第46話 冒険のあとは
迷子になった2人はまず体力を回復するのが先決だとおとなしく並んで座っていた。
「それにしても、どうしようね」
「近くに交番とかあればいいけど、ぱっと見なさそうだもんな」
「うん、髪飾りをこれで見失ってたら、発狂した自信あるよ」
「そしたら、俺がさらに発狂するわ」
顔を見合わせて笑う。緋那は迷子の原因は優だが、離ればなれにならなくて本当によかったと安堵する。
1人で知らない場所に来ていたらもっと冷静になれなかっただろう。泣いた自信すらある。
知らない場所、周りは交通量の多い広い道路がある。まだ人通りの少ない場所じゃなくてよかったと思う。そこで、緋那は優が以前迷子になりかけたことを思い出した。
「お前、前に迷子になりかけたときはどうしたんだ?」
「ん? 近くの公園で遊んでたって伝えたら、お巡りさんが案内してくれたよ?」
「......そうだった、運がよかったんだったな」
もしかして、なにか糸口があるのではと期待していた緋那は落胆した。
「まぁ、なんとかなるよ、その精神大事!」
優は誰のせいでこうなったと言いたくなるようないい笑顔で言い放つ。
まあ、下手に落ち込まれるよりはいいのかと緋那は自分を納得させる。
「お前のそのポジティブさがうらやましいよ」
「えへへ」
「嬉しそうにしているとこ悪いが、褒めてないからな?」
「なんだと......?」
徐々に息も整い、体力も回復してきた。そうすると、今まで回復に割いていた気持ちが、また迷子の不安が大部分を占めてくる。優の軽口に救われながらも、家に帰れなかったらどうしようと体が震えてくる。
「なんとかなるよ、ひなた。だから大丈夫」
膝の上で震える緋那の手の上に優が自分の手を重ねる。そして安心させるかのように優しい言葉で語りかけてくる。
なんだか、優に慰められる形になり緋那は少し悔しくなった。
「別に、心配してねーし」
つい、強がりを口にしてしまう。優は笑ってそれを流す。その様子が、数ヶ月だけとはいえ、自分より長く生きてるんだよなという緋那があまり認めたくない事実に真実味を持たせてきて、謎の敗北感を覚えてしまう。
「でも、ひなたと一緒にいるの楽しいな。何で今まで、休日は遠慮してたんだろう」
「いや、疲れるからそのまま遠慮していてくれよ」
優の発言に緋那はぎょっとした。今まで遠慮していたということは、今日みたいに突然、特攻を仕掛けてくる可能性が今後あるのかと思うと、迷子とは別の理由でぞっとした。
「で、どうしよう。車が多い割には人が通らないよな」
「確かに! 人が通れば聞けるのに!」
「お前のそのコミュ力が怖いわ。......知らない大人にはついていくなよ、な?」
「何言ってるの、ひなた」
ケラケラ笑う優にこいつ、本当に緊張感ないし誘拐されかねないぞと一気に不安になった。
「あれ? 優ちゃんに、望月君? こんなところ座って何しているの?」
2人でお互いに向き合って話していると突然女性の声が降ってきた。
慌てて顔を上げると、そこには隣のクラスの担任の教師がいた。
「あっ、リーちゃん先生」
「こら、優! 岬先生、ごめん」
「いいよ、優ちゃんだし。それより2人ともどうしたの?」
優しいと人気の若い女教師――岬璃子が困ったように微笑んでいた。
「カラスに誕生日プレゼント盗られて、追いかけたら迷子になっちゃって」
璃子に優は素直に現状を伝える。
「迷子になっちゃったのか。ここから優ちゃんの家までは遠いよね? 送っていこうか?」
「いいの? 先生も予定あるんじゃ......」
璃子の申し出は嬉しいが、緋那はつい遠慮をしてしまう。その様子を察したのか、璃子は安心させるようにしゃがみ込むと2人と視線の高さを同じにした。
「可愛い教え子......っていっていいのかな? 達の一大事だもの。予定よりもそっちの方が重要だよ」
「流石、りーちゃん先生!」
「あら、優ちゃん。おだてても何も出ないわよ」
璃子は優の頭を撫でる。そして思い出したかのように、「あっ」と声を上げる。
「そういえば、優ちゃん。今日誕生日だったよね、おめでとう」
「ありがと!」
「どうせなら、近くのコンビニでなにかお祝いでも買おうか?」
「いいの? りーちゃん先生、神!」
優はもう全力疾走の疲れがとれたのか立ち上がるとキャッキャと飛び跳ねる。その元気さにまだダメージの残っている緋那はすごいなと優を座った状態で見ることしかできない。
「望月君は大丈夫?」
なかなか立ち上がろうとしない緋那を璃子は心配そうに見る。
「大丈夫。だけどもう少し休憩したい」
「そう、何か飲み物買ってくるからここで待っててね」
「早く行こう!」
顔を上げると、ちょうど通りを挟んだ反対側にコンビニがあった。優はそれに気付いたから元気になったのかと緋那は遅れて納得がいった。
そして元気な優が先行して璃子とコンビニに行くために、横断歩道まで歩いて行った。
――元気だな。
緋那はその様子を呆れたように眺めて、塀に背中を預ける。隅とはいえ道に座っているのは通行人の邪魔になるよなとぼんやりと考える。
優といっしょにいるのは疲れる。それでも楽しいのも事実だなと思ってしまう。優には絶対に言いたくないが、緋那としても疲れたが冒険をしたようで少しだけ、楽しかったのだ。
そんなことを考えていると、優と璃子が戻ってきた。
「ひなたー、いけるか?」
「ああ、何でお前はそんなに元気なんだよ」
大声で手をぶんぶん振る優に緋那は、目を細めた。そして璃子から手渡されたスポーツドリンクを飲む。
「先生、ありがとう」
「いいよ、大冒険だったみたいね」
「......そうかも」
そして、璃子の道案内で公園まで戻ってこれた。公園には優の両親だけでなく、緋那の母親もいた。璃子に連れられた緋那達を見つけた母達は駆け寄ってきた。
心配をかけたことを申し訳なく感じる。
「ふふ、よかったね。じゃ、2人ともまた明日ね」
その様子を見て笑うと璃子はそのまま、公園を出て行った。
緋那と優は公園でしばらく両親の説教を甘んじて受けた。
そして、緋那の母は家へと戻り、緋那は優達といっしょに優の誕生日会へと向かった。
予定よりもかなり遅れてしまった誕生パーティは盛大に開催されたのだった。