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⑥旅立ち

「...佐吉?」

「...親父!」

夜の明けた避難所で、俺はようやく親父に再会した。

「馬鹿野郎!今までどこ行ってたんだ!」

俺は頬を押さえながら、涙が止まらなかった。きっとこの痛みは生涯忘れられないだろうと思った。

「いきなり殴んなよ!親父こそどこにいたんだよ!」

涙声で毒吐く俺に、親父も泣きながら俺を叱りつけた。

「わしの家を避難所にしていたんだぞ!家に決まっているだろう!」

「町長殿。よろしいか?」

お互い泣きながら喧嘩している俺たちに、我羅が話しかけた。

「我羅さん、これは大変お世話になりました。多くの町民の命の恩人です」

「いえ、町への襲撃を止められませんでしたし、犠牲者も少なくないでしょう。力不足でした」

「あれ、我羅君じゃん。今までどこいたのさ」

明るい声で避難所から犬神が出てきた。

「犬神さん?我羅さんとお知り合いで?」

俺はこの二人にあらゆる面で共通点が見受けられなかったので、そう聞いた。

「そうだよ。ていうか、旅の連れ」

ニッと笑う犬神に、我羅が呆れたように声をかける。

「お前なんで避難所にいたんだ?明智といい、お前といい、少しは俺の仕事を手伝え」

「いやいや!今回は俺もちょっとは妖怪退治したってば。ねえ、佐吉君?」

(犬神さんも旅の仲間だったのか)

俺はそんなことをぼんやりと考えていたので、生返事で答えた。

「ところで明智は見てないか?犬神」

「さあ?駒之助君なら、その辺で居眠りでもしてるんじゃない?」

「あ、それなら昨夜助けていただきました」

不意に明智の名前が出たので、俺は昨夜のことを我羅に報告した。

「まったく、結局避難所へ護衛はしなかったのか」

我羅がため息混じりにそう呟いた。そして、俺に向き合ってこう言った。

「佐吉殿。頑張りましたな」

俺はその言葉を聞いて、一度引いた涙がまた止まらなくなった。俺は昨日から張り詰めていた全ての糸が切れたように、泣き崩れた。犬神が何やら我羅をからかっているようだったが、俺にはもう聞こえなかった。


「町長殿。今回の襲撃者なのですが、できればこの町だけの話に留めてもらえませんか?」

「あの妖怪どものことですか?一体なぜで?」

「私は、今回のような事件を調査・解決する旅をしているのです。新政府はどうも、まだ妖怪の存在を公のものにしたくはないらしく。わざわざ隠せと言うわけではありません。ただ町外に触れ回らないようにと、指示を受けております」

「そういうことでしたら構いませんが、この町にも各地を旅する新聞屋がありますが、大丈夫でしょうか?」

「問題ありません。新政府の許可証を得てない新聞などは風聞記事としか見られません」

「おい、我羅」

親父と話していた我羅に、ドスの効いた声がかけられる。

「明智か。ちょうど良い。ちょっと町長殿、失礼する」

明智は我羅の横まで歩み寄ると、声を潜めた。

「おそらく上級、最低でも中級はいる」

「やはりそうか。目星は?」

「住処の山とは反対方向の街道だろう」

「わかった。お前は犬神を連れて先に向かってくれ。私もすぐ行く」

明智はその場を離れて犬神の方へ歩いて行った。

「...犬神。行くぞ」

俺はなんとなく我羅に話しかけてみた。

「まだ妖怪は残ってるんで?」

「...おそらく。今回我々は三十七匹の妖怪を斬りました。これほど多いのは想定外でした。ここまでの規模なら、指揮していた妖怪がいる可能性があります。しかし、それらしいものは見かけなかった」

「つまり、親玉がまだいるってことですかい?」

「可能性はあります。そして、ここまで大規模な襲撃を失敗したのだから、住処を囮にどこかへ逃げた可能性が高い。我々はそいつを捜索して始末します。もうこの町へは我々も、妖怪も立ち寄らないでしょう」

そう言って我羅は立ち去ろうとした。

「あの!」

俺は思わず声をかけていた。

「さっき明智さんと話していたことは、街道にその親玉が隠れているかもってことですよね?俺もその親玉が死ぬところは、確認しておきたい!」

「いや、しかし」

「もし見つからなかったりしたら、また町が襲われるかもしれない。次期町長として、放ってはおけないですよ」

我羅はしばらく考えたあと、一言言った。

「...では行きましょう」


 ...本当にいた!
あれからすぐ、この3人と町を出る街道を捜索していたら、手負いの妖怪が茂みに隠れていたのを見つけたのだった。

「あ」

我羅が声を漏らすと同時に。俺も気づいた。
森で出会った爬虫類顔の妖怪だ。

「我羅君?ひょっとして遭遇してたの?」

犬神が悪戯っぽい笑顔で我羅に話しかけている。

「取り逃がしてたんだ。それに上級、中級らしき妖怪は確認できなかったって言ってなかったっけ?」

「...」

「貴様ら、一体、何者なのだ」

荒い呼吸混じりにその妖怪が言った。

「え、妖怪って喋るんですか!?」

俺は見たまんまのことを、間抜けにも尋ねてしまった。

「まあ、そういうのもいます。大抵は上級ですが。こいつは下級並みの強さしかないが、中級妖怪のようですね」

上級だの、下級だの、俺には全くわからなかった。妖怪にそんな順列があるのか?
ただ、我羅は納得しているようだったので、俺は「はぁ」と間の抜けた相槌をするだけだった。明智がつかつかと近づく。

「お前、城龍じょうりゅうを知っているか?」

「なんだ?おまえ?」

「質問に答えろ」

明智はそういうと、妖怪の足を一本切り落としてみせた。

(刀を抜く瞬間も見えなかった)

恐ろしい早業だ。

「し、知らない」

「そうか」

そういうと明智は刀を構えた。

「あれ、駒之助君が斬るの?」

「別に誰でもかまわん。明智、やって良い」

犬神と我羅がそう言うと、今にも事切れそうな妖怪が反応した。

「明智?まさかお前があの?」

「さあな」

明智の刃は妖怪の頭を縦に裂いた。

「では我々は旅に戻ります。佐吉殿、また縁があれば」

「じゃあねー。また会ったら今度こそ甘味処行こうね」

「...」

3人の剣士はそう言うと去って行った。

「町を救ってくれてありがとう!また会いましょう!」

俺は家への帰路についた。復興させて、また元気な町を取り戻すために。
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①我羅奇一という男
臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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「...佐吉?」

「...親父!」

夜の明けた避難所で、俺はようやく親父に再会した。

「馬鹿野郎!今までどこ行ってたんだ!」

俺は頬を押さえながら、涙が止まらなかった。きっとこの痛みは生涯忘れられないだろうと思った。

「いきなり殴んなよ!親父こそどこにいたんだよ!」

涙声で毒吐く俺に、親父も泣きながら俺を叱りつけた。

「わしの家を避難所にしていたんだぞ!家に決まっているだろう!」

「町長殿。よろしいか?」

お互い泣きながら喧嘩している俺たちに、我羅が話しかけた。

「我羅さん、これは大変お世話になりました。多くの町民の命の恩人です」

「いえ、町への襲撃を止められませんでしたし、犠牲者も少なくないでしょう。力不足でした」

「あれ、我羅君じゃん。今までどこいたのさ」

明るい声で避難所から犬神が出てきた。

「犬神さん?我羅さんとお知り合いで?」

俺はこの二人にあらゆる面で共通点が見受けられなかったので、そう聞いた。

「そうだよ。ていうか、旅の連れ」

ニッと笑う犬神に、我羅が呆れたように声をかける。

「お前なんで避難所にいたんだ?明智といい、お前といい、少しは俺の仕事を手伝え」

「いやいや!今回は俺もちょっとは妖怪退治したってば。ねえ、佐吉君?」

(犬神さんも旅の仲間だったのか)

俺はそんなことをぼんやりと考えていたので、生返事で答えた。

「ところで明智は見てないか?犬神」

「さあ?駒之助君なら、その辺で居眠りでもしてるんじゃない?」

「あ、それなら昨夜助けていただきました」

不意に明智の名前が出たので、俺は昨夜のことを我羅に報告した。

「まったく、結局避難所へ護衛はしなかったのか」

我羅がため息混じりにそう呟いた。そして、俺に向き合ってこう言った。

「佐吉殿。頑張りましたな」

俺はその言葉を聞いて、一度引いた涙がまた止まらなくなった。俺は昨日から張り詰めていた全ての糸が切れたように、泣き崩れた。犬神が何やら我羅をからかっているようだったが、俺にはもう聞こえなかった。


「町長殿。今回の襲撃者なのですが、できればこの町だけの話に留めてもらえませんか?」

「あの妖怪どものことですか?一体なぜで?」

「私は、今回のような事件を調査・解決する旅をしているのです。新政府はどうも、まだ妖怪の存在を公のものにしたくはないらしく。わざわざ隠せと言うわけではありません。ただ町外に触れ回らないようにと、指示を受けております」

「そういうことでしたら構いませんが、この町にも各地を旅する新聞屋がありますが、大丈夫でしょうか?」

「問題ありません。新政府の許可証を得てない新聞などは風聞記事としか見られません」

「おい、我羅」

親父と話していた我羅に、ドスの効いた声がかけられる。

「明智か。ちょうど良い。ちょっと町長殿、失礼する」

明智は我羅の横まで歩み寄ると、声を潜めた。

「おそらく上級、最低でも中級はいる」

「やはりそうか。目星は?」

「住処の山とは反対方向の街道だろう」

「わかった。お前は犬神を連れて先に向かってくれ。私もすぐ行く」

明智はその場を離れて犬神の方へ歩いて行った。

「...犬神。行くぞ」

俺はなんとなく我羅に話しかけてみた。

「まだ妖怪は残ってるんで?」

「...おそらく。今回我々は三十七匹の妖怪を斬りました。これほど多いのは想定外でした。ここまでの規模なら、指揮していた妖怪がいる可能性があります。しかし、それらしいものは見かけなかった」

「つまり、親玉がまだいるってことですかい?」

「可能性はあります。そして、ここまで大規模な襲撃を失敗したのだから、住処を囮にどこかへ逃げた可能性が高い。我々はそいつを捜索して始末します。もうこの町へは我々も、妖怪も立ち寄らないでしょう」

そう言って我羅は立ち去ろうとした。

「あの!」

俺は思わず声をかけていた。

「さっき明智さんと話していたことは、街道にその親玉が隠れているかもってことですよね?俺もその親玉が死ぬところは、確認しておきたい!」

「いや、しかし」

「もし見つからなかったりしたら、また町が襲われるかもしれない。次期町長として、放ってはおけないですよ」

我羅はしばらく考えたあと、一言言った。

「...では行きましょう」


 ...本当にいた!
あれからすぐ、この3人と町を出る街道を捜索していたら、手負いの妖怪が茂みに隠れていたのを見つけたのだった。

「あ」

我羅が声を漏らすと同時に。俺も気づいた。
森で出会った爬虫類顔の妖怪だ。

「我羅君?ひょっとして遭遇してたの?」

犬神が悪戯っぽい笑顔で我羅に話しかけている。

「取り逃がしてたんだ。それに上級、中級らしき妖怪は確認できなかったって言ってなかったっけ?」

「...」

「貴様ら、一体、何者なのだ」

荒い呼吸混じりにその妖怪が言った。

「え、妖怪って喋るんですか!?」

俺は見たまんまのことを、間抜けにも尋ねてしまった。

「まあ、そういうのもいます。大抵は上級ですが。こいつは下級並みの強さしかないが、中級妖怪のようですね」

上級だの、下級だの、俺には全くわからなかった。妖怪にそんな順列があるのか?
ただ、我羅は納得しているようだったので、俺は「はぁ」と間の抜けた相槌をするだけだった。明智がつかつかと近づく。

「お前、城龍じょうりゅうを知っているか?」

「なんだ?おまえ?」

「質問に答えろ」

明智はそういうと、妖怪の足を一本切り落としてみせた。

(刀を抜く瞬間も見えなかった)

恐ろしい早業だ。

「し、知らない」

「そうか」

そういうと明智は刀を構えた。

「あれ、駒之助君が斬るの?」

「別に誰でもかまわん。明智、やって良い」

犬神と我羅がそう言うと、今にも事切れそうな妖怪が反応した。

「明智?まさかお前があの?」

「さあな」

明智の刃は妖怪の頭を縦に裂いた。

「では我々は旅に戻ります。佐吉殿、また縁があれば」

「じゃあねー。また会ったら今度こそ甘味処行こうね」

「...」

3人の剣士はそう言うと去って行った。

「町を救ってくれてありがとう!また会いましょう!」

俺は家への帰路についた。復興させて、また元気な町を取り戻すために。
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