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第45話 カラスを追いかけて

 優の独壇場のお話大会は予想外の形で幕を閉じた。
 優がもう一度プレゼントの髪飾りを外して手に取ったタイミングで、悲劇は起きた。

 キラキラと光っていた髪飾りに惹かれたのか、カラスが優の手に向かって急降下してきたのだ。

「えっ......?」

 そして、一瞬の隙をついてカラスが優の手から髪飾りを強奪した。
 緋那も優も、あまりの出来事で呆気に取られてしまいすぐには動けない。カラスは1度地面に飛び降りると一度髪飾りを地面に置き、咥え直す。
 そして、空に飛び立とうとした瞬間に、まず優が正気に戻った。

「ちょっと、返して!」

 大声で叫ぶが、カラスに人の言葉は通じない。そのまま羽を広げて飛び立つ。瞬間に、優もカラスを追いかけて走り出した。

「おい、優、待てって!」

 呆気にとられた緋那は優よりも出遅れる。すぐに優を追いかけて走った。優はカラスしか見ていない。すぐに優に並ぶ形で緋那は走り出すと優の代わりに周りの確認をする。危険な道路が先にないか、自転車が来ていないかなどを確認する。現在は歩道が整備されている道を一目散に走っているが、歩道を自転車が走らない保証はない。
 誕生日に優を怪我させるわけにはいかない。

 緋那は優の第3の目になることを自分から選んだ。優はきっとカラスから目を離さず、走り続けるだろう。それなら緋那が周囲を観察すれば事足りる。
 緋那は視覚と聴覚を研ぎ澄ませるが、自分と優の息遣いが大半を占めている。

「私のもらった髪飾り!! 返して、ドロボー」

 カラスは優の声など聞こえていない。気にせずに少し前を飛んでいる。
 緋那は周りを気にしながらも、不安になる。カラスを追いかける優を守りながら走ることに必死で自分が今どこを走っているのか分からないことに気付いたからだ。
 どうしようと思いながらも、今は優についていくことしかできない。

 今はとにかくカラスが優の髪飾りを落とすのを期待して追いかけるしかない。走っているだけとは思えない疲れを緋那は気付かないフリをした。今はまだ自分達が迷子になっているという事実を認定したくなかった。
 もしかしたら、知ってる場所に出るかもしれないことを祈りながら、緋那は上を見上げる優の隣を上以外を見ながら走る。
 
 もはや、車のエンジン音に混じってお互いの息づかいが近く感じる。
 どれぐらい走っただろうか。7、8歳児の体ではそろそろ限界が来そうだと緋那は脇腹を押さえながら思った。

 体育の授業よりも走った気がする。それでも、今は走る価値がある。緋那もここまで来たのだから、確実に髪飾りを取り返したくて仕方がない。
 誕生日プレゼントだと言うこともあるが、もうここまで来ると意地もある。

「ひっ、ひ......な、た。たい......へん! この先、か......わ!」

 息を切らしながら優は進行方向のカラス越しに見えた川を指さしていた。

「そ、れ......は、まず......い、な」

 緋那も前を見ると川はあるものの、近くに橋は見つけられない。

「も......お! カラスの、ば......か!」

 優は息も絶え絶えに叫ぶ。するとその叫びに反応したかのようにカラスが向きを変えて、緋那達の方に向かってきた。

「えっ?」

 優と緋那の声がハモった。2人して立ち止まる。立ち止まると汗が噴き出すように出てきた。立っているのも辛い。それでも優はもちろん、緋那もカラスから目をそらせない。
 ゼーゼーとお互いに言いながら、カラスの動向を伺った。

 これ以上走るのは無理だぞと緋那は内心焦る。走り続けていたら違ったかもしれない。でも止まってしまったらもう無理だ。

 カラスは優達の上を旋回するように飛ぶと、「カー」と鳴いた。そのタイミングで嘴に咥えていた優の髪飾りを落とす。
 優は残りの力を振り絞った様子で飛ぶように落ちてきた髪飾りをキャッチする。

「――っ。セーフ」
「おい、大丈夫か、優」

 緋那もなんとか体に鞭を打ち座り込んでいる優に近付く。
 優は肩で息をしながらも嬉しそうに、えへへと表情が緩んでいる。
 
 その顔を見て緋那も安心して体の力が抜ける。二人して歩道に座り込む。疲れたけれど、すごい達成感がある。2人して立ち上がれないが顔を見合わせて笑う。

「取り返せて、よかったな」
「うん!」

 気付くと傍迷惑な泥棒カラスはいなくなっていた。見失う前に返してくれてよかったというべきか、緋那は迷う。

「なんか、軽い冒険みたいだったね!」
「......いや、俺的にはマラソンだよ」

 まだ呼吸は整っていないが優は満足そうだ。髪飾りを取り戻してハイになっているなと緋那は呆れる。
 優は大事そうに髪飾りを撫でるとポケットにしまった。

「つけないのか?」
「これでまた盗られたら、泣くよ?」
「それもそうか」

 邪魔にならないように歩道の隅に移動して2人は座って体力を戻す。

「それにしても、ここどこなんだろうね? 家の近くに川ってあったっけ?」
「わかんない」

 二人して顔を見合わせる。お互いが迷子になったことを悟った。

「どうしよう、ママ探してるよ」
「だよな、どうしよう」

 二人して途方に暮れる。それでも一人ではなく二人だったからか、恐怖も半分こできている気がする。緋那は優を一人で行かせなくてよかったと自分の判断を誇った。

「なんか、休みの日にひなたと一緒にいるって変な感じ。でも楽しかった」
「俺は疲れたよ......」

 緋那の感想に優は笑った。迷子になり不安はある。それでも優と一緒だからまだ緋那はいつも通りの軽口をたたける余裕が残っていた。
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天国行きの切符作者:星川宙
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第45話 カラスを追いかけて

 優の独壇場のお話大会は予想外の形で幕を閉じた。
 優がもう一度プレゼントの髪飾りを外して手に取ったタイミングで、悲劇は起きた。

 キラキラと光っていた髪飾りに惹かれたのか、カラスが優の手に向かって急降下してきたのだ。

「えっ......?」

 そして、一瞬の隙をついてカラスが優の手から髪飾りを強奪した。
 緋那も優も、あまりの出来事で呆気に取られてしまいすぐには動けない。カラスは1度地面に飛び降りると一度髪飾りを地面に置き、咥え直す。
 そして、空に飛び立とうとした瞬間に、まず優が正気に戻った。

「ちょっと、返して!」

 大声で叫ぶが、カラスに人の言葉は通じない。そのまま羽を広げて飛び立つ。瞬間に、優もカラスを追いかけて走り出した。

「おい、優、待てって!」

 呆気にとられた緋那は優よりも出遅れる。すぐに優を追いかけて走った。優はカラスしか見ていない。すぐに優に並ぶ形で緋那は走り出すと優の代わりに周りの確認をする。危険な道路が先にないか、自転車が来ていないかなどを確認する。現在は歩道が整備されている道を一目散に走っているが、歩道を自転車が走らない保証はない。
 誕生日に優を怪我させるわけにはいかない。

 緋那は優の第3の目になることを自分から選んだ。優はきっとカラスから目を離さず、走り続けるだろう。それなら緋那が周囲を観察すれば事足りる。
 緋那は視覚と聴覚を研ぎ澄ませるが、自分と優の息遣いが大半を占めている。

「私のもらった髪飾り!! 返して、ドロボー」

 カラスは優の声など聞こえていない。気にせずに少し前を飛んでいる。
 緋那は周りを気にしながらも、不安になる。カラスを追いかける優を守りながら走ることに必死で自分が今どこを走っているのか分からないことに気付いたからだ。
 どうしようと思いながらも、今は優についていくことしかできない。

 今はとにかくカラスが優の髪飾りを落とすのを期待して追いかけるしかない。走っているだけとは思えない疲れを緋那は気付かないフリをした。今はまだ自分達が迷子になっているという事実を認定したくなかった。
 もしかしたら、知ってる場所に出るかもしれないことを祈りながら、緋那は上を見上げる優の隣を上以外を見ながら走る。
 
 もはや、車のエンジン音に混じってお互いの息づかいが近く感じる。
 どれぐらい走っただろうか。7、8歳児の体ではそろそろ限界が来そうだと緋那は脇腹を押さえながら思った。

 体育の授業よりも走った気がする。それでも、今は走る価値がある。緋那もここまで来たのだから、確実に髪飾りを取り返したくて仕方がない。
 誕生日プレゼントだと言うこともあるが、もうここまで来ると意地もある。

「ひっ、ひ......な、た。たい......へん! この先、か......わ!」

 息を切らしながら優は進行方向のカラス越しに見えた川を指さしていた。

「そ、れ......は、まず......い、な」

 緋那も前を見ると川はあるものの、近くに橋は見つけられない。

「も......お! カラスの、ば......か!」

 優は息も絶え絶えに叫ぶ。するとその叫びに反応したかのようにカラスが向きを変えて、緋那達の方に向かってきた。

「えっ?」

 優と緋那の声がハモった。2人して立ち止まる。立ち止まると汗が噴き出すように出てきた。立っているのも辛い。それでも優はもちろん、緋那もカラスから目をそらせない。
 ゼーゼーとお互いに言いながら、カラスの動向を伺った。

 これ以上走るのは無理だぞと緋那は内心焦る。走り続けていたら違ったかもしれない。でも止まってしまったらもう無理だ。

 カラスは優達の上を旋回するように飛ぶと、「カー」と鳴いた。そのタイミングで嘴に咥えていた優の髪飾りを落とす。
 優は残りの力を振り絞った様子で飛ぶように落ちてきた髪飾りをキャッチする。

「――っ。セーフ」
「おい、大丈夫か、優」

 緋那もなんとか体に鞭を打ち座り込んでいる優に近付く。
 優は肩で息をしながらも嬉しそうに、えへへと表情が緩んでいる。
 
 その顔を見て緋那も安心して体の力が抜ける。二人して歩道に座り込む。疲れたけれど、すごい達成感がある。2人して立ち上がれないが顔を見合わせて笑う。

「取り返せて、よかったな」
「うん!」

 気付くと傍迷惑な泥棒カラスはいなくなっていた。見失う前に返してくれてよかったというべきか、緋那は迷う。

「なんか、軽い冒険みたいだったね!」
「......いや、俺的にはマラソンだよ」

 まだ呼吸は整っていないが優は満足そうだ。髪飾りを取り戻してハイになっているなと緋那は呆れる。
 優は大事そうに髪飾りを撫でるとポケットにしまった。

「つけないのか?」
「これでまた盗られたら、泣くよ?」
「それもそうか」

 邪魔にならないように歩道の隅に移動して2人は座って体力を戻す。

「それにしても、ここどこなんだろうね? 家の近くに川ってあったっけ?」
「わかんない」

 二人して顔を見合わせる。お互いが迷子になったことを悟った。

「どうしよう、ママ探してるよ」
「だよな、どうしよう」

 二人して途方に暮れる。それでも一人ではなく二人だったからか、恐怖も半分こできている気がする。緋那は優を一人で行かせなくてよかったと自分の判断を誇った。

「なんか、休みの日にひなたと一緒にいるって変な感じ。でも楽しかった」
「俺は疲れたよ......」

 緋那の感想に優は笑った。迷子になり不安はある。それでも優と一緒だからまだ緋那はいつも通りの軽口をたたける余裕が残っていた。
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天国行きの切符作者:星川宙
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