5話 結婚してください!!!!
その男性の手にはビニール袋、そこから透けて見えたモデモン用のご飯が一つ入っている。
膝をつき告白する男性に、けんととだいちは唖然とする。
周りのお客さんが、相手に聞こえるかのようにわざと大きめの声でひそひそと話す。
「また言われてるわ。これで何度目?」
「毎日通ってて迷惑よ迷惑」
「なんで出禁にしないのかしら」
告白した男性の手が視界に入る。
左手薬指には指輪? 不倫......?
俺はネックウォーマーを口元まで上げる。
出禁にすればいいのに、していなさそうな会話......毎日通っていて、それがお医者さんから許されているということ......でも告白は成功していないこと......それからここはモデモンセンター......。
ネックウォーマーを離す。俺は席を立ち男の人に話しかけた。
「モデモンが、病気か何かになっていると言うことでは? 指輪をはめてますし、気分を誤魔化すために言ってるとかではないのですかね?」
男は話す。
「妻にはこのことで怒られました。お医者さんのヘルナさんにどうにか気持ちを伝えたくて、結婚すると言えるくらいの覚悟があるんだ、とアピールしていたんです。うちのサイドリルもずっと診てもらえるようにと思って」
男は丁寧に語った。
「ヘルナさんにはこのことは伝えてあります」
......ん?
俺はもう一度ネックウォーマーを掴み上げる。
なぜ告白なのか......告白でなくても土下座とかあったのでは......? なぜ許しているんだろう? それだけサイドリル? の症状が重いのかもしれないけど......。
俺はヘルナさんの指輪を見る。
『......また言われているわ』周りの人が言っていた言葉。
......。
その時、ヘルナさんは男の人を心配そうに見ていた。
もしかして。
ネックウォーマーを下ろす。
「ヘルナさん、結婚しているのに他の人にも求婚されている?」
「......ぁっ」
と、男は呟いた。
ヘルナさんは、説明するかのように一言。
「隠していましたが、そうなんです」
「あぁそれを庇うためにも、この方が告白して無理だというのを伝えていると」
ヘルナさんは俺に問い掛ける。
「どうして気づいたの?」
「また言っているじゃなくて、また言われている。と周りの人は言っていた。指輪もあるし、もしかしたら他にも、この男の人じゃなくて別に告白する人がいるのかと思いまして」
ヘルナさんは目を見開く。
「このお客様のおかげで、最近では告白されることがなくなっていたんですよ。皆様、ご心配おかけしてすみませんでした」
ヘルナさんは頭を下げ、お辞儀した。
周りのお客さんは知らなかったようで、すみませんとそれぞれヘルナさんと男の人に謝っていた。
けんととだいちが俺の服を摘む。
「やっぱ囚覚さん気づくの凄いですね」
「兄さんよく分かるよなー。俺は指輪も見落としてたのに」
「偶々だよ」
告白した男は周りを見回す。
「皆さん、このことはくれぐれも内緒で」
その場の者は皆頷いた。
俺たちはその後、亀金庫に湿布を張ってもらいモデモンセンターを出た。
◆◆◆
「気をつけてね」
「はい」
けんととだいちがお礼を言う。
「ありがとうございました」
「あんがとよー......! あっ」
だいち、どうしたんだ「あっ」て......。
だいちの見る方を見ると、一人の背の低めな女性が来ていた。
綺麗なショートカット。大きめの花の髪飾りが一つ、その下に落ちるように花びらのヘアクリップが、疎らに付けられている。
「げっ姉ぇちゃん......」
姉か。
「すみませんうちの弟が、ご迷惑をおかけしました。私は亡雨生晴と言います」
亡雨さんは小柄だが、多分見た感じ俺と同級生か一個上とかだろう。
俺に向かって頭を下げる。
「いえいえ」
だいちに亡雨さんは振り向く。
「こんなところにいて何したのか後できっちり、お母さんに報告するからね」
「はい......」
帰ろう。
俺は踵を返す。
けんととだいちが俺に手を振った。
「兄さんありがとうー......!」
「やっぱり女性よりモデモンの方が大事だと気づけたので、告白はまた考え直しまーす!!」
「カメキキキー」
そっか......。
俺は二人に手を振る。
明日は学校かぁー。
道を歩きながらふと考えた。
今度からは法根に誘われても、内容を確認してから行くか決めることにしよう。