③捜索開始
山の中へ入った私は、まずは野生動物の足跡や糞を探した。この山に生息する動物を把握したかった。
私はある程度歩き回り、動物の痕跡をいくつか見つけた。そして、その近くにあるものも発見した。
「これだな」
月明かりに照らされた先には、樵の男と、同じ痣を発症している猪の死骸があった。そばには引き摺られた跡が残っている。
「なるほど、縄張りか」
私はさらに山の中を探索した。しばらくすると、また同じような鹿の死骸を発見した。
私は先ほどの猪と、この鹿の位置と方角を確認した。
(風向きからすると、この方向だろうか?)
私は妖怪の縄張りと思われる方へと、歩き出した。
しばらく歩くと、少しずつ虫の音が静かになっていくことに気づいた。そして、微かに薬草のような、青臭い匂いがした。
「近いな」
私はその場で座り込み、腰の鞄に手を伸ばす。火打ち石と畳んである提灯を出して、火を灯した。そして、それを持って異臭のする方へと再び歩き出す。
小さな提灯に照らされ、周囲の草木が影を作る。私は警戒したまま、石を周囲に投げてみる。反応はない。そうして歩いていく内、青臭い匂いはさらに強くなる。
「見つけた」
私は人の手によって、掘ったような洞窟を見つけた。提灯で中を照らすと、幾つもの骨や腐った肉があった。そして、その腐乱臭を覆うように、洞窟の中から、強烈な青臭い匂いが放たれていた。
私は洞窟に入り、妖怪がいないことを確認し、穴の奥の壁を背にして立った。
腐乱臭を漂わせる肉塊には蠅がたかっている。私は提灯を置いて、その蠅をしばらく見続けていた。
それから数刻が経った頃、蠅が数匹どこかへ飛び去った。私は胸元にある刀の留め具を外して、鞘に収めたままの長刀を下ろした。さらに蠅が数匹飛び去る。もう蠅は残っていない。
私は提灯の微かな灯りの中、注意深く目を凝らす。
私はわずかな動きを捉えた。
納刀したまま、私は目の前の虚空を刀で殴りつけた。
振り下ろした刀から、ぐちゃり、と音がして血が飛び散る。私はそれを確認する。少し潰れたその姿は蜂のような大きさの蚊のような虫だった。
「やはり、虫を使った毒の散布だったか。小屋の男や少年は謎の病だと認識していた。つまり、本人も気付かぬうちに毒にやられたということ」
私は洞窟の外に向かってそう声をかける。私の声に反応して、外で何かが動く。
その瞬間、すごい速さで、何節にも分かれた巨大なムカデのような触手が、私の前に迫る。その先端には棘のようなものが確認できた。
私は刀でそれを受け、即座に洞窟を出た。
そこには、左右の腕が触手のような、巨大なムカデになっている妖怪がいた。体格はそれほど大きくはなく、私より少し小さいくらいだろうか。
その昆虫のような複眼で、私を見据えている。
「ようやく姿が見えたな。提灯や物音で住処を荒らした甲斐があった」
私はそう言いながら、鞘を引き抜き、その場に置いた。
妖怪は破れかけで汚れた羽織を着ている。
そして、羽織の内側から、先ほどの巨大蚊が数匹飛び立ったのが、月明かり越しに見えた。
私はすぐに山中に走り出した。妖怪は大きく沈み込むと、突然凄い勢いで飛びかかってきた。その足は人間と同じような太さでありながら、関節が逆向きになっており、その伸縮で凄まじい跳躍をしたのだと理解した。
跳びまわりながら、両手のムカデで私に攻撃してきた。
「妖怪本体にも毒があるのか」
ムカデの先の棘から、青臭い液体が滴っているのを見た私は、走りながらそう呟いた。