ホーム›彼女たちはモブじゃない!(セーラー服と雪女 第一部②)›⑤ 村田京子の場合(オレンジジュース)
← 次の話目次前の話 →

⑤ 村田京子の場合(オレンジジュース)

 小学三年生の村田京子は、すっかり落ち込んでいた。
 と言うのも、つい先日、愛犬コロを亡くした上に、3月いっぱいで、今の一宮市の家から引っ越す事も決まったからなのである。

 小学校入学時から仲良くして来た、友だちと離れ離れになるのは、とても寂しい。
 あれやあこれやで、寂しいの二乗である。

 自室で落ち込んで泣いていると、お母様が、オレンジジュースを差し入れしてくれた。
 それはもちろん、京子の好物であったが、心は晴れない。

 その猛烈に寂しい気持ちのまま、なんとなくジュースのグラスを手に取ると、一瞬にしてソレが凍ってしまったのだった。

 京子は最初、何が起こったのか理解できなかった。
 しかし、試しにグラスを逆さまにしても、中身はこぼれない。
 ソレは、完全に凍りついていた。

「コレは何?一体何だって言うの?」
 グラスをテーブルに戻し、しばらく見ていると、ジュースが溶け始めた。
 もう一度、グラスを握る。
 今度は何も起きない。

「......気のせいだったのかしら?」
 ジュースを飲み終わると、部屋を出て階下に行った。
 台所でグラスを洗いながら、可愛いコロのことをつい思い出してしまう。
 するとまた、洗っていた水がグラスの中で瞬時に凍りついた。

「わあっ!」
 驚いて、シンクにグラスを落としてしまった。
 今度こそ、気のせいではない。

「どうかしたの?」
 リビングに居たお母様が、京子の大声に、心配してやって来た。

 お母様が、凍ったグラスに気がつく。
 すると、さして驚くことも無く、静かに京子に話しかけた。
「やはり、アナタにも現れたのね」
「......!?」

「そのチカラは隔世遺伝なのよ。だから同じモノが、おばあ様にもある......この冬休みに、京都の私の実家に行って、おばあ様から、チカラの使い方を学ぶといいわ。大丈夫。コントロールさえ上手くなれば、案外便利なモノらしいわよ」
「......そうなの?」

 突然のことに、京子は半笑い、半泣きである。
「でも、これじゃあまるで、雪女みたいじゃない。なんだか自分が怖い......」
「失礼ね。ウチの家系は、れっきとしたニンゲンよ!」
 お母様が、冗談めかして怒った表情を作る。

「とにかく、引っ越しの準備はまだ先だから、必ずお正月に行ってらっしゃい。いいわね?」
 お母様に半ば強引に予定を決められ、京子はしぶしぶ、祖母に会いに行く事となったのだ。

「おばあ様、昔から、なんとなく冷たい雰囲気がして、怖くて苦手なんだよなあ」
 京子は、まだ気が進まないのであった。

 コレが1973年12月某日の事である。
シェア
前の話 →
④ 酒井弓子の場合(卒業式の再会)
← 次の話
⑥ 村田京子の場合(京都のお屋敷)
彼女たちはモブじゃない!(セーラー服と雪女 第一部②)作者:サナダムシオ
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

⑤ 村田京子の場合(オレンジジュース)

 小学三年生の村田京子は、すっかり落ち込んでいた。
 と言うのも、つい先日、愛犬コロを亡くした上に、3月いっぱいで、今の一宮市の家から引っ越す事も決まったからなのである。

 小学校入学時から仲良くして来た、友だちと離れ離れになるのは、とても寂しい。
 あれやあこれやで、寂しいの二乗である。

 自室で落ち込んで泣いていると、お母様が、オレンジジュースを差し入れしてくれた。
 それはもちろん、京子の好物であったが、心は晴れない。

 その猛烈に寂しい気持ちのまま、なんとなくジュースのグラスを手に取ると、一瞬にしてソレが凍ってしまったのだった。

 京子は最初、何が起こったのか理解できなかった。
 しかし、試しにグラスを逆さまにしても、中身はこぼれない。
 ソレは、完全に凍りついていた。

「コレは何?一体何だって言うの?」
 グラスをテーブルに戻し、しばらく見ていると、ジュースが溶け始めた。
 もう一度、グラスを握る。
 今度は何も起きない。

「......気のせいだったのかしら?」
 ジュースを飲み終わると、部屋を出て階下に行った。
 台所でグラスを洗いながら、可愛いコロのことをつい思い出してしまう。
 するとまた、洗っていた水がグラスの中で瞬時に凍りついた。

「わあっ!」
 驚いて、シンクにグラスを落としてしまった。
 今度こそ、気のせいではない。

「どうかしたの?」
 リビングに居たお母様が、京子の大声に、心配してやって来た。

 お母様が、凍ったグラスに気がつく。
 すると、さして驚くことも無く、静かに京子に話しかけた。
「やはり、アナタにも現れたのね」
「......!?」

「そのチカラは隔世遺伝なのよ。だから同じモノが、おばあ様にもある......この冬休みに、京都の私の実家に行って、おばあ様から、チカラの使い方を学ぶといいわ。大丈夫。コントロールさえ上手くなれば、案外便利なモノらしいわよ」
「......そうなの?」

 突然のことに、京子は半笑い、半泣きである。
「でも、これじゃあまるで、雪女みたいじゃない。なんだか自分が怖い......」
「失礼ね。ウチの家系は、れっきとしたニンゲンよ!」
 お母様が、冗談めかして怒った表情を作る。

「とにかく、引っ越しの準備はまだ先だから、必ずお正月に行ってらっしゃい。いいわね?」
 お母様に半ば強引に予定を決められ、京子はしぶしぶ、祖母に会いに行く事となったのだ。

「おばあ様、昔から、なんとなく冷たい雰囲気がして、怖くて苦手なんだよなあ」
 京子は、まだ気が進まないのであった。

 コレが1973年12月某日の事である。
シェア
次の話⑥ 村田京子の場合(京都のお屋敷)
彼女たちはモブじゃない!(セーラー服と雪女 第一部②)作者:サナダムシオ
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません