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第47話 急変

 昔を懐古しながら緋那は、帰路についていた。あの件以来、優は用事がなくても普通に暇なときに緋那の家に突撃を仕掛けてくるようになり、気付くと優が隣にいるのは学校だけでなく休日でも当たり前になった。夏休みも家族旅行などがないと大体突撃してきていたくらいだ。
 懐かしいなと、緋那は自然と頬が緩む。あのときはその日常が当たり前になることも、今は毎日優のお見舞いに行くことになることも想像つかなかったなと少しおかしくなる。
 
 現実逃避だ。それは分かっている。毎日優のお見舞いに行ってるからこそ、緩やかに、時に早く優の状況が悪化していることは嫌でも理解させられる。
 過去を思い出すことで、緋那は優本人が忘れてしまった記憶を留めようと必死だ。
 それでも、無情にも優の記憶は欠落するし、体も弱っている。
 何もできない自分に歯がゆさを感じる日々が続く、それでも緋那は優のお見舞いをやめる気にはならなかった。

 
◇◇◇◇


 2月20日。
 いつも通り、緋那は病院に来て、優が入院している病棟のフロアまで来た。
 まず最初に感じた違和感が、ナースステーションにいる看護師の数が明らかに少ない。
 そして、慌ただしくバタバタと医師や看護師が小走りに動き回っている。嫌な予感がした。最初は急変した患者でもいるのかなと思った。しかし明らかに行き来している人たちの方向が優の病室がある方向だった。

「......」

 優に何かあったのかもしれない。思わず立ち止まってしまった緋那の隣を見慣れた2人が足早に通り過ぎた。
 優の両親だ。

 緋那は背中を嫌な汗が伝うのを感じた。間違いなく、騒ぎの中心は優だ。そして、両親まで呼び出されている。
 優に何かあったのは確実だ。体が震えそうになるのをなんとか抑える。指先が冷えてきた気すらしてしまう。
 とりあえず、今は病室に行かない方がいい。働かない頭でなんとかそれだけ判断できる。
 
 緋那は、優の病室に向けていた足を、以前優の状況を看護師に聞いた簡易休憩所のような場所に向かう。幸いなことに緋那以外誰もいない。
 迷わずに、一番隅の2面を壁に囲まれている椅子に座る。前にある机に肘をつき、手を組むとその上に額を乗せた。

「......一体、何があったんだよ」

 緋那は小さくつぶやく。不安はある。すぐにでも何があったのか確認したい。でも、両親までもが呼び出されている状態で、実質部外者の緋那が病室に押しかけるわけにもいかない。
 面会時間のギリギリまでは病院にいるつもりだが、今日は面会できるのか不安になる。

 きっと、優の母もそんな余裕はないとは思いながらも緋那は顔を上げるとスマホを取り出す。
 そして優の母にメッセージを送る。

 今、病院にいること、落ち着いたらでいいので連絡が欲しいことを入力する。
 そして少し考えてから、追加することにした。優は大丈夫ですか? 面会時間が終わるまでは病院にいるので手が必要なら遠慮なく連絡ください、と。
 彼女の母親がスマホを見る余裕は肉体的にも精神的にもないかもしれない。それでも、緋那はメッセージを送りたかった。

 これで、優の母に負担を与えていないか不安にはなるも、自分が病院にいることは伝えたかった。そうしないと、また以前、優の記憶が欠落していることが判明したとき同様に、緋那に隠されるのではないかと不安なのだ。
 優が大変かもしれないのに、俺は自分勝手だなと嘲笑しながらメッセージを送る。
 
 そしてスマホがマナーモードになっているのを確認してからポケットにしまうと先程と同様に組んだ手の上に額を預けた。時々、時間を確認する以外は何もやる気が起きなかった。
 耳には自分の息づかいと少し離れた場所を歩く人の足音と微かな話し声しか聞こえない。

 どれくらい、そうしていたのだろうか。不意にポケットが振動した気がした。緋那は跳ね起きて確認する。
 スマホには優の母親からメッセージが入っていた。

 今日の面会は禁止になったこと、数日は面会は家族以外控えるように医師から指示があったことが簡潔に書かれていた。
 優の状態に関しては、また面会が許可された時に伝えると濁されていた。

 それだけで、状態がよくないんだとすぐに察することができてしまった。
 緋那はしばらくスマホを持ったまま動くことができなかった。
 見ないようにしていた、記憶以外にも優に現れていた症状が悪化した可能性がある、その事実は記憶以上に緋那へとダメージを与えた。
 
 記憶はまた繋いでいけばいい。だから、悲しいが緋那さえ諦めなければなんとかなると思っていたのだ。
 
「......なんで、優ばかり」

 緋那は思わずつぶやき、自分の発言に驚いた。そして、その考えを打ち消す。
 優はどんな状況でも真っ正面から戦っていた。近くで見てきた緋那がそう思うのは優への冒涜だ。
 緋那はスマホをポケットに入れ直してから、両頬を叩いた。

 パンッ。

 と、静かな院内に少しだけ響いた。
 しまったと緋那は周りを見渡すが、近くに人はおらず、安堵する。

「......帰るか」

 これ以上、病院にいても自分は何もできない。だから緋那は帰路につくことにした。
 少しでも優の状態がよくなることを祈ることしかできない歯がゆさを感じる。
 
 優の母親から明日から面会が可能になったと連絡が来たのは、1週間後の2月27日だった。
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第48話 真っ白な優
天国行きの切符作者:星川宙
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第47話 急変

 昔を懐古しながら緋那は、帰路についていた。あの件以来、優は用事がなくても普通に暇なときに緋那の家に突撃を仕掛けてくるようになり、気付くと優が隣にいるのは学校だけでなく休日でも当たり前になった。夏休みも家族旅行などがないと大体突撃してきていたくらいだ。
 懐かしいなと、緋那は自然と頬が緩む。あのときはその日常が当たり前になることも、今は毎日優のお見舞いに行くことになることも想像つかなかったなと少しおかしくなる。
 
 現実逃避だ。それは分かっている。毎日優のお見舞いに行ってるからこそ、緩やかに、時に早く優の状況が悪化していることは嫌でも理解させられる。
 過去を思い出すことで、緋那は優本人が忘れてしまった記憶を留めようと必死だ。
 それでも、無情にも優の記憶は欠落するし、体も弱っている。
 何もできない自分に歯がゆさを感じる日々が続く、それでも緋那は優のお見舞いをやめる気にはならなかった。

 
◇◇◇◇


 2月20日。
 いつも通り、緋那は病院に来て、優が入院している病棟のフロアまで来た。
 まず最初に感じた違和感が、ナースステーションにいる看護師の数が明らかに少ない。
 そして、慌ただしくバタバタと医師や看護師が小走りに動き回っている。嫌な予感がした。最初は急変した患者でもいるのかなと思った。しかし明らかに行き来している人たちの方向が優の病室がある方向だった。

「......」

 優に何かあったのかもしれない。思わず立ち止まってしまった緋那の隣を見慣れた2人が足早に通り過ぎた。
 優の両親だ。

 緋那は背中を嫌な汗が伝うのを感じた。間違いなく、騒ぎの中心は優だ。そして、両親まで呼び出されている。
 優に何かあったのは確実だ。体が震えそうになるのをなんとか抑える。指先が冷えてきた気すらしてしまう。
 とりあえず、今は病室に行かない方がいい。働かない頭でなんとかそれだけ判断できる。
 
 緋那は、優の病室に向けていた足を、以前優の状況を看護師に聞いた簡易休憩所のような場所に向かう。幸いなことに緋那以外誰もいない。
 迷わずに、一番隅の2面を壁に囲まれている椅子に座る。前にある机に肘をつき、手を組むとその上に額を乗せた。

「......一体、何があったんだよ」

 緋那は小さくつぶやく。不安はある。すぐにでも何があったのか確認したい。でも、両親までもが呼び出されている状態で、実質部外者の緋那が病室に押しかけるわけにもいかない。
 面会時間のギリギリまでは病院にいるつもりだが、今日は面会できるのか不安になる。

 きっと、優の母もそんな余裕はないとは思いながらも緋那は顔を上げるとスマホを取り出す。
 そして優の母にメッセージを送る。

 今、病院にいること、落ち着いたらでいいので連絡が欲しいことを入力する。
 そして少し考えてから、追加することにした。優は大丈夫ですか? 面会時間が終わるまでは病院にいるので手が必要なら遠慮なく連絡ください、と。
 彼女の母親がスマホを見る余裕は肉体的にも精神的にもないかもしれない。それでも、緋那はメッセージを送りたかった。

 これで、優の母に負担を与えていないか不安にはなるも、自分が病院にいることは伝えたかった。そうしないと、また以前、優の記憶が欠落していることが判明したとき同様に、緋那に隠されるのではないかと不安なのだ。
 優が大変かもしれないのに、俺は自分勝手だなと嘲笑しながらメッセージを送る。
 
 そしてスマホがマナーモードになっているのを確認してからポケットにしまうと先程と同様に組んだ手の上に額を預けた。時々、時間を確認する以外は何もやる気が起きなかった。
 耳には自分の息づかいと少し離れた場所を歩く人の足音と微かな話し声しか聞こえない。

 どれくらい、そうしていたのだろうか。不意にポケットが振動した気がした。緋那は跳ね起きて確認する。
 スマホには優の母親からメッセージが入っていた。

 今日の面会は禁止になったこと、数日は面会は家族以外控えるように医師から指示があったことが簡潔に書かれていた。
 優の状態に関しては、また面会が許可された時に伝えると濁されていた。

 それだけで、状態がよくないんだとすぐに察することができてしまった。
 緋那はしばらくスマホを持ったまま動くことができなかった。
 見ないようにしていた、記憶以外にも優に現れていた症状が悪化した可能性がある、その事実は記憶以上に緋那へとダメージを与えた。
 
 記憶はまた繋いでいけばいい。だから、悲しいが緋那さえ諦めなければなんとかなると思っていたのだ。
 
「......なんで、優ばかり」

 緋那は思わずつぶやき、自分の発言に驚いた。そして、その考えを打ち消す。
 優はどんな状況でも真っ正面から戦っていた。近くで見てきた緋那がそう思うのは優への冒涜だ。
 緋那はスマホをポケットに入れ直してから、両頬を叩いた。

 パンッ。

 と、静かな院内に少しだけ響いた。
 しまったと緋那は周りを見渡すが、近くに人はおらず、安堵する。

「......帰るか」

 これ以上、病院にいても自分は何もできない。だから緋那は帰路につくことにした。
 少しでも優の状態がよくなることを祈ることしかできない歯がゆさを感じる。
 
 優の母親から明日から面会が可能になったと連絡が来たのは、1週間後の2月27日だった。
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次の話第48話 真っ白な優
天国行きの切符作者:星川宙
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