④ 酒井弓子の場合(卒業式の再会)
体育館で「仰げば尊し」を歌いながら、弓子は、これまでの事を思い返していた。
「色々と不本意な事はあったけど、終わり良ければ全て良し、よねえ」
一年生の間は、わりと授業にも出られたし、基礎学力も身についた。
二年生の間は、ほぼ毎日の時間を、病気療養のために費やした。
それでも、病室での毎日の自習は欠かさなかった。
三年生の二学期には授業に復帰して、その時の成績をもとに、私立推薦受験に間に合った。
4月からは、晴れて桃花学園の高校生だ。
女子だらけの3年間は ちょっと不安だけど、何とかなるだろう。
まあ、心残りは雪村君の事だけど、村田さんからヘンな釘を刺されちゃったし、しばらくは、様子を見た方がいいかもね。
卒業式が終わって教室に戻ると、担任の先生から通知表を受け取る。
案の定、最後の成績は散々だ。一学期の成績も加味されるから仕方ない。
過ぎたことはくよくよせず、次は大学受験まで頑張るだけだ。
そう思う弓子だった。
南の通用門を出て帰り道に差し掛かると、左手の丁田山公園から人影が現れた。
去年病室にやって来た、他校のセーラー服の、あの少女だ。
今、あらためて彼女の着衣を見ると、朝日ヶ丘高校の制服に似ている。それに、自分より少し年上かもしれない。
「お久しぶり。すっかり元気そうで何よりね。あと、卒業と、高校合格おめでとう」
快活に彼女は声をかけてきた。
「ありがとうございます」と、つい敬語になってしまう弓子。
「すっかり元気になっていたって、あとで私の弟にも報告しておくわね」
「あの、弟さんてもしかしたら......」
「......雪村よ」
彼女は事も無げに言った。
「ああ、やっぱり」
「今さら隠すことも無いかなって」
「......そうなんですね?」
「ちなみに私の名前は雪子。空から降る雪に子どもの子」
「ソレも聞いて大丈夫なんですね?」
「うん、でもすぐに忘れて。覚えていると、後でイロイロと面倒な事に巻き込まれるかもよ」
「......実はもう先日、巻き込まれまして」
「村田京子に、何か言われたのかな?」
「雪子さんは、何でもお見通しみたいですね」
「この時空の事は、すっかり観測してしまったからねえ」
「???」
「あ、いいの、いいの。細かいことは気にしないで......それより、京子さんが何を言おうと、アナタの好きにしたらいいと思うわ。困ったら、少しぐらいなら助けてあげても良くってよ。」
「それなんですけど、わたしのチカラは攻撃的なものではないので、何かあった時に雪村君を守れません」
「......そう。今のままではね」
「でも、村田さんからは、何か底知れないエネルギーを感じました」
「だから、譲るの?」
「......今のところは」
「......そう。まあそれも、いいかもね」
「彼女のチカラは、強力な氷雪系。冷気を操るものよ。私の名前は雪子だけど、そういう意味では、彼女の方がよほど雪女に近い存在よね」
「......」
「まあ、ぶっちゃけた話、私にも同等以上のことはできるのだけど、コントロールや微調整ってヤツが難しいのよ......この時空に、気候変動を起こしたくないからね」
「......気候変動?」
「とにかく、この先も健康に気をつけて、お元気で。私はいつでも、アナタの味方よ!」
そう言うと、雪子さんはまた、丁田山公園に去って行ったのだった。
コレが1980年の3月某日の事である。