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第20話 朝のルーティン

朝起きる。自分の部屋ではなく、知らない部屋にいることに最初に驚く。すると近くの机にカメラとノートが置いてあることに気付いた。まずノートに貼ってあるメモを読む。そして、ノートを読む。覚えていないがきっとずっとこれが朝のルーティンになっているんだろうなと優は思う。

 ノートの数ページ目の過去の自分からのメッセージを読む。そこで現状を理解して、次に名前付きの顔写真を確認して、頭に名前と顔を叩き込む。覚えたら、次のページを捲る。そして、あった出来事を片っ端から日付順に追う。そして、覚えていない事柄を覚えていく。

 優は毎日生まれなおしている気分だ。覚えてはいない。それでも書かれている字も内容も、自分なら書くと確信できた。
 読みながら思う。人格は記憶から出来ている。性格はただのスパイスだ。記憶が抜け落ちたら、果たしてそれは自分と言えるのか? と。それでも記録にて記憶を補完する。ツギハギだらけの人格が今の優だ。

「今日も頑張るよ、私」

 ノートを閉じて、胸に抱き締める。そして、きっと優はいつも通りの朝を迎えているだと脳に言い聞かせる。
 自分を洗脳して、この原因不明の記憶の欠落に勝てないかと。今日の優はそう思っていた。

 しばらくすると、看護師が来て、朝食を配膳してくれた。優は空腹に気付き、食事に手をつける。
 薬は原因がわからないからとない。食事を食べ終えると、看護師が食器を回収に来るまで、テレビをつける。
 朝のニュースをやっているのをぼんやりと見つめる。真剣に見てもきっと、明日には覚えていない。そして、必要な記録は自分の周りだけで十分。この病室がすでに優にとっての世界の全てに変わり始めていた。

 朝は特に大きな出来事はなかった。だから、ノートには何も書かない。これは優の生命線だ。くだらない雑談で埋めていいものではない。
 きっと、過去の私もそうしてきたのだろうと思う。昔のことはまだ覚えてる。中学も卒業したことは覚えてる。しかし、最近のことは全く覚えていられない。ノートからそのことが判明した。
 テレビを観ながら、ゆうはまず家族の顔を思い浮かべる。大丈夫、わかる。次に緋那、優花と友達の顔を忘れていないか確認し、覚えていることに安堵する。
 まだ、私は大丈夫。そう思い込むことしかできない。

 気付いたら、昼食の時間になっていた。優は配膳に来た看護師と少し会話をする。朝、覚えてはおらず、ノートを見て必死に覚えた看護師だった。相手は優に違和感を覚えないでくれたようだ。退室する様子を見て、ホッと息を吐く。
 わかっていた。病状の進行を確認するためには本当は真実を伝えないといけないといけないことは。しかし、看護師や医師の口から、家族や緋那の耳に入るのを本能的に優は嫌がった。

 だから、優は全てを偽る。きっとバレたら怒られるだろう。それが優の意思を継いでいる自分なのか、もう何もわからない自分なのかはわからない。
 ただ、少しでも長く自分の人生を生ききる。記憶が、人格が変わったらそれはもう自分の人生と言えないのではないかその恐怖を優は大切な人を思い出すことで、払拭する。

 その時、適当につけていたテレビのワイドショーから流星群という単語が聞こえてきた。優はテレビに吸い込まれるように近づく。夏休みの特集で流星群を取り上げているようだ。見頃はいつだ、どの方角から見えるかとテレビの中の顔も知らない人達が話している。

 流星群。昔はよく、緋那と一緒に自転車を漕いで近くの丘まで星を見に行っていたな。流星群の見頃の日は、家族と一緒にレジャーシートを持って見に行った。そして、感動して中1の夏休みに強引に緋那を誘い、2人で深夜に家を抜け出して見に行ったことも思い出す。
 懐かしいな。優は自然と口元が緩んだ。

 病室の窓からでも星は見える。でも、上に遮るものが何もない、ネオン街から離れたあの丘でまた星を眺めたいと優は思った。そして、その星空を写真に収めたい。
 芝生の上を裸足で走り回って、何も考えずに横になりたい。

 流星群も見たい。でも、それ以上に優は外に出たい。何が起こるかわからないからと、優はほとんどの時間を病室で過ごしていると看護師との雑談で仕入れた情報を思い出す。
 決して、明日に記憶を持って行けなくても外に出れたよっていう事実だけでもきっと未来の私の希望になる。

 そう考えていると、自分の近くに人の気配を感じる。顔を上げると、緋那がいた。いつの間に来たんだろう? と優は驚く。しかし、表に出さない。きっと、私は仮面を被るのが上手くなっている。そう感じた。

「あっ、ひなた、来てたんだ」

 ニコニコと緋那に話しかける。緋那は優とテレビを交互に見て、ボソリと呟いた。

「よく行ってた丘もこの近くだろ? 医者に確認して許可もらったら行くか?」
「えっ......?」

 優は耳を疑った。外に出たい。そう思っていた。でもそれは無理だと決めつけていた。しかし、緋那が優を外に連れ出そうと提案してくれた。言葉にできない喜びを感じる。
 まだ、医師の許可は得られてないけど未来の私いいなとすでに行く気になった。

「約束だからね! 何がなんでも先生からひなたが許可を勝ち取ってよ?」
「待って、そこの交渉も俺なのか!?」
「当たり前でしょ? 言い出しっぺの法則!」

 この出来事は絶対に夜にノートに書こうと優は思った。許可が出たらカレンダーに印を入れる。絶対に忘れたくない約束。しかし、きっと私は忘れるだろうと優は思った。
 今までも忘れたいと思って忘れた記憶はきっとない。優の脳の記憶を司る機能がきっとバグを起こしているのだろう。
 健康体なのに、記憶だけが欠落する。
 その理由がわからないことが、優には1番怖かった。
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天国行きの切符作者:星川宙
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第20話 朝のルーティン

朝起きる。自分の部屋ではなく、知らない部屋にいることに最初に驚く。すると近くの机にカメラとノートが置いてあることに気付いた。まずノートに貼ってあるメモを読む。そして、ノートを読む。覚えていないがきっとずっとこれが朝のルーティンになっているんだろうなと優は思う。

 ノートの数ページ目の過去の自分からのメッセージを読む。そこで現状を理解して、次に名前付きの顔写真を確認して、頭に名前と顔を叩き込む。覚えたら、次のページを捲る。そして、あった出来事を片っ端から日付順に追う。そして、覚えていない事柄を覚えていく。

 優は毎日生まれなおしている気分だ。覚えてはいない。それでも書かれている字も内容も、自分なら書くと確信できた。
 読みながら思う。人格は記憶から出来ている。性格はただのスパイスだ。記憶が抜け落ちたら、果たしてそれは自分と言えるのか? と。それでも記録にて記憶を補完する。ツギハギだらけの人格が今の優だ。

「今日も頑張るよ、私」

 ノートを閉じて、胸に抱き締める。そして、きっと優はいつも通りの朝を迎えているだと脳に言い聞かせる。
 自分を洗脳して、この原因不明の記憶の欠落に勝てないかと。今日の優はそう思っていた。

 しばらくすると、看護師が来て、朝食を配膳してくれた。優は空腹に気付き、食事に手をつける。
 薬は原因がわからないからとない。食事を食べ終えると、看護師が食器を回収に来るまで、テレビをつける。
 朝のニュースをやっているのをぼんやりと見つめる。真剣に見てもきっと、明日には覚えていない。そして、必要な記録は自分の周りだけで十分。この病室がすでに優にとっての世界の全てに変わり始めていた。

 朝は特に大きな出来事はなかった。だから、ノートには何も書かない。これは優の生命線だ。くだらない雑談で埋めていいものではない。
 きっと、過去の私もそうしてきたのだろうと思う。昔のことはまだ覚えてる。中学も卒業したことは覚えてる。しかし、最近のことは全く覚えていられない。ノートからそのことが判明した。
 テレビを観ながら、ゆうはまず家族の顔を思い浮かべる。大丈夫、わかる。次に緋那、優花と友達の顔を忘れていないか確認し、覚えていることに安堵する。
 まだ、私は大丈夫。そう思い込むことしかできない。

 気付いたら、昼食の時間になっていた。優は配膳に来た看護師と少し会話をする。朝、覚えてはおらず、ノートを見て必死に覚えた看護師だった。相手は優に違和感を覚えないでくれたようだ。退室する様子を見て、ホッと息を吐く。
 わかっていた。病状の進行を確認するためには本当は真実を伝えないといけないといけないことは。しかし、看護師や医師の口から、家族や緋那の耳に入るのを本能的に優は嫌がった。

 だから、優は全てを偽る。きっとバレたら怒られるだろう。それが優の意思を継いでいる自分なのか、もう何もわからない自分なのかはわからない。
 ただ、少しでも長く自分の人生を生ききる。記憶が、人格が変わったらそれはもう自分の人生と言えないのではないかその恐怖を優は大切な人を思い出すことで、払拭する。

 その時、適当につけていたテレビのワイドショーから流星群という単語が聞こえてきた。優はテレビに吸い込まれるように近づく。夏休みの特集で流星群を取り上げているようだ。見頃はいつだ、どの方角から見えるかとテレビの中の顔も知らない人達が話している。

 流星群。昔はよく、緋那と一緒に自転車を漕いで近くの丘まで星を見に行っていたな。流星群の見頃の日は、家族と一緒にレジャーシートを持って見に行った。そして、感動して中1の夏休みに強引に緋那を誘い、2人で深夜に家を抜け出して見に行ったことも思い出す。
 懐かしいな。優は自然と口元が緩んだ。

 病室の窓からでも星は見える。でも、上に遮るものが何もない、ネオン街から離れたあの丘でまた星を眺めたいと優は思った。そして、その星空を写真に収めたい。
 芝生の上を裸足で走り回って、何も考えずに横になりたい。

 流星群も見たい。でも、それ以上に優は外に出たい。何が起こるかわからないからと、優はほとんどの時間を病室で過ごしていると看護師との雑談で仕入れた情報を思い出す。
 決して、明日に記憶を持って行けなくても外に出れたよっていう事実だけでもきっと未来の私の希望になる。

 そう考えていると、自分の近くに人の気配を感じる。顔を上げると、緋那がいた。いつの間に来たんだろう? と優は驚く。しかし、表に出さない。きっと、私は仮面を被るのが上手くなっている。そう感じた。

「あっ、ひなた、来てたんだ」

 ニコニコと緋那に話しかける。緋那は優とテレビを交互に見て、ボソリと呟いた。

「よく行ってた丘もこの近くだろ? 医者に確認して許可もらったら行くか?」
「えっ......?」

 優は耳を疑った。外に出たい。そう思っていた。でもそれは無理だと決めつけていた。しかし、緋那が優を外に連れ出そうと提案してくれた。言葉にできない喜びを感じる。
 まだ、医師の許可は得られてないけど未来の私いいなとすでに行く気になった。

「約束だからね! 何がなんでも先生からひなたが許可を勝ち取ってよ?」
「待って、そこの交渉も俺なのか!?」
「当たり前でしょ? 言い出しっぺの法則!」

 この出来事は絶対に夜にノートに書こうと優は思った。許可が出たらカレンダーに印を入れる。絶対に忘れたくない約束。しかし、きっと私は忘れるだろうと優は思った。
 今までも忘れたいと思って忘れた記憶はきっとない。優の脳の記憶を司る機能がきっとバグを起こしているのだろう。
 健康体なのに、記憶だけが欠落する。
 その理由がわからないことが、優には1番怖かった。
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天国行きの切符作者:星川宙
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