第44話 髪飾り
緋那は母とともに玄関を出る。そこには、すでに待ちくたびれた様子の優がいた。すぐに緋那の母に気付くと顔を輝かせた。そして、緋那を無視して緋那の母に話しかける。
「ひなたのおばさん、久しぶり!」
「久しぶり、優ちゃん。お誕生日おめでとう」
「ありがとう! えへへ」
誕生日をお祝いされて優の顔は普段以上に締まりがない。ニマニマとしている。ただでさえ間抜け面がさらに間抜けになっているなと緋那は思ったが、口には出さなかった。
流石に1対2は分が悪いと分かっていたからだ。
「優ちゃん、これ緋那以外の望月家からのプレゼントよ。気に入ってくれるといいんだけど」
「待って、俺以外ってなんなんだ!」
緋那は思わず、母にかみつくもスルーされる。母が持ってきていたプレゼントを手渡すと、わかりやすいくらいに優の顔が輝いた。
両手で大事そうに抱えると飛び跳ねて喜んでいる。
「で? ひなたのプレゼントは?」
「家で誕生日会やるんだろ、その時に渡す。誕生会で俺だけプレゼント先に渡したから、ないってなるの嫌だし」
「うーん。それもそっか!」
優は納得したのか、太陽のように笑う。
「よし! じゃぁ、ひなた。時間を潰すために公園行くよ!」
優はもらったプレゼントを抱えたまま、公園に向かって歩き出す。母にそれを微笑ましそうにされながら、見送られた。
緋那は今日も振り回されるんだなと諦めて優の後を追いかけた。
早歩きで、すぐに優に追いつく。
「おい、プレゼント一旦家に置いてこなくていいのかよ」
「えー? 絶賛準備中の家には入れないって。ひなたは自分の誕生日の準備しているって分かってる家に入れるの? 私は流石に無理だよ」
おかしそうにクスクスと声を出して笑う。
「というか、ひなた! 何か忘れてない? 私に言うことあるでしょう!」
「は?......あー」
いきなり話を変えられ、何事かと思ったが優の言いたいことはすぐに察せた。緋那は少し照れて、視線を優から動かす。
「えっと、まぁ、その、誕生日おめでとう」
「うん! ありがとう!」
緋那の母に祝われたときと同じかそれ以上に輝かしい笑顔を緋那に向けた。あまりのまぶしさに緋那は目をつぶりたくなる。しかし、視界の隅に優を入れておかないと迷子になったりと大変なことになることを学んでいる緋那は優から完全に目を離すことは出来ない。
ただ、まぶしさに少しだけ目を細めた。
「もう! 会ったらすぐに言ってくれないから、言葉でのお祝いしてくれないと思った」
「俺はそこまで薄情じゃないぞ」
「うん、知ってる!」
優はニコニコと公園に向かいスキップをしている。ご機嫌な様子の優に緋那の毒気は少し抜かれる。しかしすぐに原因はいつも優にあることを思い出す。
「何時ぐらいまで時間を潰すつもりだ?」
「30分以内には終わるって! 公園に迎えに来てくれるって!」
「そうか」
公園に着くと、優は遊具ではなくベンチへと駆けていく。そして、緋那の家族からの誕生日プレゼントを座りながら開け始める。
「ここで開けるのか?」
「うん! おばさんが髪飾りって言ってたからつけようと思って!」
鼻歌を奏でながら優は綺麗に包装された袋を開けていく。緋那は家まで待てないのかと呆れながら優へとゆっくりと近付く。危険もないしわざわざ早歩きで近付く必要もないだろう。
緋那がベンチに到着するとすでに優はプレゼントを開け終えていた。
かわいらしい黄色を基調としたリボンにキラキラと光る石が散りばめられている。優は周りをキョロキョロと見回す。そして、緋那と目が合う。
「ひなた! 似合ってる?」
嬉しそうに自分の髪に髪飾りを当てて優ははしゃいでいた。
「はいはい、似合ってる、似合ってる」
真っ正面から言うと照れくさいため、緋那は横に顔を背けながら投げやりに言う。
確かに、太陽みたいな優にその髪飾りは似合っていた。多分母と姉が相談して買ったであろう事も想像がつく。
しかし、素直に褒めることは緋那のプライドが嫌がった。
「ふふ、恥ずかしがってるね、ひなた!」
「べっ、別に恥ずかしがってないよ!」
少し顔に熱を感じるが、緋那は断じて恥ずかしがっていない。揶揄う態勢に入った優に緋那は少し警戒する。
「あっ」
しかしすぐに何かに気付いた優は緋那を揶揄う姿勢を解いた。
「公衆トイレって鏡あるよね? 見てくる!」
「あっ、おい、優!」
迷わず、一直線に走る優に緋那も少しだけ早歩きになる。そして気付く。優が入るのは女子トイレだ。中には入れないので、どのみち待っていないといけない。
ならば急ぐ必要はないと、優から目を離さずに緋那はゆっくりした足取りで公衆トイレの入口付近まで向かった。
トイレの中に入っていった優はすぐに出てきた。右横の髪には黄色の髪飾りが存在感を放っている。
「んふふ」
変な笑い声を発しながら緋那の前まで来るとぐるりと回る。
「似合ってるでしょ! 滅茶苦茶可愛い」
目を輝かせている優に緋那までつられてしまう。
「せっかく、綺麗な髪飾りをもらったから、遊具で遊ぶのは中止して、ベンチで話そう、ひなた」
「は?」
「誕生日様の言うことは、絶対だからね!」
「なんだそれは、横暴すぎるだろ」
緋那はため息をつくも、結局従ってしまう。先程まで優が座っていたベンチに戻ると一方的な優によるお話大会が開催された。