐吉殿、もっと後ろに」


俺は無意識にやつに近づいていたようだ。恐怖を通り越すと、好奇心で身体がおかしくなるのだと、俺は生まれて初めて知った。


「これが、そうなのですか?」


震えて自分でも上手く言葉を発せたかわからなかったが、我羅は奴から目を離さずに言った。


「妖怪です」


わかっていた。言われるまでもなく、そいつを見れば一目瞭然の事実だった。だが俺はそれを聞いて、より一層身体が恐怖に支配されていく感覚がした。


「気をつけて。奴の後ろに何体かいるようですが、周囲から聞こえる気配はさらに多い」


「ど、どうすれば」


「私の間合いの中にいてください。絶対に守れます」


我羅はそう言うと、立ち上がり、その巨大な刀身をゆっくりと地面に下げた。地に触れるギリギリのところでピタリと止まり、真っ直ぐに敵を見ていた。俺に剣術の知識はないが、下段というやつだろうか。
前に出ていた妖怪も足を止めて我羅をまっすぐ見据えていた。それと同時に、そいつの後ろにいた数体の何かも動きを止めた気配がした。
突然俺の背後の茂みが揺れた。振り返ろうとした時、金属がぶつかり合う音が至近距離から聞こえ、俺は尻餅をついた。
すでに我羅が俺の後ろから襲いかかってきた妖怪の刃を受け止めていた。今の音は我羅の分厚い刀と、妖怪の血で汚れた刀が、ぶつかり合った音なのだと、その時気づいた。
俺が状況をなんとか把握しようとしているうちに、今度は正面にいた爬虫類面のそいつが、俺たちめがけて飛びかかってきた。俺の後ろの妖怪に対応していた我羅の背中を、斬ろうとしている。
そう思った俺が、必死で我羅に伝えようとしたが、俺の言葉が出る前に、我羅は刀を交えている妖怪を力ずくで押し倒し、素早く襲いかかる敵に向き直った。またも凄まじい金属音と同時に、我羅が妖怪の刃を受け止めたようだ。


「す、すげえ」


俺はただ、我羅の人間離れした動きを眺めながら、そう間抜けなことを言うだけで、精一杯だった。
森の中から次々と妖怪が飛び出して、俺と我羅に斬りかかってきた。そいつらはみんな、別々の姿をしていて、腕の多いやつや異常に頭がでかいやつがいたりした。
俺がいちいち驚く前に、我羅はその長く重そうな刀を自在に操り、全ての斬撃を受け止めていた。
だが、木々の生い茂るこの山では、思い切り剣を振り抜けないようだった。何度か枝に引っかかりながら、そのまま刀を振り抜いている。妖怪たちはその一瞬の隙を狙っているようだ。
妖怪たちは、低い唸り声のような奇声のような声を出して、我羅の剣が一瞬止まった瞬間、いっせいに飛びかかってきた。


(死ぬ...!)


俺がそう思うと同時に、我羅は回転し、長刀で飛びかかってきた妖怪を叩き落とした。


「やはり私の隙を見つけたと思って、飛びついてきたか」


叩き落とされた妖怪たちの何匹かは、すぐ立ち上がり、距離をとって闇の中に消えた。


「我羅さん!すごい!やりましたね!どうやってあんな一撃を!」


興奮する俺に、我羅は少しうずくまって答える。


「実際戦いづらい環境だったので、あえて、いっせいに攻撃されるように立ち回ってみました。しかし奴ら、思ったよりも統制が取れてないようで、攻撃のタイミングが予想よりバラバラでした。完璧な対応はできませんでした」


何匹か逃したことを言っているのかと思ったが、我羅の脇には短刀が刺さっていた。


「我羅さん!血が!」


「大丈夫。内臓まで達してはいない。問題はないですが、奴らの気配が消えました。もしかすると、私の怪我を見てこの隙に町へ降りたのかもしれません。我々も下山しましょう」


そう言うと我羅は刺さった短刀を引き抜き、平然と歩き始めた。


(刺さった刃物を抜いたら血が吹き出すものなのでは?)


そう思った俺だったが、我羅の脇腹からの出血は大したことはなさそうだった。


(この人も、とんだ妖怪だよ)


俺は我羅と一緒に急いで下山した。
シェア
← 前の話
②山での調査
次の話 →
④炎上する町
臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません