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第35話 言えない心

緋那の後ろ姿を見送って、優は小さく息を吐いた。

「言わなかっただけ、嘘はついてないよね......?」

 両手で胸を押さえながら優は微かな罪悪感を感じながら、扉を見つめる。
 本当は緋那に記憶のことを言うつもりだった。だけど緋那の顔を見たら言うのが怖くなり、話すのを未来の自分へと託してしまった。
 微かな罪悪感を覚えるも、仕方ないよねと優は自分に言い訳をする。

「ひなたのこと、覚えてる間は記憶のこと黙っていてもいいかな? ......きっとひなたにも知られたら、私は私じゃなくなる気がする」

 言葉に出すと、さらにそんな気がした。緋那は最後の砦だと優は思った。医師も看護師も、両親もすでに優の記憶に関しては全て知っている。
 だからなのか、被害妄想なのかもしれないと思うが、優には腫れ物を扱うように接されてるように感じて少し落ち着かない。

 両親に対しては忘れていることに対する罪悪感もあり、お互いに気まずさを感じているのが話していても分かる。
 緋那ともそうなるのは嫌だなと優は思う。
 今日の記憶はきっと明日には持ち越されない。優には昨日までの記憶は小4までしかない。そういうことだろうと既に朝から諦めている。

 寝たらまた、今日の優はなくなり、起きると違う優が始まる。
 いつまで繰り返すんだろうと不安になる。まだ、記憶は覚えている。でも小学生以前の記憶は曖昧だ。そこまで記憶が退化してしまったら何が残るのだろうかと優は考えてしまう。

「私は最後まで、私でいられるの......?」

 一度不安になると思考は沈む。優は自分の身体を抱きしめる。

「大丈夫。きっと、大丈夫」

 そして、自分を洗脳するかのように何度も大丈夫と小声で繰り返した。
 そうしないと、自分を維持できないそんな気がする。
 夕食の配膳で看護師が訪ねてくるまで、優はただひたすら自分に言い聞かせた。



◇◇◇◇



 12月25日、クリスマス。緋那は午前中からショッピングモールに来ていた。
 昨日の帰りに優にリクエストされたクリスマスプレゼントは買うことができなかった。だから、今日の面会の前に買って行こうと寄ったわけだ。しかし昨日と同様に何を買うかをひたすらに悩む。

 優のことだ。変なものを買おうものなら、しばらく話のネタにするのが目に見えている。
 どうしたものかとカップルの多い、ショッピングモール内を緋那は1人で歩く。
 
(いや、このカップルだらけの中で、幼馴染のプレゼント買うとかやりづらいな)

 雑貨屋を覗きながら、良さげなものを探す。

「彼女さんへのプレゼント探しですか?」

 しばらく商品を眺めていると、どこからともなく店員がやってきた。女友達へのプレゼントとは言いづらい質問に、緋那は一瞬言葉に詰まる。
 ただ、テレビか何かで嘘は少しの真実を混ぜるといいと聞いたことがあったと思い出す。

「入院している妹に、せっかくのクリスマスなので何かプレゼントでもしようかと」
「そうなんですか。妹想いのいいお兄さんですね。よかったら、一緒に探しましょうか?」
「あっ、大丈夫です。妹の好みはわかってるので」
「そうですか。何かあったら声かけてくださいね」

 営業スマイルでそう言うと店員は離れて行った。親切に対して嘘をついたことに若干、緋那の良心が痛む。
 しかし、彼女でもない同級生にクリスマスプレゼントを買うはいくら、優が家族枠だとしてもおかしいと緋那も自覚はしていた。

 早いところ買って、この謎の緊張を終わらせようと緋那は商品を見る。
 優はいまだに退院できるどころか、一時帰宅も難しそうな様子だ。となると病院にあっても邪魔にならないものがいいはずと、緋那は昨日から考えていた。
 
 店内を移動しながら、探しているとたまたま、綺麗な箱に入った花を見つけた。
 気になって見てみるとソープフラワーというもので、石鹸の素材で作られている花のようだ。
 見た目も綺麗で枯れない花、匂いも石鹸なら病室でも問題ないだろう。
 緋那は直感でこれだと思った。

 様々な色のソープフラワーから、優のイメージに合うオレンジを基調とした物を選ぶ。
 レジに向かっている最中にある物が目に入った。緋那は少し考えると、それもカゴに入れてレジに向かう。
 プレゼントのラッピングをしてもらい、一安心と店を出た。

 時間を確認するといつもの見舞いの時間まではまだ1時間ほどある。
 家に一度戻るのも面倒だと思い、緋那は覚悟を決めて、カップルだらけのフードコートに突撃することにした。

 3階にあるフードコートはお昼時を少し過ぎた為か、チラホラと空いている席はある。
 緋那は適当にファストフード店のハンバーガーセットを頼むと比較的人の少ない、1人用の席に着く。

 やはり周りはカップルが多いが、思ったよりはダメージを受けなかったことにホッとする。
 時計を確認し、優の見舞いの時間まではここで時間を潰すかと、緋那はしばらく落ち着くことにした。

 机の上に置いた優へのプレゼントを見て、無意識に笑う。
 優が満足してくれたらいいなと、ハンバーガーに齧り付いた。
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天国行きの切符作者:星川宙
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第35話 言えない心

緋那の後ろ姿を見送って、優は小さく息を吐いた。

「言わなかっただけ、嘘はついてないよね......?」

 両手で胸を押さえながら優は微かな罪悪感を感じながら、扉を見つめる。
 本当は緋那に記憶のことを言うつもりだった。だけど緋那の顔を見たら言うのが怖くなり、話すのを未来の自分へと託してしまった。
 微かな罪悪感を覚えるも、仕方ないよねと優は自分に言い訳をする。

「ひなたのこと、覚えてる間は記憶のこと黙っていてもいいかな? ......きっとひなたにも知られたら、私は私じゃなくなる気がする」

 言葉に出すと、さらにそんな気がした。緋那は最後の砦だと優は思った。医師も看護師も、両親もすでに優の記憶に関しては全て知っている。
 だからなのか、被害妄想なのかもしれないと思うが、優には腫れ物を扱うように接されてるように感じて少し落ち着かない。

 両親に対しては忘れていることに対する罪悪感もあり、お互いに気まずさを感じているのが話していても分かる。
 緋那ともそうなるのは嫌だなと優は思う。
 今日の記憶はきっと明日には持ち越されない。優には昨日までの記憶は小4までしかない。そういうことだろうと既に朝から諦めている。

 寝たらまた、今日の優はなくなり、起きると違う優が始まる。
 いつまで繰り返すんだろうと不安になる。まだ、記憶は覚えている。でも小学生以前の記憶は曖昧だ。そこまで記憶が退化してしまったら何が残るのだろうかと優は考えてしまう。

「私は最後まで、私でいられるの......?」

 一度不安になると思考は沈む。優は自分の身体を抱きしめる。

「大丈夫。きっと、大丈夫」

 そして、自分を洗脳するかのように何度も大丈夫と小声で繰り返した。
 そうしないと、自分を維持できないそんな気がする。
 夕食の配膳で看護師が訪ねてくるまで、優はただひたすら自分に言い聞かせた。



◇◇◇◇



 12月25日、クリスマス。緋那は午前中からショッピングモールに来ていた。
 昨日の帰りに優にリクエストされたクリスマスプレゼントは買うことができなかった。だから、今日の面会の前に買って行こうと寄ったわけだ。しかし昨日と同様に何を買うかをひたすらに悩む。

 優のことだ。変なものを買おうものなら、しばらく話のネタにするのが目に見えている。
 どうしたものかとカップルの多い、ショッピングモール内を緋那は1人で歩く。
 
(いや、このカップルだらけの中で、幼馴染のプレゼント買うとかやりづらいな)

 雑貨屋を覗きながら、良さげなものを探す。

「彼女さんへのプレゼント探しですか?」

 しばらく商品を眺めていると、どこからともなく店員がやってきた。女友達へのプレゼントとは言いづらい質問に、緋那は一瞬言葉に詰まる。
 ただ、テレビか何かで嘘は少しの真実を混ぜるといいと聞いたことがあったと思い出す。

「入院している妹に、せっかくのクリスマスなので何かプレゼントでもしようかと」
「そうなんですか。妹想いのいいお兄さんですね。よかったら、一緒に探しましょうか?」
「あっ、大丈夫です。妹の好みはわかってるので」
「そうですか。何かあったら声かけてくださいね」

 営業スマイルでそう言うと店員は離れて行った。親切に対して嘘をついたことに若干、緋那の良心が痛む。
 しかし、彼女でもない同級生にクリスマスプレゼントを買うはいくら、優が家族枠だとしてもおかしいと緋那も自覚はしていた。

 早いところ買って、この謎の緊張を終わらせようと緋那は商品を見る。
 優はいまだに退院できるどころか、一時帰宅も難しそうな様子だ。となると病院にあっても邪魔にならないものがいいはずと、緋那は昨日から考えていた。
 
 店内を移動しながら、探しているとたまたま、綺麗な箱に入った花を見つけた。
 気になって見てみるとソープフラワーというもので、石鹸の素材で作られている花のようだ。
 見た目も綺麗で枯れない花、匂いも石鹸なら病室でも問題ないだろう。
 緋那は直感でこれだと思った。

 様々な色のソープフラワーから、優のイメージに合うオレンジを基調とした物を選ぶ。
 レジに向かっている最中にある物が目に入った。緋那は少し考えると、それもカゴに入れてレジに向かう。
 プレゼントのラッピングをしてもらい、一安心と店を出た。

 時間を確認するといつもの見舞いの時間まではまだ1時間ほどある。
 家に一度戻るのも面倒だと思い、緋那は覚悟を決めて、カップルだらけのフードコートに突撃することにした。

 3階にあるフードコートはお昼時を少し過ぎた為か、チラホラと空いている席はある。
 緋那は適当にファストフード店のハンバーガーセットを頼むと比較的人の少ない、1人用の席に着く。

 やはり周りはカップルが多いが、思ったよりはダメージを受けなかったことにホッとする。
 時計を確認し、優の見舞いの時間まではここで時間を潰すかと、緋那はしばらく落ち着くことにした。

 机の上に置いた優へのプレゼントを見て、無意識に笑う。
 優が満足してくれたらいいなと、ハンバーガーに齧り付いた。
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天国行きの切符作者:星川宙
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