①我羅奇一という男
「腹減ったよね。我羅君?」
軽薄そうな声に振り向くと、犬神が私に話しかけていた。
「それがどうかしたか?」
「いやさ、いったいいつになったら町に着くのかと思ってさ。我羅君、昨日は朝には着くって言ってなかったかなぁ、て思ってね」
ニヤニヤとそう言った犬神に、私は少し辟易しながら答える。
「仕方ないだろう」
「まあそうだよね。我羅君の見積もりだもん。予想通りにはいかないよね」
犬神が絡んでくるその少し後ろで黙っていた明智が口を開く。
「あれか?」
そう言われて視線を前にやると、大きな砦のような建物が見えていた。
「そうだ。あの宿場町で新政府とのやり取りをしてくる。お前たちは宿をとっておいてくれ」
「ずいぶんでかい町だね。前の町じゃ甘味も着物も見れなかったし、ゆっくりしていきたいな」
犬神は媚びるような笑みを浮かべ、私を見上げた。私は少しうんざりしながら答えた。
「次の目的地次第だ」
宿場町に入り、私は一人新政府の出張所に向かった。
「失礼。我羅奇一と申す。誰かおりませんか?」
声をかけると、奥から一人の役人が顔を覗かせた。
「我羅殿ですか?失礼ながら、身分証と公認札はございますか?」
私は懐から身分証と、政府公認治安維持活動許可証として新政府から与えられた木札を差し出した。
「はい。確認いたします。」
しばらく書類と私の顔を見比べた男は、身分証と公認札を私に返しながら言った。
「はい。問題ありません。少々お待ちください」
男は再び奥の部屋に入ると、そのうちに袋と文書を持って戻ってきた。
「こちらが我羅殿のお給金になります。そして、こちらは依頼状になります」
「感謝します。では、改めさせていただきます」
私は袋を開けて約束通りの給金があるかを確認した。そして依頼状の手紙の封を確認した。
「しかし、噂の我羅殿は想像していたよりもお若いのですね」
確認作業中の私に、男がそう言う。おそらく身分証で私の年齢を見たためだろう。
「よく言われます」
私はどうも、実年齢より高く見られるようだ。
人相だろうか?それとも眉毛が無いせいだろうか?
とにかく、私は給金袋と依頼状を持って、出張所を出た。そして、町を少し歩いた。人目の少ない食事処へ入り、依頼状を開封した。
「少し距離があるな」
依頼先はここから山の先だった。迂回するなら何日もかかりそうだ。山越えにしてもすぐには着きそうにない。私は運ばれてきた定食に手をつけながら、今後の予定を考えた。
「ここにいたか」
私は甘味処で呑気に団子を頬張っている犬神に声をかけた。
「もう手続きは終わったの?それなら、我羅君も一緒に食べようよ。美味しいよ」
そう言って串団子を差し出す犬神を、私は遮りながら言う。
「次の目的地が決まった。ここから山を越えることになる。今からすぐ出発することにした」
犬神は不満そうな顔をして、色々と文句を言ってきたが、私は聞こえないふりをして明智を探しに町へ歩き出した。
「明智。すぐ出発だ」
町の中、一人ぼけっと川を見ながら立っていた明智に私はそう言った。
「緊急案件か?」
「いや、そうではない。山越えが必要なので、ここで食料を買ったらすぐ行かないと、到着時間が遅くなりすぎるからだ」
明智はそれを聞くと、黙って視線を川に戻して言った。
「そうか」
(相変わらず感情表現が不得手なやつだ。私より年上だろうに)
私は自分のことは棚に上げてそう思った。