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④炎上する町

「お、俺の町が...!」

下山した俺たちが見たのは、よく知った町並みが炎上し、異形の存在が逃げ惑う人々を襲っている姿だった。

「俺の町が...。お、親父は...?」

「佐吉殿!」

取り乱しかけた俺の意識は、我羅の一喝が現実に引き戻される。

「佐吉殿。あなたの家はこの山からは反対の丘の上にあります。妖怪がそこまで行っているとも思えません」

確かに、山からすぐの通りや建物は破壊されているが、少し遠くの方からは火の手は上がっていないようだった。

「私は妖怪退治に来たんです。襲われている町人を守りながら、奴らを斬ります。君は君のできることをしなさい」

俺は顔をはたかれたように感じた。

「俺のできること?」

俺にできることなんてあるのか?
いや、考えている暇はない。すでに走り出した我羅の背中を見ながら、俺の迷いも消えていた。

「俺は鈴村佐吉。この町の長、鈴村家の次期当主だ。町の人を守ってみせる」

俺はすでに走っていた。町の人は妖怪がいないところに集まっているはずだ。なんとか避難させてやらなくては。
その時、我羅が声をかけてきた。

「佐吉殿!私の仲間を見つけたら伝えてください!私は無事だから町の人を頼むと!」

「承知しました!」

(できれば仲間の特徴や名前を教えておいてくれ)

俺はそう思ったが、その言葉を飲み込み、ただ走った。


「佐吉!お前無事だったんか!」

そう呼び止められた俺は、声の方を見た。半壊した物置。そこには怪我をした顔馴染みの町人たちが、十数人ほどで身を寄せ合っていた。

「お前たちこそ生きていてよかった!他の人たちは?」

「動ける連中は町長の家の方や、同心の詰所まで避難してるよ。でもよ、佐吉。おれたち怪我であまり動けないんだ」

「大丈夫、今妖怪どもはこの辺にはいねぇ。俺が先導するから、みんなついてきてくれ。歩けないやつは肩を貸し合うんだ」

そう言うと、みんなはなんとかお互いに支え合いながら、ゆっくりと動き始めた。

(大丈夫!大丈夫のはずだ!我羅さんの方に妖怪が集まっているうちに、なんとか逃げられるはずだ!)

俺はそう自分に言い聞かせながら、避難所まで先導し始めた。
その時、耳を裂くような大きな悲鳴が聞こえた。いや、これは悲鳴ではない。山で聞いた妖怪の鳴き声だ。

「ま、まずい...」

近くにいる!俺は必死に辺りを警戒してみたが、声の主は見つからなかった。
そう思ったとき、俺たちのすぐ近く、大きな建物の屋根から何か落ちてきた。
妖怪だ。妖怪が奇襲を仕掛けてきた。そう思った俺の目の前に、妖怪の刀が迫る。

(死にたくない...!)

突然、妖怪の刀が俺に振り下ろされる前に、ポッキリと折れた。いや、よく見るとその刀を持っていた妖怪自体が、横向き三等分にされていた。

「おい。生きてるなら避難誘導でも続けてろ」

そう俺に話しかけたのは、二本の刀を握っている黒い袴の男だった。

「あんた、確か、定食屋の...」

その男は俺に一瞥をくれると、そのまま妖怪の死体に近づいていった。

「佐吉!大丈夫か!?」

町人たちに起こされた俺は、ようやく冷静さを取り戻す。

「大丈夫だ。なあ、あんた。よかったら避難するのを手伝ってくれないか?護衛してほしい。」

「なぜだ?」

突き放すような男の言葉に、俺は面食らう。

「この状況を見ろよ!みんなで固まった方が良いに決まってる。あんた強いんだろ!力を貸してほしい!」

「お前らといて、俺に得なることはないと思うが?それに、連れを探している。お前たちには悪いが、勝手に逃げてくれ」

もしかしたら、そうであってほしい。と言う気持ちで俺は声をかけ続けた。

「ひょっとしてお連れさんというのは、我羅奇一さんというお方ですかい?」

「...そうだが?」

確証はなかったが、運が良かった。

「我羅さんから伝言です。自分は無事だから町の人を頼む、と」

「...まあ、あいつの言いそうなことではあるか」

その男はしばらく黙っていたがこう言った。

「とりあえずここの連中の避難だけは同行しよう。それでどこにいくつもりだ?」

言ってみるもんだな。俺は我羅に内心で感謝しておいた。

「ここからなら同心の詰所が近いので、そこまで行こうかと」

「...そうか。我羅のやつはどうせ戦っているのだろう?場所は?」

「ここからさらに山の方にある通りです。商店街の方です」

「...そうか。では敵はかなりの数がいるようだな」

「どういうことですか?」

「すでに囲まれている。二十匹程度か」

俺は一気に汗が吹き出し、震えそうになる体を必死に押さえつける。

(あの化け物が二十体も?)

「お前らはとりあえず、そこの家の中にでも入っておけ」

その男が指差した先には倒壊寸前の家があった。

「...ここ崩れたりしないでしょうか?それに中に妖怪がいたりは...?」

「まだしばらくは持つ。妖怪もいない」

そう言い切る男からは、有無を言わせぬ迫力があった。俺たちは仕方なく、崩れた壁の穴から室内に入った。俺はその穴から外の様子を見ることにした。

 その時、突然数体もの妖怪が、今度はその男の近くの家屋から飛び出してきた。俺はさっきの上からの奇襲を見ていたので、上ばかり気にしていた。
しかし、その男はまるで、分かっていたかのような動きで、全ての妖怪の隙間をするりと抜けていった。

(すごい足運びだ!)

そう思うと同時に、襲ってきた妖怪は全て、真っ二つになって崩れ落ちた。俺には、その男がいつ斬ったのかすら分からなかった。
そして、息つく間もなく、さらに倍近くの数の妖怪がゾロゾロと出てきた。奇襲はやめたようだ。しかし、ここから見えるだけでも十何体もいる。
あの男が死んだら、俺も、俺の顔馴染みたちもみんな殺されちまう。そう思った俺は震えながらも、その男ならなんとかしてくれると、信じるしかなかった。

「俺は明智駒之助忠康あけちこまのすけただやす。貴様らの最期の敵だ。よく覚えておけ」

明智と名乗ったその男は、勢いよく妖怪どもに突撃していった。
常に周囲の敵からの攻撃を、どちらかの刀で防ぎ、もう一本で斬りぬける。あるいはかわして斬る。
その凄まじい動きは、俺の目では何をしてるか、よく分からないほどだった。
突然、明智は持っている刀を、少し距離を取っていた妖怪に投げつけた。腹に突き刺さり、剣ごと燃える家屋の柱に叩きつけられたそいつは、弓を持っている妖怪だった。
一刀になった明智は、さっきまでの流れるような動きとはうって変わって、剣道の試合で見るような基本的な動きをしているように思った。剣術素人の俺には、どんな意味があるのか分からないが、美しい剣技だということはわかった。
そして、そのまま三体ほどの妖怪を斬り伏せた。
さらに、明智は残りの一刀で、背後から接近していた二体の妖怪を串刺しにした。そのまま剣を地面に叩きつけて、まだ息のあるそいつらの動きを拘束させた。
武器のなくなった明智に、残り七体ほどの妖怪が襲いかかる。

「危ない!」

俺が声をかけ始める前に、明智は足元に倒れていた妖怪の刀を拾い上げていた。
そして、その刀で攻撃を防ぐと同時に、手の中に隠し持っていた砂を、反対側の妖怪に投げつけた。
俺がその行動は目潰しだと気づく前に、すでに明智は今斬った敵の持っていた槍を奪い、目潰しされた妖怪の腹に突き刺していた。
残りの妖怪が少しずつ明智から距離を取っていた。

(逃げる気だ!)

俺はそう思ったが、明智はもうすでに、残りの妖怪たちの前に立っていた。そしてその手に棍棒が握られている。

(妖怪の持っていたものだろうか?いつの間に拾ったんだ?)

明智は棍棒で、妖怪を滅多打ちにし始めた。最後の一体の妖怪は、急いで逃げようと走り出したようだ。
明智は、今撲殺したばかりの妖怪の手から、ナタを奪い取り、逃げる妖怪に投げつけた。妖怪はナタが頭に突き刺さり、倒れ込んだ。
その後明智は、最初に投擲した自身の刀を妖怪の腹から引き抜き、まだ息のある妖怪たちにトドメを刺してまわっていった。

「終わったぞ。動けるならさっさと避難所へ行け」

穴から覗いていた俺に、妖怪の返り血で真っ赤になった明智が声をかけた。

「あ、ありがとうございます。明智さんと言いましたね。助かりました」

「...俺は妖怪が集まってそうな山沿いへ行く。お前らは火の手が少ない道を行け。多分妖怪は少ないだろう」

我羅以上に無愛想なその男に礼を言い、俺は怪我人たちの避難活動に戻った。
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臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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「お、俺の町が...!」

下山した俺たちが見たのは、よく知った町並みが炎上し、異形の存在が逃げ惑う人々を襲っている姿だった。

「俺の町が...。お、親父は...?」

「佐吉殿!」

取り乱しかけた俺の意識は、我羅の一喝が現実に引き戻される。

「佐吉殿。あなたの家はこの山からは反対の丘の上にあります。妖怪がそこまで行っているとも思えません」

確かに、山からすぐの通りや建物は破壊されているが、少し遠くの方からは火の手は上がっていないようだった。

「私は妖怪退治に来たんです。襲われている町人を守りながら、奴らを斬ります。君は君のできることをしなさい」

俺は顔をはたかれたように感じた。

「俺のできること?」

俺にできることなんてあるのか?
いや、考えている暇はない。すでに走り出した我羅の背中を見ながら、俺の迷いも消えていた。

「俺は鈴村佐吉。この町の長、鈴村家の次期当主だ。町の人を守ってみせる」

俺はすでに走っていた。町の人は妖怪がいないところに集まっているはずだ。なんとか避難させてやらなくては。
その時、我羅が声をかけてきた。

「佐吉殿!私の仲間を見つけたら伝えてください!私は無事だから町の人を頼むと!」

「承知しました!」

(できれば仲間の特徴や名前を教えておいてくれ)

俺はそう思ったが、その言葉を飲み込み、ただ走った。


「佐吉!お前無事だったんか!」

そう呼び止められた俺は、声の方を見た。半壊した物置。そこには怪我をした顔馴染みの町人たちが、十数人ほどで身を寄せ合っていた。

「お前たちこそ生きていてよかった!他の人たちは?」

「動ける連中は町長の家の方や、同心の詰所まで避難してるよ。でもよ、佐吉。おれたち怪我であまり動けないんだ」

「大丈夫、今妖怪どもはこの辺にはいねぇ。俺が先導するから、みんなついてきてくれ。歩けないやつは肩を貸し合うんだ」

そう言うと、みんなはなんとかお互いに支え合いながら、ゆっくりと動き始めた。

(大丈夫!大丈夫のはずだ!我羅さんの方に妖怪が集まっているうちに、なんとか逃げられるはずだ!)

俺はそう自分に言い聞かせながら、避難所まで先導し始めた。
その時、耳を裂くような大きな悲鳴が聞こえた。いや、これは悲鳴ではない。山で聞いた妖怪の鳴き声だ。

「ま、まずい...」

近くにいる!俺は必死に辺りを警戒してみたが、声の主は見つからなかった。
そう思ったとき、俺たちのすぐ近く、大きな建物の屋根から何か落ちてきた。
妖怪だ。妖怪が奇襲を仕掛けてきた。そう思った俺の目の前に、妖怪の刀が迫る。

(死にたくない...!)

突然、妖怪の刀が俺に振り下ろされる前に、ポッキリと折れた。いや、よく見るとその刀を持っていた妖怪自体が、横向き三等分にされていた。

「おい。生きてるなら避難誘導でも続けてろ」

そう俺に話しかけたのは、二本の刀を握っている黒い袴の男だった。

「あんた、確か、定食屋の...」

その男は俺に一瞥をくれると、そのまま妖怪の死体に近づいていった。

「佐吉!大丈夫か!?」

町人たちに起こされた俺は、ようやく冷静さを取り戻す。

「大丈夫だ。なあ、あんた。よかったら避難するのを手伝ってくれないか?護衛してほしい。」

「なぜだ?」

突き放すような男の言葉に、俺は面食らう。

「この状況を見ろよ!みんなで固まった方が良いに決まってる。あんた強いんだろ!力を貸してほしい!」

「お前らといて、俺に得なることはないと思うが?それに、連れを探している。お前たちには悪いが、勝手に逃げてくれ」

もしかしたら、そうであってほしい。と言う気持ちで俺は声をかけ続けた。

「ひょっとしてお連れさんというのは、我羅奇一さんというお方ですかい?」

「...そうだが?」

確証はなかったが、運が良かった。

「我羅さんから伝言です。自分は無事だから町の人を頼む、と」

「...まあ、あいつの言いそうなことではあるか」

その男はしばらく黙っていたがこう言った。

「とりあえずここの連中の避難だけは同行しよう。それでどこにいくつもりだ?」

言ってみるもんだな。俺は我羅に内心で感謝しておいた。

「ここからなら同心の詰所が近いので、そこまで行こうかと」

「...そうか。我羅のやつはどうせ戦っているのだろう?場所は?」

「ここからさらに山の方にある通りです。商店街の方です」

「...そうか。では敵はかなりの数がいるようだな」

「どういうことですか?」

「すでに囲まれている。二十匹程度か」

俺は一気に汗が吹き出し、震えそうになる体を必死に押さえつける。

(あの化け物が二十体も?)

「お前らはとりあえず、そこの家の中にでも入っておけ」

その男が指差した先には倒壊寸前の家があった。

「...ここ崩れたりしないでしょうか?それに中に妖怪がいたりは...?」

「まだしばらくは持つ。妖怪もいない」

そう言い切る男からは、有無を言わせぬ迫力があった。俺たちは仕方なく、崩れた壁の穴から室内に入った。俺はその穴から外の様子を見ることにした。

 その時、突然数体もの妖怪が、今度はその男の近くの家屋から飛び出してきた。俺はさっきの上からの奇襲を見ていたので、上ばかり気にしていた。
しかし、その男はまるで、分かっていたかのような動きで、全ての妖怪の隙間をするりと抜けていった。

(すごい足運びだ!)

そう思うと同時に、襲ってきた妖怪は全て、真っ二つになって崩れ落ちた。俺には、その男がいつ斬ったのかすら分からなかった。
そして、息つく間もなく、さらに倍近くの数の妖怪がゾロゾロと出てきた。奇襲はやめたようだ。しかし、ここから見えるだけでも十何体もいる。
あの男が死んだら、俺も、俺の顔馴染みたちもみんな殺されちまう。そう思った俺は震えながらも、その男ならなんとかしてくれると、信じるしかなかった。

「俺は明智駒之助忠康あけちこまのすけただやす。貴様らの最期の敵だ。よく覚えておけ」

明智と名乗ったその男は、勢いよく妖怪どもに突撃していった。
常に周囲の敵からの攻撃を、どちらかの刀で防ぎ、もう一本で斬りぬける。あるいはかわして斬る。
その凄まじい動きは、俺の目では何をしてるか、よく分からないほどだった。
突然、明智は持っている刀を、少し距離を取っていた妖怪に投げつけた。腹に突き刺さり、剣ごと燃える家屋の柱に叩きつけられたそいつは、弓を持っている妖怪だった。
一刀になった明智は、さっきまでの流れるような動きとはうって変わって、剣道の試合で見るような基本的な動きをしているように思った。剣術素人の俺には、どんな意味があるのか分からないが、美しい剣技だということはわかった。
そして、そのまま三体ほどの妖怪を斬り伏せた。
さらに、明智は残りの一刀で、背後から接近していた二体の妖怪を串刺しにした。そのまま剣を地面に叩きつけて、まだ息のあるそいつらの動きを拘束させた。
武器のなくなった明智に、残り七体ほどの妖怪が襲いかかる。

「危ない!」

俺が声をかけ始める前に、明智は足元に倒れていた妖怪の刀を拾い上げていた。
そして、その刀で攻撃を防ぐと同時に、手の中に隠し持っていた砂を、反対側の妖怪に投げつけた。
俺がその行動は目潰しだと気づく前に、すでに明智は今斬った敵の持っていた槍を奪い、目潰しされた妖怪の腹に突き刺していた。
残りの妖怪が少しずつ明智から距離を取っていた。

(逃げる気だ!)

俺はそう思ったが、明智はもうすでに、残りの妖怪たちの前に立っていた。そしてその手に棍棒が握られている。

(妖怪の持っていたものだろうか?いつの間に拾ったんだ?)

明智は棍棒で、妖怪を滅多打ちにし始めた。最後の一体の妖怪は、急いで逃げようと走り出したようだ。
明智は、今撲殺したばかりの妖怪の手から、ナタを奪い取り、逃げる妖怪に投げつけた。妖怪はナタが頭に突き刺さり、倒れ込んだ。
その後明智は、最初に投擲した自身の刀を妖怪の腹から引き抜き、まだ息のある妖怪たちにトドメを刺してまわっていった。

「終わったぞ。動けるならさっさと避難所へ行け」

穴から覗いていた俺に、妖怪の返り血で真っ赤になった明智が声をかけた。

「あ、ありがとうございます。明智さんと言いましたね。助かりました」

「...俺は妖怪が集まってそうな山沿いへ行く。お前らは火の手が少ない道を行け。多分妖怪は少ないだろう」

我羅以上に無愛想なその男に礼を言い、俺は怪我人たちの避難活動に戻った。
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臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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