6話 目的
帰り道の途中。
普段通る道ではあるが、行ったことのない路地を見る。
俺はふと、そっちの道を進みたくなった。
子供の頃は遠く感じて行かなかった道も、今なら凄く近く感じる。
まだ時間あるし。
俺は、なんとなくで寄り道をすることにした。
傾きかけてはいるが、太陽はまだしっかり空にある。
階段が見えた。その階段を登り、丘の上へと行く。
そこにはベンチがあり、その近くで小さな女の子に高校生くらいの女性が一人いた。
姉妹には見えないな。
小さい女の子は何か下を見てうろちょろしている。
落とし物かな? 暇だし手伝ってあげたいなー。探す人数は多いに越したことないしね。
声を掛けようとする......。
こういう時、ちょっと緊張するんだよね。声をかけていいのかダメなのか......。
その場で行ったり来たり、迷いながら少しずつ近づいていく。
意を決して、俺は急接近し声をかける。
「あの、なにか落とし物でも探しているんですか? 邪魔でなければ私も探すの手伝いますよ」
「いい」
小さな女の子が発した。
「いい」と断られる俺。
いいの? 探しているのでは......。
ロングの艶やかな髪。細かくデザインされたヘッドピースに、紐のリボンが付いていて、同じ物の小さい版をもう一つと、左右におしゃれした髪飾りを付けた高校生の女性がこちらに来る。
「こんにちは」
「こんにちは......」
軽く挨拶をされる。
「私もこの子が落とし物を一緒に探してあげたくて、声をかけたんだけど......」
「断られたのですか?」
「ええ、何を落としたのか分かれば、一緒に探してあげられるんだけど、教えてもらえないのよ。もう直ぐ日が暮れるし、そうなれば余計に探しづらくなると思うわ」
「確かに」
必死に何かを探す女の子を、俺たちは見る。
「暗くなって、小さい女の子一人にはできないし」
「そうですね」
高校生の女性は、女の子に優しく声を掛ける。
「何を落としたのか教えてくれない? 私たちあなたのこと助けてあげたいの」
「いい!」
またも女の子に、断られる。
断られた俺たちは二人でとりあえず、ベンチに座って様子を見守ることにした。
女の子はショルダーバッグを掛けていて、中にはちらりとホッピングウサギ型の小さなポーチが、入っているのが見えた。そのポーチのチャックは開いていた。
かわいいの持ってるなー。流石女の子。
ベンチからは、町の景色が綺麗に見えた。
俺は高校生の女性に、なんとなく聞いてみる。
「ここにはいつからいたんですか?」
「さっきよ。私も来たばっかりだったわ」
「そうですか」
......。
少し温かい空気が肌に当たる。
「話したくなかったらいいんですが、どこの高校の方ですか? もしかして同じ高校かもしれないんですが......」
「直ぐそこのラサシト高校」
「一緒ですね」
俺は、家の屋根を見ながらぼーっと話す。
「女の子何探してるんですかねー」
「そうね......もう四時半......日が暮れると探せないだろうし、私もう一回聞いてみるわ」
高校生の女性は、立ち上がり女の子にまた近寄った。
女の子は地面に手をつけ、悔しそうな表情をしていた。
「ねぇ......」
女の子は振り返り、高校生の女性の顔を見ると言う。
「だめ、教えない!」
「......」
高校生の女性は何も言えずに佇んだ。
あらら、どうしたものか。
そんな高校生の女性を見てか、女の子はぽつりと呟いた。
「皆が好きなものだから、取られちゃう」
それに高校生の女性は返事をする。
「私たちは取らないわよ」
「......」
ぷいっとそっぽを向いた女の子。
高校生の女性は俯いて、こちらに戻ってきた。
「どんまい」
「ちょっとは話してくれたんだけれど......何かしらね、家の鍵かしら?」
日が落ち出す。辺りが赤く染まりだした。
「時間がないわね......」
何故か分からないが、高校生の女性は凄く女の子を心配そうに見る。
俺は呟いた。
「ちょっと考えてみるか、分かるか分からないけど......」
ネックウォーマーを上げる。口元を隠した。
ヒントは自分で言ってた皆が好きなもので......夢とかは......落とせないから物体のないものじゃない。
......。
「お金、かな?」
ネックウォーマーから手を離した。
「いくらか分からないけど、沢山落としてるのだとすると少しは見つかるはず、見つかってる形跡がないし、取られるかもと思う微妙な値段は百イェンとか、五百イェンかな? コインだと」
女の子も俺の話を聞いていた。
「バックに入ってたポーチは、きっとお財布代わりに使っているんじゃないかと思った」
女の子がこちらを見ている。
高校生の女性が聞いた。
「そうなの?」
女の子は言いづらそうにもじもじする。
「バレたし値段言うよ五百イェン玉、落とした」
俺たちは顔を合わせる。
◆◆◆
夕日が差す時、探しものはようやく見つかる。
俺は女の子にお金を渡した。
「ありがとう......」
「どういたしまして」
俺と高校生の女性は、女の子を見る。女の子は俺たち二人を見て頭を下げた。
「あの、最初断ってごめんなさい」
「そんなのいいのよ。それよりもう暗くなるから、お家には気をつけて帰るのよ」
「はい!」
優しく言う高校生の女性に、女の子は笑顔で答えた。
女の子は、去り際にもお辞儀し帰って行った。
「ねぇあなたはなぜ、探してあげたの? 何か目的でもあったの?」
ふと、高校生の女性が聞いてきた。
目的......か。
「今回に限った目的じゃないですけど、今はとにかく考えて、成長して、大人になったときに色んなことに対応できるように、備えておきたいと思っていて。だから、気になったことは積極的に声をかけて考えていきたいんです」
夕日が落ちかける。
「今回も気になったから探しました」
「そうなの」
「そちらは?」
高校生の女性は、髪を靡かせ堂々と話した。
「面白いことをして、そのすべてを覚えていたい。つまらないのは嫌、忘れるのも嫌。今日のことはしっかりメモを取るわ」
面白い......女の子は必死だったと思うけどな......まーいっか。
「あなたとはまた会えそうな気がするわ。学校で出会ったらよろしく。一年生でしょ? 私二年だから」
「そうなんですか。分かりました」
話すこともなくなり、会話が途切れる。
帰ろう。そう思って背を向けた時。
「そういえば名前を聞いてなかったわね。折角なんだし教えてもらいたいわね。何ていうのかしら?」
振り返り俺は答えた。
「囚覚十恕です」
「そう。私は――」
風が強く吹き耳にボォと音が入る。彼女が口をパクパク動かすのだけは見えた。
「じゃあ、またどこかで会えたらよろしくね」
そう言って高校生の女性は、踵を返す。
やべ、聞こえなかったんだけど。次に会った時なんて言おうか......。
俺は迷いつつ、彼女の帰る背中を見る。
「今日はもう帰ろう」
夕日が落ちる中、俺は家へと帰った。