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第21話 記憶と心

緋那は優と約束した日、医師に相談する前に彼女の母親に話をつけるのが先だと考えた。病院からの帰り道にもう一ヶ月以上連絡してないメッセージを開く。
 そして、軽い挨拶と次の流星群をいつもの丘に見に行きたいと優と約束したこと。医師に外出の許可を取ってもいいか連絡を入れる。
 きっとすぐには返信はこないだろう。しかし、優と外出すると約束したこと、昔のように優と軽口を叩けたこと。それだけで普段よりも足が軽い。
 夏のジメッとした暑ささえ、いつもより心地よいものに感じた。

「おばさんから返事があったら、日付を決めないとな。あとは、レジャーシートあったか?」

 緋那は自分が浮かれている自覚はあった。鼻歌やスキップをしたい気分だ。不審者になるからやりはしないが。
 優はもしかしたら、何かを隠してるかもしれない。そんな疑惑は変わらない。それでも、根本は変わっていない。
 それが約束を交わした時の懐かしい軽口の応酬でわかった。

 何かが壊れる気がして、軽口をなかなか言えなかった。しかし、久しぶりに懐かしい空気を味わえて、もっと早くから一歩踏み込めばよかったと後悔した。
 でも、大丈夫。約束をしたから。
 緋那にとって、約束は優との未来の希望だった。

 家に着き、荷物を部屋に置きに行く。そしてなんとなくスマホを見る。するとそれはメッセージを受信していた。
 すぐに確認する。優の母親からだった。

 メッセージには、流星群の件は了承したこと。医師には自分の方から交渉して、結果を伝える。優をよろしくと簡潔に書かれていた。
 きっと、まだ緋那と一緒で折り合いがつけられないのだろう。希望を見出すには優の現状は謎が多い。治療方法どころか、異常だけはあるのに原因がわからないのだ。

 メッセージに緋那はお礼を返信する。なんとなくだが、優と流星群を見えたら何かが変わるんじゃないか、そんな予感がした。



◇◇◇◇



 朝が来る。目が覚めた優は周りを見回し、ノートを手に取る。そして、ページを捲る手がある場所で止まった。

「流星群を見る約束......?」

 記憶にはない。でも何故か緋那からこの話をされた時の嬉しさが優の心の中に残っていたのか、その単語に歓喜する。
 それが昨日の私にとってとても大事で大切にしまっていたものなんだなと他人事のように思う。
 流星群を見に行けることは嬉しい。しかし、それを見るのは果たして私なのだろうか? 寝起きの頭がそう優に問いかける。昔の記憶はあるが、最近の記憶が一切ない優はその答えを持ち合わせていない。

 キャビネットに飾ってあるカレンダーを見る。カレンダーには数字にばつ印がされているものと、されていないものがあった。
 きっと、過去の自分が寝る前に翌日の自分に日付がわかるようにやってくれたんだろうなと察した。私ならきっとやる。それは断言できるのだ。

 優はとりあえず、ベッドから起き上がることにした。ノートをキャビネットに置く。そして、ベッドサイドに足を下ろして、床を踏む。何か、違和感を覚えた。
 しかし、優は気のせいだとその感覚を無視する。足に力を入れて立ちあがろうとした。ベッドから腰を浮かせようとした瞬間、足に力が入らずにベッドの下へと座り込む。

「あれ......?」

 思わず声が漏れる。思わず手をグーパーと開く。体全体に力が入らないわけではないようだ。ただ、足に力が入らない、それだけ。
 時計を見る。ノートに書かれていた朝食の時間まではまだある。優は腕の力を使って、なんとかベッドに這うようにして戻った。そして、一息つく。
 額が汗ばんでいることに気付き、腕で拭う。

 体に力が入らないとノートに書いてあったのはこのことかと思った。少し上がった息を整える。息がしづらい気がした。
 最近のことはわからない。でも記憶のある昔はこんなに息がしづらかっただろうか? と疑問に思う。
 優はノートを開いた。手は動いたため、今日の日付を書く。そして、足に力が入らなかったこと。違和感を感じたら、歩くのは一旦中止、ベッドで過ごした方がいい。
 
 そして、ペンを置く。これで未来の私は今の私みたいにベッドから落ちることはないだろう。
 うんと頷き、ノートを閉じる。体が固まっている気がして、伸びをした。

 それから、ベッドから降りずに過ごす。昼食も終わり、ぼんやりとテレビを見ていると、ノックと共に扉が開いた。
 知らないけど知っている看護師が病室に入ってきた。

「優ちゃん、おめでとう。8月の夜の外泊許可出たよ」
「えっ、本当!?」

 看護師の言葉に優は自分でも驚くくらい嬉しかった。心が温かくなる。記憶にはない。でももしかしたら、心には強く残っていたのかな? と少し嬉しくなる。
 変わらないものを見つけられた気がした。これは、後で絶対にノートに書こうと決意する。きっと、希望になる。

 それからしばらくして、緋那が見舞いに来た。ノートに緋那と流星群の約束をしたと書いてあったから、優は迷わずにその事実を伝える。

「そうだ、ひなた。看護師さんが流星群の夜の外出というか外泊許可出たって教えてくれたよ! いつ行く?」
「本当か!? 調べたら今年のピークは8月12日から13日にかけてらしいから、その辺りにどうだ」
「あと1カ月後ぐらいだね! カレンダーにあとで書いてくね」

 優の言葉に緋那も笑う。約束は未来への希望だ。記憶は消えてもきっと心は覚えている。だから、未来の私。流星群楽しんでね。
 緋那と話しながら、優は微かな希望を抱いたのだった。
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天国行きの切符作者:星川宙
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第21話 記憶と心

緋那は優と約束した日、医師に相談する前に彼女の母親に話をつけるのが先だと考えた。病院からの帰り道にもう一ヶ月以上連絡してないメッセージを開く。
 そして、軽い挨拶と次の流星群をいつもの丘に見に行きたいと優と約束したこと。医師に外出の許可を取ってもいいか連絡を入れる。
 きっとすぐには返信はこないだろう。しかし、優と外出すると約束したこと、昔のように優と軽口を叩けたこと。それだけで普段よりも足が軽い。
 夏のジメッとした暑ささえ、いつもより心地よいものに感じた。

「おばさんから返事があったら、日付を決めないとな。あとは、レジャーシートあったか?」

 緋那は自分が浮かれている自覚はあった。鼻歌やスキップをしたい気分だ。不審者になるからやりはしないが。
 優はもしかしたら、何かを隠してるかもしれない。そんな疑惑は変わらない。それでも、根本は変わっていない。
 それが約束を交わした時の懐かしい軽口の応酬でわかった。

 何かが壊れる気がして、軽口をなかなか言えなかった。しかし、久しぶりに懐かしい空気を味わえて、もっと早くから一歩踏み込めばよかったと後悔した。
 でも、大丈夫。約束をしたから。
 緋那にとって、約束は優との未来の希望だった。

 家に着き、荷物を部屋に置きに行く。そしてなんとなくスマホを見る。するとそれはメッセージを受信していた。
 すぐに確認する。優の母親からだった。

 メッセージには、流星群の件は了承したこと。医師には自分の方から交渉して、結果を伝える。優をよろしくと簡潔に書かれていた。
 きっと、まだ緋那と一緒で折り合いがつけられないのだろう。希望を見出すには優の現状は謎が多い。治療方法どころか、異常だけはあるのに原因がわからないのだ。

 メッセージに緋那はお礼を返信する。なんとなくだが、優と流星群を見えたら何かが変わるんじゃないか、そんな予感がした。



◇◇◇◇



 朝が来る。目が覚めた優は周りを見回し、ノートを手に取る。そして、ページを捲る手がある場所で止まった。

「流星群を見る約束......?」

 記憶にはない。でも何故か緋那からこの話をされた時の嬉しさが優の心の中に残っていたのか、その単語に歓喜する。
 それが昨日の私にとってとても大事で大切にしまっていたものなんだなと他人事のように思う。
 流星群を見に行けることは嬉しい。しかし、それを見るのは果たして私なのだろうか? 寝起きの頭がそう優に問いかける。昔の記憶はあるが、最近の記憶が一切ない優はその答えを持ち合わせていない。

 キャビネットに飾ってあるカレンダーを見る。カレンダーには数字にばつ印がされているものと、されていないものがあった。
 きっと、過去の自分が寝る前に翌日の自分に日付がわかるようにやってくれたんだろうなと察した。私ならきっとやる。それは断言できるのだ。

 優はとりあえず、ベッドから起き上がることにした。ノートをキャビネットに置く。そして、ベッドサイドに足を下ろして、床を踏む。何か、違和感を覚えた。
 しかし、優は気のせいだとその感覚を無視する。足に力を入れて立ちあがろうとした。ベッドから腰を浮かせようとした瞬間、足に力が入らずにベッドの下へと座り込む。

「あれ......?」

 思わず声が漏れる。思わず手をグーパーと開く。体全体に力が入らないわけではないようだ。ただ、足に力が入らない、それだけ。
 時計を見る。ノートに書かれていた朝食の時間まではまだある。優は腕の力を使って、なんとかベッドに這うようにして戻った。そして、一息つく。
 額が汗ばんでいることに気付き、腕で拭う。

 体に力が入らないとノートに書いてあったのはこのことかと思った。少し上がった息を整える。息がしづらい気がした。
 最近のことはわからない。でも記憶のある昔はこんなに息がしづらかっただろうか? と疑問に思う。
 優はノートを開いた。手は動いたため、今日の日付を書く。そして、足に力が入らなかったこと。違和感を感じたら、歩くのは一旦中止、ベッドで過ごした方がいい。
 
 そして、ペンを置く。これで未来の私は今の私みたいにベッドから落ちることはないだろう。
 うんと頷き、ノートを閉じる。体が固まっている気がして、伸びをした。

 それから、ベッドから降りずに過ごす。昼食も終わり、ぼんやりとテレビを見ていると、ノックと共に扉が開いた。
 知らないけど知っている看護師が病室に入ってきた。

「優ちゃん、おめでとう。8月の夜の外泊許可出たよ」
「えっ、本当!?」

 看護師の言葉に優は自分でも驚くくらい嬉しかった。心が温かくなる。記憶にはない。でももしかしたら、心には強く残っていたのかな? と少し嬉しくなる。
 変わらないものを見つけられた気がした。これは、後で絶対にノートに書こうと決意する。きっと、希望になる。

 それからしばらくして、緋那が見舞いに来た。ノートに緋那と流星群の約束をしたと書いてあったから、優は迷わずにその事実を伝える。

「そうだ、ひなた。看護師さんが流星群の夜の外出というか外泊許可出たって教えてくれたよ! いつ行く?」
「本当か!? 調べたら今年のピークは8月12日から13日にかけてらしいから、その辺りにどうだ」
「あと1カ月後ぐらいだね! カレンダーにあとで書いてくね」

 優の言葉に緋那も笑う。約束は未来への希望だ。記憶は消えてもきっと心は覚えている。だから、未来の私。流星群楽しんでね。
 緋那と話しながら、優は微かな希望を抱いたのだった。
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天国行きの切符作者:星川宙
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