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第16話 破滅への足音

6月になり皆んな学校生活に慣れてきた。そうすると、ゴールデンウィーク以降来ていない優を心配する声があがる。部活がない奴らで見舞いに行こうと緋那が気づいた時には話がまとまっていた。

「望月、一緒に今日も優の見舞いに行くなら一緒に行っていい?」

 代表して、クラス委員をしている大塚おおつかが尋ねてくる。緋那は特に断る理由もなく、優も喜ぶだろうと了解する。放課後に部活のない数人とゆうの見舞いに行くことがトントン拍子で決まった。
 
 一応驚かせないように優にメッセージを入れておく。

《今日の放課後、クラスの奴らと見舞いに行く》

 次の休み時間に携帯を確認すると

《了解。楽しみにしてるね》

 と可愛いスタンプと一緒に送られてきた。いつも通りの優の反応に緋那は笑う。今日は大丈夫そうだなと同時に安堵する。

 優が入院してもう1ヶ月経っている。しかし、いまだに原因がわからず、時折急に意識を失うこともあるようだ。定期的に検査をしているらしく、時折センサーのコードに繋がれている優を見舞いの時に何度か緋那は見ている。

 その時のなんとも言えない優の顔が緋那は忘れられなかった。でも、1番辛いのは優だ。その優が辛い顔を見せていない以上、緋那が辛い顔をするわけにはいかない。
 この1ヶ月で緋那も、そして優も笑顔を張り付けることを覚えてしまっていた。

 本日最後の授業が終わり、担任のホームルームが終わる。席替えして後ろの席になった、優花が緋那の肩を叩いた。

「今日は私、お見舞い行けないから、優によろしくね」

 優花も部活がない日は優のお見舞いに行っていた。そして退院できる様子がなかなか見えない優に不安を感じているようで、最近は緋那への当たりが弱い。
 調子が狂うなと思いながらも緋那は同意する。

「おー、安東も部活頑張れよ」

 緋那の言葉を聞き、安心したように笑うと優花は鞄を持って教室から出て行った。そして、緋那も鞄を持つ。そして、今日見舞いに行く予定のクラスメイトと共にお見舞いの品を相談しながら優の入院する病院に向かったのだった。

 6人と少し大所帯になってしまったが、優の部屋が個室なこともあり、看護師から嫌な顔はされなかった。
 緋那の案内で病室まで向かう。緋那はいつも通り、扉をノックすると返事を待たずに病室へ足を踏み入れる。

「おー、いらっしゃ......い」

 緋那の後ろのクラスメイト達を見て優が一瞬驚いた顔をしていた。見舞いに行くことは伝えたが、人数は伝えてなかったなと多さに驚いたと思い、特に気にしなかった。それに優はすぐに笑顔になりいつも通りに語りかけたから、気にする必要はないと思った。

「こんなところに、みんなありがとう!」

 優は嬉しそうにクラスメイトを見回す。クラスメイト達も優が元気そうで安心した様子で優が入院中の学校での話をする。30分程過ごし、そろそろお暇すると5人は先に帰って行った。緋那も一緒に帰ろうとしたが、優が真剣な目で緋那を引き止めた為、止まった。

 クラスメイトが病室を出てしばらくした頃に、優は耳を疑うことを口にした。

「ねぇ、ひなた。今の人達誰? クラスメイト?」
「ーーっ、なっ、何言ってんだ、優。高校のクラスメイトでお前、人の名前と顔を覚えるのは得意だっただろ」
「......そうだよね、うーん、実はさ、最近人ってか看護師さんの顔と名前がわからないことが増えててさ、脳を使ってないから衰えたのかなーって思ってたんだけど......」

 優の言葉に緋那は愕然とした。謎の病の影響で、人の顔と名前を覚えられなくなった? 確かに優が最初に倒れた日は高校入学より前だ。でも、ゴールデンウィークの時期はまだ名前を覚えて出していたではないか。口腔が乾燥していく事に気づいた。上手く声が出せる自信がない。

「おーい、ひなた?」

 黙り込んだ緋那に優が心配そうにしている。その時、緋那は思い出した。優が倒れる前にあってるクラスメイトが1人いたことを。パサついた口を唾液で無理やり潤して、緋那は祈るように口を開く。

「なら、橘は覚えているか!? 橘千春!! 安東の友達の」
「えっ? ひなた、噂の千春ちゃんに会ったの!?」

 その言葉に緋那は頭を殴られた気分だった。クラスメイトだし、一緒に3月31日にあっただろう。そう言いたかった。しかし、優の様子は嘘をついている様子はない。
 なら、本当に忘れているのか? 緋那は顔から血の気が引くのを感じた。

「優、その覚えられない事看護師さんに言ったか?」
「えっ、言ってないよ? 顔覚えられませんって言えないって、流石に」
「......優、俺看護師さん呼んでくる」

 真剣な表情の緋那に優の笑顔が消える。

「もしかして、私千春ちゃんにも、今日来てくれたクラスメイトにもあってるの......?」

 優の顔が苦痛に歪む。それでもなんとか言葉を搾り出そうとしている様子だ。

「私......忘れてるの?」

 優の言葉に緋那は絶望と共に気づかせてしまった事に対する罪悪感を感じた。
 緋那は優に何も言えずに、逃げ出すように病室を出て、ナースステーションに行く。そして事情を説明する。

 看護師の目の色が変わり、すぐに先生に連絡すると言われ、緋那は帰るように促される。
 最後に見た優の顔が頭から離れない。あんな悲しい顔をさせない為に毎日見舞いに行っていたのに自分のせいでさせてしまった。そして、逃げるように出てきて、そのまま会わずに帰る。
 深い後悔を抱えながら緋那は家路についた。

 これがこれから始まる破滅への足音が真後ろまで迫ってきていたという事をこの時の緋那は知るよしもなかった。
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天国行きの切符作者:星川宙
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第16話 破滅への足音

6月になり皆んな学校生活に慣れてきた。そうすると、ゴールデンウィーク以降来ていない優を心配する声があがる。部活がない奴らで見舞いに行こうと緋那が気づいた時には話がまとまっていた。

「望月、一緒に今日も優の見舞いに行くなら一緒に行っていい?」

 代表して、クラス委員をしている大塚おおつかが尋ねてくる。緋那は特に断る理由もなく、優も喜ぶだろうと了解する。放課後に部活のない数人とゆうの見舞いに行くことがトントン拍子で決まった。
 
 一応驚かせないように優にメッセージを入れておく。

《今日の放課後、クラスの奴らと見舞いに行く》

 次の休み時間に携帯を確認すると

《了解。楽しみにしてるね》

 と可愛いスタンプと一緒に送られてきた。いつも通りの優の反応に緋那は笑う。今日は大丈夫そうだなと同時に安堵する。

 優が入院してもう1ヶ月経っている。しかし、いまだに原因がわからず、時折急に意識を失うこともあるようだ。定期的に検査をしているらしく、時折センサーのコードに繋がれている優を見舞いの時に何度か緋那は見ている。

 その時のなんとも言えない優の顔が緋那は忘れられなかった。でも、1番辛いのは優だ。その優が辛い顔を見せていない以上、緋那が辛い顔をするわけにはいかない。
 この1ヶ月で緋那も、そして優も笑顔を張り付けることを覚えてしまっていた。

 本日最後の授業が終わり、担任のホームルームが終わる。席替えして後ろの席になった、優花が緋那の肩を叩いた。

「今日は私、お見舞い行けないから、優によろしくね」

 優花も部活がない日は優のお見舞いに行っていた。そして退院できる様子がなかなか見えない優に不安を感じているようで、最近は緋那への当たりが弱い。
 調子が狂うなと思いながらも緋那は同意する。

「おー、安東も部活頑張れよ」

 緋那の言葉を聞き、安心したように笑うと優花は鞄を持って教室から出て行った。そして、緋那も鞄を持つ。そして、今日見舞いに行く予定のクラスメイトと共にお見舞いの品を相談しながら優の入院する病院に向かったのだった。

 6人と少し大所帯になってしまったが、優の部屋が個室なこともあり、看護師から嫌な顔はされなかった。
 緋那の案内で病室まで向かう。緋那はいつも通り、扉をノックすると返事を待たずに病室へ足を踏み入れる。

「おー、いらっしゃ......い」

 緋那の後ろのクラスメイト達を見て優が一瞬驚いた顔をしていた。見舞いに行くことは伝えたが、人数は伝えてなかったなと多さに驚いたと思い、特に気にしなかった。それに優はすぐに笑顔になりいつも通りに語りかけたから、気にする必要はないと思った。

「こんなところに、みんなありがとう!」

 優は嬉しそうにクラスメイトを見回す。クラスメイト達も優が元気そうで安心した様子で優が入院中の学校での話をする。30分程過ごし、そろそろお暇すると5人は先に帰って行った。緋那も一緒に帰ろうとしたが、優が真剣な目で緋那を引き止めた為、止まった。

 クラスメイトが病室を出てしばらくした頃に、優は耳を疑うことを口にした。

「ねぇ、ひなた。今の人達誰? クラスメイト?」
「ーーっ、なっ、何言ってんだ、優。高校のクラスメイトでお前、人の名前と顔を覚えるのは得意だっただろ」
「......そうだよね、うーん、実はさ、最近人ってか看護師さんの顔と名前がわからないことが増えててさ、脳を使ってないから衰えたのかなーって思ってたんだけど......」

 優の言葉に緋那は愕然とした。謎の病の影響で、人の顔と名前を覚えられなくなった? 確かに優が最初に倒れた日は高校入学より前だ。でも、ゴールデンウィークの時期はまだ名前を覚えて出していたではないか。口腔が乾燥していく事に気づいた。上手く声が出せる自信がない。

「おーい、ひなた?」

 黙り込んだ緋那に優が心配そうにしている。その時、緋那は思い出した。優が倒れる前にあってるクラスメイトが1人いたことを。パサついた口を唾液で無理やり潤して、緋那は祈るように口を開く。

「なら、橘は覚えているか!? 橘千春!! 安東の友達の」
「えっ? ひなた、噂の千春ちゃんに会ったの!?」

 その言葉に緋那は頭を殴られた気分だった。クラスメイトだし、一緒に3月31日にあっただろう。そう言いたかった。しかし、優の様子は嘘をついている様子はない。
 なら、本当に忘れているのか? 緋那は顔から血の気が引くのを感じた。

「優、その覚えられない事看護師さんに言ったか?」
「えっ、言ってないよ? 顔覚えられませんって言えないって、流石に」
「......優、俺看護師さん呼んでくる」

 真剣な表情の緋那に優の笑顔が消える。

「もしかして、私千春ちゃんにも、今日来てくれたクラスメイトにもあってるの......?」

 優の顔が苦痛に歪む。それでもなんとか言葉を搾り出そうとしている様子だ。

「私......忘れてるの?」

 優の言葉に緋那は絶望と共に気づかせてしまった事に対する罪悪感を感じた。
 緋那は優に何も言えずに、逃げ出すように病室を出て、ナースステーションに行く。そして事情を説明する。

 看護師の目の色が変わり、すぐに先生に連絡すると言われ、緋那は帰るように促される。
 最後に見た優の顔が頭から離れない。あんな悲しい顔をさせない為に毎日見舞いに行っていたのに自分のせいでさせてしまった。そして、逃げるように出てきて、そのまま会わずに帰る。
 深い後悔を抱えながら緋那は家路についた。

 これがこれから始まる破滅への足音が真後ろまで迫ってきていたという事をこの時の緋那は知るよしもなかった。
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天国行きの切符作者:星川宙
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