第23話 外泊許可
朝起きて、緋那はまずアプリで本日の天気を確認する。天候は晴れ。降水確率もほぼ0%。その事実にガッツポーズをする。
これで、優と流星群を見に行ける。あとは今日の優の体調と医師の判断だ。大丈夫である事を祈りながら、身支度を整える。我ながら、浮かれてるなと思いながら、準備したレジャーシートとブランケットを詰めたリュックを見る。
今日の予定は、午後に病院に行き優と一緒に医師から話や注意点を聞く。そして、一度優は自分の家に一時帰宅して、23時頃に緋那が優の家に迎えにいく。
改めて脳内で確認する。自然と口元が緩む。星を見にいくなんていつぶりだろうか。そんなことも考える。
本当に浮かれている。時計を見ると約束の時間まではまだある。どうやって時間を潰そうか? 仮眠をとるとしてもそれは夜だ。
「まあ、いいか。今日もいい日だな」
部屋の窓から外を眺めて緋那は雲ひとつない晴天に目を細めた。
◇◇◇◇
優は朝起きてノートを確認してからずっと浮き足立っていた。不安要素は数え切れないくらいある。それでも、今日は流星群を緋那と見に行く日だ。優は昔から星が好きだ。世界の広大さがわかり、自分も自分の悩みも小さなものに思えたから。この考えは小学生の時から持っている。それを思い出せて、まずはホッとする。自分はまだ全てを忘れていない。それがわかるから。
体は動かないこともなく、元気だ。今日はきっといい日。優は自然とそう思った。
「んー、今日もきっと素敵な日になる。ありがとね、過去の私」
伸びをしながら独り言が自然と溢れる。キャビネットから鏡を出して、笑顔の練習をする。表情筋は緩やかに動く。
そして鏡に映ったノートに書いてあることから予想し、また中学生までの私でもある見慣れた、文月優の笑顔を創れていることに安堵する。
それだけで、私はまだ大丈夫だと思えた。満足して鏡をしまう。
「よし、今日は長い一日になるから、ご飯もしっかり食べるぞー」
優は1人呟き、えいえいおーと掛け声をかけた。
それから、昼食の時間まではテレビを見たり、ノートによると優花が見舞いで持ってきてくれたらしい、あみぐるみを作ったりして時間を潰す。
昼食を配膳してくれた看護師が、今日の流星群楽しんできてねと笑顔で言ってくれて心が温かくなる。
昼食もいつもより美味しく感じる。
夜が楽しみだ。久しぶりに家に帰れる。部屋のレイアウトは変わってるのかな? ノートを読んだ限りだと、趣味はきっと変わっていない。
しっかりとノートに記録しないととワクワクが止まらない。一時帰宅。単語にするとそれだけだ。
しかし、優にとっては1年ぶりぐらいの帰省の感覚だ。
昼食の下膳が終わると、優は荷支度をする。といっても、ほとんど荷物はない。ノートくらいしか思いつかなかったが。
そして、1時頃に緋那が見舞いに来た。
「よお、優。調子はどうだ?」
「バッチリだよ! なんて言ったって今日はお楽しみの流星群! 晴れ女の私がいるんだから、当然天気は晴れ! きっと雲ひとつないよっ」
緋那に笑顔で答える。心なしか緋那も嬉しそうで優の心も温かくなる。主治医が来るまで、くだらない話で盛り上がる。ノートを読んでいるとはいえ、まだ緋那と会話が盛り上がる。緋那を振り回せている。その事実が嬉しい。
緋那と話していると自分が自分でいられる、そう思えた。
しばらくすると、ノックと共に主治医が入ってきた。看護師が朝測ったバイタルと現在の様子を確認される。緋那は優の後ろでそれを黙って聞いていた。
そして、主治医はチラリと緋那を見る。
「今日の夜の件だけど、体調的には大丈夫。でも、あまり無理はさせないでね。何かあったら病院にすぐに連絡。いいね?」
「はい、わかっています」
緋那は真剣な表情で答える。それを聞き、主治医は頷くと、柔らかい笑みを浮かべた。
「文月さん、久しぶりの外出だから無理はしないでね。それと、流星群楽しんでおいで」
「先生、ありがとう!」
主治医は忙しいのか、そのまますぐに退室した。付き添っていた看護師も楽しんできてねと手を振って後に続く。
「よかったな」
「うん!」
緋那と自然とハイタッチをする。荷支度も無駄にならなくて良かったと優は内心で安堵した。
「2時過ぎにおばさん達迎えに来るんだったっけ?」
「うん! お母さんが来てくれるって」
「そうか。なら、俺は一旦帰るな」
時計を見て緋那はそう言った。せっかくならお母さん達にも会っていけばいいのにと思ったけど、きっと優の知らない事情があるのだろうと言葉を飲み込む。
「はーい、また夜にね」
「ああ、一応メッセは送るけど23時に外に来てくれると嬉しい。何か夜食いるか?」
「えっ? ひなた作ってくれるの?」
「作んねーよ。家庭科の授業でしか料理したことねえーわ」
「えー、ケチ」
「入院してるやつに、変なもん食わせるわけにはいけないだろ!」
怒る緋那をみて、優は笑う。きっと、この後に買い出しにでも行くつもりなんだろう。でも、特に食べたいものは浮かばなかった。だから、本心を伝える。
「おまかせで! ひなたのセンスにかかっているよ?」
「変にハードル上げんなよ。気分と違うって文句は受け付けねーからな!」
そう言って緋那も病室から出ていった。それを確認し、優はベッドにダイブする。そして、手足をバタバタと動かした。
「流星群、流星。願えば何かが変わるかな......」
喜びの中に一縷の望みを潜ませて、優は母親の迎えをのんびりと待った。